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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
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邂逅と対話

「黒野くん?それ、フィギライトだけど……」

 フィギライトに話し始めた黒野に対し、英也は念のために確認する。

 いくらフィギライトがすごいアイテムだとしても、話し相手にするのは色々問題がありそうな気がする。

「あ、う、うん。そうだね」

 どうやら正気ではあるらしい。

「えーと……だ、大丈夫?」

 思わず心配になってしまう英也。

 周囲を見渡し、変な人たちだと思われないかと気にする。

 海花も同じく怪訝な様子。緑川は頭に人差し指を当てて「激似な症例あったよーな……」と知識を探索している。

 しかし、そんな状況は一変した。

「クロ、ナイスタイミングだ。よくぞ呼び出してくれた」

 突如、フィギライトから声がした。

「ええぇぇぇぇーーー!?」

「な、なに、それ!?」

「すっごーっ!黒野っちちょー凄いじゃん!なにそれマジシャン的な?」

 三者とも驚いて大声を出してしまった。

「ん?お、おい、クロ。そこに誰かいるのか?……まさか俺の声、聞かれてたりしてるんじゃないだろうな?」

「……ごめん、聞かれてる」

「なッッ!?ちょ、ちょっと待て。お前以外に『覚醒』した奴がいるなんてまだ聞いてないぞ!」

 英也たち三人を置いたままフィギライトと会話を続ける黒野。

「うん。まだ『覚醒』してないし、フィギライトすら持ってない人も……」

「ば、馬鹿野郎!今すぐ殴るなり眠らせるなりして記憶から消させろ!」

 フィギライトから物騒な言葉が次々と発される。

「出来ないよそんなこと」

「じゃあどうするんだ!俺の存在が知れ渡ったらどうな……る……?どう……なる、んだ?」

 黒いフィギライトの声は威勢を失っていく。

 知られてしまうこと自体がまずいという理解はあるが、具体的にどうまずいのかまでは把握できていないようだ。

「だ、大丈夫だよ。多分……」

 黒野もよく分かっていない部分らしい。

 フィギライトとあれこれやりとりし終えた黒野は、ようやく三人に向き直る。

「えーと……。さっきの質問だけど、こういう、ことかな」

 英也に向けられたであろうセリフだが、当の英也には何のことだか理解出来ていない。

「あ、ご、ごごごめんね。えと、さっきの、色々知ってるよねっていう質問の答え、です」

 言われてもなお理解に苦しむ英也。

「うーんと、間違ってたらごめんね。多分だけど、黒野くんはそのフィギライトが色々教えてくれた、って言いたいんじゃない?」

 海花の『読み取る力』はすごい。

「なるほど……」

 海花に言われてやっと意味が分かった英也。

 しかし今度は当然ながらそのフィギライトに謎が移る。

「えぇと、とりあえずフィギライトが教えてくれたとして……そうなると、その人?は何者なの?」

 よく考えるまでもなく人なのかどうか分からない。

 フィギライト本体が喋っている可能性もまだ捨てきれない。

「あ、うん。その質問は黄瀬くんと会ってからでも、いいかな?」

 黒野には何か考えがある様子。

 元より鉄仁のいる病院へ行く道中なので、黒野の提案に賛同する。

 四人は鉄仁が待っているであろう病院へ再び歩き始めた。


 廃校舎から少し離れた所にある、使われなくなった体育倉庫。

 埃や砂が舞い上がり……と思いきや、内部は綺麗に清掃されており、住むことさえ可能なスペースとなっている。

 そこに敷いてあるマットの上に無言のまま座っている詩音。

 一人で割れたコーヒーカップを集めるときに切ってしまった指の手当てをしていた。

「……あーぁ、もうちょっとだったのになぁ」

 独り言を呟きながら、救急箱から消毒液やガーゼなどを取り出す。

「流石は『あの』シェトマ。そんなに甘くなかったわね」

 くるくると慣れた手つきでテープを巻く。

 簡単な応急処置が終わり、自分用に淹れた紅茶を一口。少し渋みが強かった。

 紅茶を片手にスッと立ち上がり、倉庫の入り口を少しだけ開けて隙間から廃校舎を覗き見る。

 その後、スマホを取り出して誰かに電話をかける。

 ……。

 …………。

 ………………。

 繋がらない。

「はぁ」

 ため息と脱力。

 詩音はスマホの電源を切る。

「もうちょっとだけ待っててね。あと少しで帰るから」

 紅茶の湯気に溶け込んでいく呟き。

 飲み干した空のティーカップをペットボトルの水で濯ぎ、少量の洗剤で軽く洗う。

「ふぅ。それじゃ、随分と早くなっちゃったけど」

 赤い短剣を懐に収め直して扉をゆっくりと開く。

「プレゼント、渡しに行きますか」

 そして倉庫を静かに抜け出し、赤いフィギライト銃を手に構えた状態で廃校舎に侵入した。


 ハードレム・スレイクの前で何者かと話し続ける無相。

 『試験』について話が進められていた。

「準備するのは構わないけど……。『短剣』に動きでもあったってこと?」

 話し相手は半分驚いた声で尋ねてくる。

「……さっき報告した、僕を狙う組織は『銃』だった」

「……え」

 今度ははっきりと驚いた様子。言葉に詰まっているようだ。

「こちらも黒野だけに頼り切りという状況が難しくなった」

 無相は淡々と続ける。

「候補にはすでに黒野が当たってくれている」

 話し相手は「そうかぁ」と呟いて無相に応える。

「分かった。こちらでも準備を始めるよ。……クアロスの説得に骨が折れそうだけど」

「助かる」

 相手も相手でなかなか苦労しているようだ。

「にしても、『銃』がねぇ。『短剣』はまぁ、あのメンツだったから分からなくもないんだけど」

「そこは僕も同意見。正直なところ、今の状況は哀しい」

「そうだよねぇ」

 しかし嘆いている余裕はない。

 何が起きているのかはさておき、すでに事件は起きてしまったのだ。

 今後に備える必要があることに違いはない。

「ところで、そちらはどうだ?」

 状況報告の後、無相は話題を切り替えた。

「相変わらずだねー。いつも通り、かな」

「そうか」

「あ、心配しなくても『全員』いるから大丈夫だよー」

 相手は何かに気付いたようでメンバーに欠員がいないことを伝えてきた。

「助かる。その情報が欲しかった」

「心配症だなぁ。慎重すぎるとお友達と仲良く出来ないぞー」

「……善処する」

「んじゃ、とりあえず『試験』の準備はしておくから、始める前にまた連絡してよ」

 相手は通話を終了しようとした。

「あ、ちょっと待て」

「はいはい」

「……試験だが、二人目はキャレル、お前だ」

 数秒間無言の時間が流れる。

「マジ!?」

「マジ」

「ひょえー、やってけるかねあたしが」

「いずれは『全員』そうなる。遅いか早いかの違いだ」

「そうかもだけどー」

 無相は淡々と話すが、キャレルと呼ばれた存在は不意の名指しに少し上がり気味のようだ。

「んー、分かった。しっかり見とくよ」

 キャレルの了承を得て、通話を終えた。

 通常運転に戻るハードレム・スレイク。

 無相は近くにある椅子に腰掛ける。

「……」

 辺りを見回し、そして目を閉じる。

 シェトマは何故、自分を攫ったのか。

 何故、計画を話してくれなかったのか。

 そもそも計画していたことなのだろうか。

 無相の頭の中で様々な可能性が浮上しては消えていく。

「……はぁ」

 考えても仕方ない。

 これ以上詮索しても無駄だと判断し、無相は『祭壇』を後にした。

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