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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
15/59

試験準備

 鉄仁は病院のベッドに寝かされていた。

「……暇だな」

 突然巻き込まれた事件で一人だけ負傷した鉄仁。

 一人きりの病室の天井や壁を眺めて眉を寄せる。

 今もなお手に握ったままのフィギライトに目をやる。

「フィギライト、ねぇ」

 実のところ、鉄仁はまだフィギライトに対して理解を示せていない。

 しかし、目の前で起きた常軌を逸する現象は否定できるものではなかったし、フィギライトそのものがどういう物質で構成されているのもなのかが分からない以上、今はただ「すごいアイテム」として処理するしかないのだ。

 診てもらった医師によれば、内出血が少し酷いものの、特に命に別条はないとのことだった。

 今も腹部に残る衝撃の感覚。

 患部の上に手を置いて少し押してみる。

「……意外と痛くないな」

 フィギライトの攻撃は外傷を与えないのか。それともあの攻撃が特殊なのだろうか。

 鉄仁は持て余している時間で情報整理を行うことにした。

 病室のドアが開くのはそれから少ししてのことだった。


 応接室で手紙を書き終えたシェトマは、室内を見回してから机に備え付けの鍵付きの引き出しを開けた。

 そこから一枚の紙を取り出して手紙を入れた封筒に同封する。

「グェン、行きますよ」

 声は虚空に消える。一人の応接室は反響すらない。

「おや……。私としたことが、歩調を誤りましたね」

 内心に抱く動揺と哀しみ、そして絶望感をぐっと押し留める。

 上着をハンガーから外し、右腕に掛けて持つ。

 外出時には欠かさない帽子を忘れそうになり、廊下に出かかった足を引っ込める。

「……」

 身だしなみを軽く整えて階段まで歩みを進める。

「あ?ボス、どこか行くのか」

 丁度三階から降りて来たグェンとカフ、そして将斗。

「……あ、あぁ、ええ。これから『これ』を渡しに向かおうかと」

 その言葉を聞いて真っ先に反応したのはカフだった。

「それはそれは。随分と焦りすぎているように見えますが?」

 シェトマの手に握られている封筒に目を向ける。

「ボス」

 カフは静かに首を横に振った。

 しかしシェトマは受け入れない。

「君は知っているはずだ、カフ。この計画にかけられる時間はそう長くない」

「承知の上でなお尚早かと」

「……」

 カフとシェトマの意見が食い違う。

 その中で、グェンが自身の髪を掻き乱して踵を返した。

「考えがあんだろ。下で待ってる」

 グェンの行動に驚く両名。将斗は我関せずといったように一人応接室に向かっている。

 二人になったシェトマとカフは互いにため息を吐いて苦笑した。

「こんなにいい仲間、そうそういないぞ?」

 茶化すようなカフのセリフに、シェトマも頷いて応える。

「あぁ。そうだな」

 そしてカフはシェトマの右肩を手で軽く二度叩いてその場から歩き出した。

「『仲間』……そうですね。これ以上は失いたくないものです」

 シェトマも行動を開始した。


 病院に到着した英也たち四人。

「ハロハローお姉!」

 突然声を出したのは緑川。

 彼女が挨拶した相手を見る三人。そこには白衣に身を包んだ美人が立っていた。

「あら、衣奈ちゃん?学校はどうしたの」

 どうやら知り合いの様子。

「んー、なんかないなった」

「なくなるわけないでしょ」

「ホントだってば!ねね、そうだよねひでっち」

 突然見知らぬ人との会話に投げ込まれた英也。

「え……あ」

 唐突すぎて言葉が上手く出せない。

「あぁ!ひでっち、さてはフォーリンラブ?」

 緑川がサラッととんでもないことを言い出す。

 言葉が咄嗟に出てこないのを一目惚れと捉えてからかっているようだ。

