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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
17/59

絶望への刺客

 無相は祭壇から屋上へと足を運んでいた。

「重い」

 祭壇に出入りするための石の扉は、トレーニングジムよりも無慈悲に体力を奪う。

 独り言を呟いてしまうほどにはきつい運動だ。

 照りつける日差しを浴びながら屋上を移動する。

 壊れたフェンスが視界に入る。

「……」

 屋上からひっそりと階段を下る。

 教師たちがいないことを見計らって廊下に出る。

 リモート授業になったため、この時間に校内にいる所を見つかると色々と面倒だ。

 可能な限り足音をたてないように気を配りながら、ようやく靴を履き替えることに成功した。

「無相?今帰りか」

「!」

 無相は緊張感と驚きのあまり飛び跳ねてしまった。

「あ、いや、すまんすまん。驚かそうと思ってたわけじゃないんだ」

 担任教師だった。

「あ……。帰り、です」

 祭壇から出るところを見られなかっただけまだまし、と考えて答える無相。

「こんな時間までどこにいたのかは知らないが、もうみんな帰ったぞ。お前も早く帰宅するように」

 担任も長話や説教をするつもりはないらしい。

「はい」

 無相は素直に返答して校門へと向かう。

 その後ろ姿を見ながら、担任は手元の資料を確認する。

「これで全員だな」

 名簿にチェックを入れて職員室へと戻っていった。


 何かの重機、あるいは爆発で抉れたような廊下の床。

 いくら廃校舎で整備されていないとは言え、そう簡単にこんな状態にはなり得ない。

 グェンは土煙を払いながら床の損傷が酷い方へと歩みを進める。

「お、おい、ボス」

 呼んでみるが、返答はない。

 しかし、返事の代わりに、グェンの視界にキラリと光るものが入った。

「なんだ?」

 触れようとして指を近付けた瞬間。

 光源は不意に動きを見せた。

 あたりに舞っていた塵がようやく落ち着く。

 そこには元々あったはずの床はなく、地盤が剥き出しになり、折れ曲がった鉄筋が姿を見せていた。

「……は?」

 何が起きたのかを脳が理解しようとしない。

 惨状の中、堂々と立ったままの女性。

 至る所が破け、様々な破片などで汚れたボロボロのスーツに身を包んだ、瀕死のシェトマ。

 周囲の教室だったと思しき空間には、粉々に砕かれたガラス片とコンクリート片が無造作に敷き詰められている。

「あら」

 場にそぐわず目を細めて優し気な表情を見せる詩音は、グェンに一歩一歩近付いていく。

「お、おい……。冗談だろ……?」

 グェンが追いかけていた光源──短剣の先端は、再びグェンの瞳に狙いを定める。

「ふふふ」

 詩音は笑う。

 しかし、彼女は何をすることもなく短剣を懐にしまう。

 グェンはパニックの中で状況を整理できずにいた。

 詩音はくるりと踵を返す。

「まずは、彼」

 鼻歌でも歌いそうなほどの余裕を見せ、立ち上がることすら困難なシェトマに歩み寄る詩音。

「ま、待て!おい!何だってんだてめぇ!」

 グェンは叫ぶ。

 心のどこかでまだ信じていた詩音という存在。

 それが一滴残らず空になった瞬間でもあった。

「……あぁ。私としたことが、名乗りもせず申し訳ありません」

 詩音だった者は、足元に転がっている赤い銃を踏み、赤い短剣を取り出す。

「慈善団体『ミチビキ』、第4のテーマ。『エスカ』とお呼び下さい」


「試験中のものをいきなり渡すのは、あまり推奨された行為ではない」

 カーテンで外部からの目も遮断した病院の一室で、竜の姿をした存在、ラペは黒野が手にしている灰色のフィギライトを指して言う。

「え、こ、これが、もう試験中?」

 フィギライトを渡そうとしていた手を止める黒野。

 灰色二本のフィギライトを見るが、その見た目からは違いが分からない。

「わ、なになに?それくれんの?あざまる!」

「あっ、ちょ、ちょっと」

「……ほう」

 黒野の手に握られているフィギライトを見つけ、英也や鉄仁のと同じものだと気付いた緑川。

 高いテンションのまま、黒野の手から一本掻っ攫う。

「だ、ダメだよ、えーと……」

「緑川衣奈、えなちゃんですよっ!いーじゃん減るもんじゃ……あ、減っちゃうのか。ありゃ、ご、ごめん」

