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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
22/59

無言の目覚め

 突然すぎて、そして何よりあまりにも自然すぎて、手にしているフィギライトの覚醒にワンテンポ遅れて気付いた英也。

 目を閉じて数秒深呼吸。開く。フィギライトは白かった。

「マジか……」

 『覚醒』という仰々しい言葉から、勝手に派手な演出を想像していた英也にとって、これは少しショックですらある状況だった。

「あ、とりあえず連絡しないとだよね」

 呆気にとられすぎて黒野への連絡すら頭から離れてしまっていた。

「……あ、黒野くん、今大丈夫?」

「うん。つ、ついさっき一息ついたところだから、大丈夫だよ。ど、どうしたの?」

 病室で堂々と歴史について話し合っていた彼はいつもの調子に戻っていた。

「えーと、僕もちょっと混乱気味なんだけどさ」

 英也は手にしたままの白いペンを見つめながら話し始める。

「混乱?ま、まさか、あの人たちが!?」

「あぁ、いや、違うよ。そっちじゃなくて」

 冷静に考えれば「フィギライトが覚醒した」と言えば済む話なのだが、今の英也の頭からはそれがすっかり抜けてしまっていた。

「えーと、白くなった」

「……?」

 黒野の反応は妥当だ。

 これまで黒野が説明にテンパっていたが、ここに来て英也も痛感する。

「あ、ごめん。ちょっとだけ頭整理させて」

「う、うん」

 耳からデバイスを離して一呼吸置き、脳内で状況を分析する。

「ごめんね、なんか突然のことで頭回らなくなっちゃって」

「だ、大丈夫だよ。それで、混乱っていうのは……?」

 英也は白いフィギライトに視線を向けながら伝えた。

「フィギライト、覚醒したみたい」

「……なんと」

 黒野も掛ける言葉を上手く出てこなくなった。

「すごく、いや、微妙というか……。覚醒ってもっとこう、ピカーッて光ってからのバーン!みたいな派手な演出だったりするのかなって思ってたから、なんか逆に驚いちゃって」