「あ、いや!そういうわけじゃ」

「英也くん?」

 英也の背後から冷たい針のような一言が放たれた。

「ちが、違うよ!?本当に!」

 海花の目は不審者を見るそれになっている。

「白道くん、大人な人がタイプなんだね」

 まさかの黒野まで参戦。

「違うって!僕はもう」

 言いかけてものすごい墓穴を掘っていることに気付く。

「『僕はもう』何でしょー?」

 緑川は聞き逃さなかった。

 耳に手を当ててぐいぐいと寄ってくる。

 海花も興味津々な様子で英也をじっと見つめる。

「そ、そんなことより!鉄仁のお見舞いに来たんだよね!」

「逸らした」

「逸らしたね」

「逸らすんだ」

「若いねぇ」

 その場の全員から視線を浴びて逃げる英也。

 タブレット端末を取り出して白衣の女性に見せる。

「あの、病院の方……ですよね。これ、病院内で使っても大丈夫かでしょうか?昨日ここに運ばれて来たクラスメイトに渡す予定で」

 女性はタブレットを軽く操作して頷く。

「あぁ、このタイプのやつなら大丈夫よ。昨日運ばれたってことは、黄瀬さんのお見舞いね」

 どうやら話は早いようだ。

「ど?ど?すごいっしょ」

 何故か得意げな緑川。

 英也や海花、黒野にその女性を自慢する。

「衣奈ちゃんやめてよー、そんなにすごくないわよ。衣奈ちゃんの方が私よりずっと色々知っているじゃない」

「そ、そーかなー?」

 でへへ……と照れる緑川。

 そして白衣の女性から鉄仁のいる病室を聞き、四人はその場を後にした。

「さっきの人、衣奈ちゃんのお姉さんなの?」

 病棟を移動中、緑川以外が気になっていたことを海花が質問する。

「あ!そっか忘れててぴえん。そだよ、お姉はあーしのお姉ちゃん!」

 三人とも意外そうな表情で緑川を見る。

「あ、テン上げみ不足丸って思ったっしょ」

「いや、そんなことはないけど」

「そうそう!そんなことないない」

 英也と海花が取り繕うように謎のフォローを入れる。

「いーのいーの。ウチはウチ。お姉はお姉だもん」

 いつものようにキラッと笑う緑川。

 まるで分け与えられたかのように思わず三人も笑顔になる。

「ほらほら、鉄ちゃんルーム着いたよ」

 そして気が付けば鉄仁のいる病室に到着していた。


 この世界に存在するとある場所にて。

「ラペくんはまだ戻って来てないけど、みんなには共有するよー」

 ハードレム・スレイク経由で無相から知り得た情報を展開するキャレル。

「重要事項か」

「そうだねぇ。めっちゃ重要」

 気の抜けるようなキャレルの雰囲気はいつものことなのでスルーされている。

「特にクアロスくん、君にはよーく聞いてて欲しいな」

「……」

「じゃあ発表しまーす!」

 まるで祝い事のようにもったいつけるキャレル。

 しかし聞く側はクアロスと呼ばれた存在への発言で、内容についてある程度予想が出来ていた。

「『試験』、開催です!」

 瞬間、その場のメンバーは「とうとう来たか」と情報を受け入れた。

 ……クアロスを除いて。

 メンバーの一人がキャレルに質問する。

「キャレル、ラペの次は誰になる?」

「あー、なんかよく分かんないんだけど、あたしだって」

「なッ!?お、お前なのか」

 想定外だったらしい。

「あたしもびっくり。てっきりフォルゼくんあたりだと思ってたから」

「ワシもだ。しかし、キャレルを選定したということは、戦力が欲しいというよりは防衛に注力したいということなのだろう。あの色無しならそう考えるのも理解できる」

「そういえば『試験』免除になったやつはどうなったんだ?」

「あー、ペルデくんの。どうだろう……連絡ないねぇ」

「騒がしくなりそうだ」

 キャレルとその周りのものたちは『試験』に向けて準備に取り掛かった。

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