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フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
13/59

管理者の目覚め

「英也くん!黒野くん!お待たせ」

 校門の前で待ち合わせていた英也、黒野、海花、緑川の四名。

 これから鉄仁のいる病院へお見舞いへ行くことになっている。

「それじゃあ、行こうか」

 四人は学校から歩き始めた。

 その道中で、黒野が今後の展開について切り出す。

「白道くん。こ、これからの、ことなんだけど」

「ん?あぁ」

「おそらくだけど、ゼツボウは、いずれまた僕たちの前に現れると思ってる」

「それは、また無相くんを?」

 ゼツボウの狙いがまだいまいち掴めていない英也。

 この世界を神々から『切り離す』というのが彼らの活動目標らしいが、英也はそれが何をすることなのか理解出来ていない。

「そうだね。……あ、でも、誘拐するかどうかまでは分からない」

「どういうこと?」

 無相を監視下において何かをしようとしているのではないのだろうか。

「彼らの目的は、『ハードレム・スレイク』を支配下に置いて、神々との交渉材料にすることらしいんだ」

 神々との交渉。

 それは神と既に対話の用意があるという風にも聞こえる。

「交渉って、一体何を?」

 英也にとって一番の疑問だった。

 交渉するということは、今もなお現在進行形で何らかの形で干渉されていることを意味する。

「えーと……」

 黒野は少し考え込んでから、複雑な表情で答えた。

「……この世界で行われているらしい『実験』についてかな」

 あまりに簡潔、かつ、恐ろしい単語に戸惑う英也。

「あ、い、いや!あのー、じ、『実験』って言っても、人体を改造したりだとか、そ、そういうわけじゃなくてね」

 英也の様子を見て慌ててフォローする黒野。

「……せ、説明が下手で、ごめんね」

 謝る黒野に首を横に振って表情を緩める英也。

「大丈夫、黒野くんの話は分かりやすいよ。……でも、よく色んなこと知ってるよね」

 フィギライトのこともすごいが、スレイクのことも黒野は歴史の授業よりずっと詳しかった。

「黒野くんはさ、どうしてそんなに詳しいの?」

 英也は心に留めていたことを一つアンロックした。

「あ……。そ、そう、だよね」

 足を止めて黒いフィギライトを手にした黒野。

 三人も足を止め、黒野の方を見る。

「……いずれはこうなるって、本当だったね。ラペ」

 急にフィギライトに話しかけるヤバいやつと化した黒野に、英也はもちろん、女子二人も唖然となった。


 高校の屋上の一角。石板で閉じられた一部屋。

 無相はそこで『ハードレム・スレイク』と『対話』していた。

「確認、『ヴァーゲス』」

 その声、もしくは彼の思念に『リンク』が反応したのか、『ハードレム・スレイク』はより一層の光を放ち、無地の壁面に何やら図や文字のようなものを映し出した。

「うわ……。また減ってる」

 呟くと同時に壁への映写が消え、普段通りの明るさに戻る。

「接続、『ティーラス』」

 今度は別の言葉を投げかける。

 するとしばらくの無言の後、陽気な声が聞こえ始めた。

「あー、あー、聞こえますー?あ、繋がった?やほームーくん」

「……ん?ラペトリクじゃないのか?」

 当たり前のように『ハードレム・スレイク』に向かって会話する無相。

「あ、ラペくんなら今クロくんのところかな」

「黒野の……?まさかあいつ!?」

 急に血相を変えて何かを操作しようとする。

「大丈夫だって。『それ』じゃないから安心しなよ」

 声の主は無相に落ち着くよう促す。

「そうか……」

「んで、ムーくんどしたのさ。いつもの定期連絡?それとも訳アリ?」

 無相はため息混じりに「両方だ」と言い、情報を展開し始める。

「まず、定期連絡。また『ヴァーゲス』が二つ使えなくなった」

「ありゃ……、最近増えたねぇ。実害はどう?」

「今のところは、まだ」

「……ふむふむ。おけー。とりあえずまだ様子見でも良いかな」

「……」

「んでんで?訳アリの方はなんです?」

 無相は一瞬言葉を止め、ハードレム・スレイクをまっすぐに見て言った。

「僕を狙う者が現れた」

 それを聞いた相手は、暫しの沈黙の後、一言だけ返した。

「……そっか」

 まるで想定内の出来事だったかのような受け入れ方。

 だがそれは無相もどうやら同じようで。

「『試験』の準備を進めたい」

 煌々と光るハードレム・スレイクの前で、大きな一歩が刻まれた。


 廃校舎の三階。窓から外を見るグェン。

 どこか遠くを見つめながら、眉を寄せていた。

「関係ないんじゃ、なかったのかよ……」

 昨日の屋上での詩音の行動を思い出し、悲しげに呟いていた。

「グェン、こんなところにいたんですか」

 その声に振り返ると、カフと将斗がそばに来ていた。

「ボスと……詩音ちゃんは?」

 グェンは普段より小さめの声で状況を聞く。

「彼女は割れたカップを片付けた後、どこかに行ってしまいました。……まだここのどこかの部屋にはいると思いますが」

 確かに、今の応接室には彼女が残れるような余地はないだろう。

「ボスは何か手紙みたいなのを書き始めてたよ」

「手紙?」

「ボスのエレガントはたまに難しいや」

 将斗は両肩を軽く上げて首を横に振りながら言う。

「俺にゃいつもさっぱりだ」

 カフはその二人の様子を見ながらやれやれと言わんばかりに小さなため息を吐く。

 彼はゼツボウの中では一番のシェトマの理解者であり、手紙をしたためるシェトマの行動にも理解を示していた。

 全てを見透かしたように今もなお冷静に表情を変えないカフに、グェンが問いかけた。

「カフ、そういやお前、詩音ちゃんがこうなること、いつから知ってたんだ?」

 カフはさも当然かのように口調を崩さずにこう返した。

「はじめから、ですかね」


「報告の連絡があったそうじゃない?わたくし宛じゃなかったってことは、彼女ね?」

「あぁ、どうやら問題ないらしい。例の『管理者』の居場所も掴めたしな」

「ワォ、やるじゃないあの娘」

 会話する二人。お互いに顔を見せ合うことなく、とあるドア越しに交流していた。

 世界的に有名な慈善団体『ミチビキ』。神人大戦後に発足したと言われている、現存する組織としては世界最古の団体。

 その組織は数万の『モチーフ』と呼ばれる一般団員と、数百の『フレーズ』と呼ばれる組織幹部、そしてフィギライトを持つ『テーマ』と呼ばれている数人の組織の最高権力者たちで構成されている。

「見て!『テーマ』のツェッテ様よ!」

 広大な聖堂のような空間の中で、どこからともなく声が上がる。

「ほ、本当だ!ありがたや、ありがたや」

「キャーっ!こっち見てウインクしてくれたわ!」

「いつもお美しい……」

 ツェッテと呼ばれたドアの前に立つ女性は、慈愛に満ちた微笑みで群衆を魅了する。

「相変わらずの人気ぶりだな」

 扉の奥から冷えた言葉がすり抜ける。

「あら、嫉妬なんて珍しいのね」

「……ふ、まぁいい。それで、要件はなんだ」

 ツェッテはドアから響く低い声に答える。

「また、二つほど破壊に成功したわ」

 そして彼女はその場を立ち去った。

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