 英也は自身が思い描いていた理想の覚醒について口にする。

「……え、違ったの?」

「え?」

 黒野からそうではなかったのかと問われてしまった。

「いや……、うん。全然違ったよ。気付いたら手に握ってたフィギライトが真っ白になってた」

 通話の向こうから声がなくなった。

「黒野くん?」

「……ち、ちょっと待ってね」

「あ、う、うん」

 無言の通話になる数分間。

「ご、ごめん、お待たせ」

 何かを探していたのか、少し遠くから黒野の声がフェードインしてきた。

「えーと、光ったり、魔法陣みたいなのが出たりすることもなく、ふと気付いたら色が着いていたってことで合ってる?」

 英也は状況を思い返し、合致していることを伝える。

「……」

 再び無言になる黒野。

 紙の資料のようなものをめくる音だけが聞こえてくる。

「そんな……。でも、まさか……」

 何か信じ難いことに通じているのだろうか。

 黒野が漏らす声には驚嘆と戦慄が練り込まれている。

「え、えーと、それじゃあ、なんだけど」

 黒野は会話用の声量で前置きをする。

「うん。何だい?」

 英也も聞き入れる姿勢を見せる。

「……コホン。『レーシェ』」

 黒野は突然意味不明な発言をする。

 当然、英也も「どうしたの?」と聞き返そうとしたのだが。

「『フィアルゼ』」

 その口から出てきた言葉は英也自身も理解していない、呪文のような単語だった。


 グェンと将斗は応接室に戻る道中で、丁度出掛けようとしていたカフに会った。

「グェン、無事でしたか」

「……あぁ」

 エスカとの戦いに顔を出すことのなかったカフに心配され、少し不機嫌に答えるグェン。

「ん?どこか行くの?」

 将斗がカフの格好を見て言う。

 『いつもの』グレーのスーツではなく淡い黄色のスーツに身を包んだカフは、帽子を手にしたまま視線を窓の方へと向ける。

「シェトマとの約束を果たしに、これから」

 その視線の方角には、襲撃を実行した高校がある。

「……はぁ。食事の暇もねーのか」

 応接室に乱雑に押し入ったかと思えばすぐにボロボロのジャケットを脱ぎ捨てて別のジャケットを羽織るグェン。

 近くの棚から三つのゼリー飲料を手に取り、二つを将斗に向けて投げる。

「わわっ、危ないよ」

「るせぇ、さっさとそれ飲んで行くぞ」

 将斗は受け取ったゼリーを一つカフに渡す。

「……フフ」

 それを受け取りつつ微笑むカフ。

 無造作に潰された中身のないゼリー飲料のゴミを三つ残して、応接室は口を噤んだ。


 スーパーから家に帰る無相。

 何か忘れているような気がしてならなかった。

 ティーラスのアイシアに会ったのは偶然のことであり、そこで話したことも大した内容ではない。

 いや、大した問題ではあるのだが、今の彼にとってはそこまで重要ではない。

「うーーーん」

 悩みの挙句唸り声が出てしまう。

 しかし、思い出せないものは思い出せない。

 そうこうしているうちに自宅に到着した。

 玄関を開け、靴を脱ぎ、自分の部屋に向かい、ドアを開け──着信中のスマホに気付いた。

「……あ」

 通話に出ようと手に取るが、運悪く切れてしまった。

「……」

 ここ数十分間の着信履歴が表示される画面。

 その数、十件以上。

「あらま」

 流石の無相も悪いなと思い掛け直そうとしたところで、再び鳴り響く着信。

 今度は通話に出ることが出来た。

「あ、ごめん。忘れてた」

「おいおいおい、忘れんなよなぁ!何かあったんじゃないかって心配したろーが!」

 相手は怒っているというよりは慌てている様子。

「ちょっと物資の調達に行ってた」

 手元に置いたお茶を見る無相。

 それに貼られている店のシールが視界に入る。

「あ、そうだ。アイス?だったかな。会った」

「アイス?物資はアイスだったってことか?」

「いや、ティーラスの」

「……あー、アイシアか」

 通話の相手は無相とティーラスのことについて知見がある者だ。

「しばらくは見張ってくれるってさ」

 文脈を一切説明しない無相。

 しかし、相手はそれを軽々と受け入れる。

「見張るって……なるほど。そういうことね。真治だけじゃやっぱ難しかったってことか」

「……」

「まぁ、それはいいとしてだ。拓磨くんよォ、約束くらいは覚えててくれよな」

「うーん、すまん」

 無相は頬を掻きながら謝る。

「明日からリモート授業なんだろ?」

「あぁ。準備が分からない」

「分かってる。もう外にいる」

「ん?」

 無相は玄関に向かい、扉を開ける。

「よう。久しぶり」

 スマホの通話を切りつつ、ラフに挨拶する男子高校生。

「お、おう」

 無相もどこか嬉しそうにそう返した。


 緑川宅。

 自分の部屋に入るなり、両肩をすとんと落としてカバンを床に落とす緑川。

 手に持っているスマホだけは離さずにそのままふかふかのベッドにダイブする。

「疲れたぁ」

 ふにゃふにゃになった声をあげてスマホを眺める。

「あ、そうだ準備しなきゃ」

 カバンからタブレットを取り出して電源を入れる。

「……あちゃー、ネット設定いるじゃん!こりゃあパピー待ちですにゃあ」

 どうやら緑川家では父親が自宅のネットを管理しているようだ。

「そんじゃあ何しよーかなぁ」

カバンからお菓子やら鏡やらポーチやらを次々と取り出す。

「あ……」

 カバンに入っているフィギライトを見つけて手が止まった。

「なんかテスト中?らしいけど」

 フィギライトをくるくると回しながら見つめる緑川。

「うーん、ダメじゃあー」

 右手にフィギライトを持ったままベッドの上で大の字になり、昨日今日で起きたこと、知ったことを頭の中で思い返す。

 落ち込んでいた海花を連れ出して男子たちを探しに向かい、よく分からない変な組織との争いに首を突っ込み……。

「そんでこれだもんにゃあ」

 フィギライトを天井に掲げて眺める。

 しかし、思い出していたのはそれだけではなかった。

 気を失っていた鉄仁、腕に無理をさせていた英也、英也や鉄仁に合わせようと必死になっていた海花。

「やれること、あるかな」

 緑川は身体を起こして机に向かった。

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