 自己完結した緑川は手に取ったフィギライトを素直に返そうとした。

「……待て」

 しかし、黒野が緑川からフィギライトを受け取ろうとしたところでラペが返却を止めた。

「ど、どうしたの?」

「一つ聞かせてもらいたい。色無しの考えていることが分かるかもしれん」

「む、無相くんの……?」

「ん?んんん?どゆこと?」

 緑川を放置して話を進める二名。

「緑川と言ったな。お前、今何故フィギライトを手にしようと思った?」

 ラペが初めて黒野以外に声を掛けた。

「え?これあればウチもみんなの仲間入りじゃん?」

「俺が聞いているのは『何故仲間になりたいか』だ」

 緑川の軽やかな回答から本質を引き出そうとするラペ。

 ただ、緑川はこの手の感覚に頼ることの出来ない質問に戸惑っているようだ。

「んー、うーん……」

 数秒間唸りながら悩み、「あっ!」と何かに辿り着いたような顔になった。

「ウチ、みんなを助けられるよ!そこそこ色々知ってっし?なんならひでっちの左腕、あーしが診たげよっか」

「えっ」

 唐突に巻き込まれる英也。しかし、緑川の言葉は適当ではない。

 将斗の前で慣れない体勢のままコーヒーカップを持ち続けていたからか、左腕にまだ少しだけ違和感が残っていることを当てられた。

「ど、どうしてそれを」

「鉄ちゃん背負う時も黒野っちの手を借りてたしー、あとはまぁ、ウチのチャーミングでばっちりのこの目っしょ。誤魔化せないぞー?」

 緑川はパチっとウインクを決める。

 一同はその観察眼に感心する。

「ふ、ハハハっ!なるほどなるほど、面白い」

 ラペは大口を開けて笑い、そして頷いた。

「クロ。良い候補を見つけたな」

「う、うん。まだどうなるか分からないけど……。これ以上の適任は、いないと思ってる」

 褒められた黒野は少し嬉しそうに頬を掻く。

 そして手元に残った最後の一つを海花に手渡した。

「よし、そ、それじゃあ、はい。こ、これは青井さんの」

「えっ、私もいいの?」

 流れとしては来るだろうと分かっていながらも、改めて渡されてどこか嬉しそうな海花。

 フィギライトを舐め回すように眺め始める。

「こ、これで、僕が見つけたみんなには、渡し終えたよ」

「そうだな。あとは彼らと合流すれば、すべてが揃う」

「そっちも、もう渡し終えてたんだね」

「あぁ。残りの二人は丁度先日試験を終えたところだ」

 黒野とラペは二人で会話を進める。

 他の四人はそれぞれ自分のフィギライトを手にしながらそれぞれを見比べていた。

「むむー?違いある?これ」

「さっぱり分からんなぁ」

「でも、これが自分のだっていうのは何故か分かるんだよね」

「ほ、本当だ……。貰ったばかりの海花ちゃんにも分かるよ!」

 灰色の四本。

 今まで感じたことのない感覚。

 海花と緑川も、英也や鉄仁のときのように自分の手にあるフィギライトだけが特別に見えているようだ。

「ま、これが『覚醒』すりゃあ、黒野のみたいに色が付いたりするんだろうけどな」

 鉄仁が黒野の手に握られているフィギライトを見て言った。

 それを耳にした黒野は驚く。

「き、黄瀬くん、知ってたの?」

「あ、いや、やつらの銃も色が付いてたし、そうなるのかなと思ってだな……」

 黒野のフィギライトをイタい趣味と勘違いしたことを思い出す鉄仁。

「ということは、覚醒で色が変わる、つまりシェトマが黒野くんをすぐに覚醒済みだって分かったのはそういうことだったんだね」

 納得する英也。

「す、すごいや……。そんなところまで……」

 黒野は静かに驚きつつ、そして理解してもらえていることに喜んでいた。

「でも、黒野くんがさっきから話してる試験っていうのは、覚醒とは違うんだよね」

 英也が気付いたことを口にする。

「覚醒の方法やタイミングは分からないって言ってたし」

「あ、確かに。なぁ黒野、試験と覚醒って、どう違うんだ?」

 英也と鉄仁の問い。黒野は目を見開いてラペを見る。

「……クロ。こいつらはお前同等か、あるいはお前より……」

「そ、そうだね……。正直なところ、僕も今、同じことを思ったよ」

 そして、英也と鉄仁の質問にラペが回答する。

「なかなか良い頭を持っているな。そうだな……。簡単に言うなれば、『フィギライトに認められる』のが覚醒。そして、『神々と契約する』ためのものが試験だ」

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