表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィギライト  作者: シリウス
カガヤキの始まり
10/59

受け入れた日

「えぇ、そうよ。『管理者』は無傷で帰したわ」

 人気のない廃校舎の屋上、貯水槽裏。

 詩音は声を張らないよう注意しながら連絡を取っていた。

「え?あの『ボス』が?……そう、分かったわ。その時は戻るだけ」

 普段の詩音とはかけ離れた淡々とした口調で会話している。

 時折周囲に目を配り、今の姿を見られないよう警戒していた。

「えぇ、えぇ。そういうことだから。それじゃあ、あの子によろしくね」

 通話を終了する詩音。

 一仕事終えた表情の彼女は、真紅の短剣を取り出して見つめる。

「エフィーロ、お姉ちゃん頑張るからね」

 光を放つ赤い銃と短剣。少し眺めた後、短剣を鞘にしまって懐に収める。

 詩音は周囲に警戒しつつ、屋上から校舎へと戻って行った。

「……」

「……」

 詩音の怪しい行動を確かめるべく、グェンとカフは貯水槽からの死角となる壁に隠れて声を潜めていた。

 詩音が階段を下って行った後。

「今のは」

 グェンの肩に手を置いて首を横に振るカフ。

「カフ、お前まさか分かっててここへ?」

「……どうでしょうね」

 カフの瞳には哀しみが映っていた。

「エフィーロ。彼女が口にしたのはあの団体の一員の名です」

「あの団体?」

「えぇ、我々がゼツボウとなった日の、あの」

「……」

「戻りますよ、グェン。おそらくボスがお待ちでしょう」

「チッ……面白くねぇ」

 グェンは吸いかけの煙草を投げ捨てる。

「やれやれ」

 慣れた手つきでトングを取り出して吸い殻を拾い上げるカフ。そのまま流れるように近くの金属缶に捨て直す。

「気持ちは分かりますが、ね」

 二人は応接室へと歩き始めた。


 英也たちは息を切らしつつもなんとか高校まで戻って来ることが出来た。

「白道か!?それに青井、緑川、黒野も!黄瀬も一緒みたいだな!お前ら一体どこに行っていたんだ!」

 校門をくぐるなり、第一声を上げたのは担任教師だった。

 校外を探し回っていたところ無相が戻って来ているところを偶然目撃。共に一旦戻って状況を聞いてから、再度英也たちを探しに出るところだったという。

「先生!まずは鉄仁を保健室に連れて行かせて下さい」

「そ、そうだな。分かった」

 英也の背中に身を預ける活気のない鉄仁を見て、事情は二の次だと理解してもらえたようだ。

 保健室に鉄仁を運び込み、白いベッドへと寝かせる。

「おい、鉄仁、おーい」

 試しに声を掛けてみる英也だが、反応はない。

「これ……ちょっとヤバみありよりかも?ウチの知る限り気絶って数分ちょいよ?」

 緑川が難しい顔で鉄仁の容体を心配する。

 確かに、廃校舎からここまで来る間だけですでに十数分。それ以前からこの状態だったと考えると、もう時間に猶予はないかもしれない。

「この時間だともう保健室の先生も……」

 日も沈みそうな時間。担任教師から英也たちが無事見つかったという一報が伝えられ、捜索に出ていた職員たちも帰宅し始めていた。

「私ならここにいますよ」

 入り口からぬらりと入って来る保健室の先生。

「生徒が怪我をして帰ってくるかもしれない状況でしたからね。帰るわけにはいきませんよ」

「先生……!」

「……しかし、ここまでとは予想を上回っていました。一体何が?」

 先生は鉄仁の様子を軽く診て英也や黒野に説明を求める。

 英也と黒野は目を合わせて頷き、戦闘のことを話す。

「ちょ、ちょっと待ってください!そうだとすると、今すぐにでも病院へ連れて行かなければ!」

 急いでスマホを取り出す先生。

 しかしその手を止めたのはなんと鉄仁だった。

「……せ、んせい……だ、大丈、夫。大丈夫だっ……て」

「鉄仁!?よかった、目が覚めたんだな!」

 先生はそれでもやはり診てもらった方がいいと救急車を呼ぶ。

 黒野と女子二人は救急隊員の誘導や教室から荷物を持ってくるなどと気を利かせて各々動いてくれた。

 目覚めた鉄仁に寄る英也。

「な、なんだよ……。せめて、最初はみーちゃんが……痛ぇ……」

「バカなこと言ってないで今は横になってるんだ」

 身体を起こそうとする鉄仁を止める英也。

「……はは、ははは」

 乾いた笑い。普段の鉄仁からは聞けないその情けない声に、かける言葉を無くす。

「俺、負けちまったよ……」

 鉄仁は右手に持っているフィギライトを強く握りしめ、左腕で両目を覆う。

「は、ははは、はは……」

 苦い記憶で済んだから良かったものの、下手をしたらここにいなかったかもしれない。それを考えれば、これは決して『敗北』ではない。

「俺、間違ってた。ちょっとカッコつくかなって、いい加減だった」

 フィギライトを見る鉄仁。

「でも……」

 英也もシェトマやカフのことを思い返す。

「あんなやつらと、戦うことになるんだな」

 鉄仁は少し声のトーンを落とす。

「……もし、また次に機会があるなら」

「鉄仁くん!救急車、来たよ!」

 保健室に飛び込んで来た海花。数人の救急隊員がその後から続々と入って来る。

「……英也」

「あぁ。分かってる」

「強く、なろうぜ」

「そうだな」

 鉄仁は保健室の先生付き添いの元、病院へと搬送された。

 その後、時間も遅いということで、英也たちは担任の車で送ってもらうことになった。

 先に家の近い女子二人を帰し、車内には担任と英也、そして黒野だけとなった。

「先生、他の生徒は?」

「あぁ、みんな放課後にいつも通り下校したぞ。心配はいらない」

「……そう、ですか」

 どうやら狙われたのは無相だけのようだ。

「……黒野くん。明日、これからのことについて、話せないかな」

 英也はフロントガラスから差し込む車道のライトを浴びながら黒野に提案する。

「分かった」

 短いながら意志のこもった黒野の返事を耳にして、英也も帰宅した。


 翌日。

 朝食をしっかり摂って気を奮い立たせる英也。

「よし!行ってきます!」

 胸ポケットに灰色のフィギライトを忍ばせ、決意を新たに高校へ向けて出発した。

 教室へ入ると、昨日の事件で割れた窓ガラスは片付けられていた。流石に窓はまだ交換されていない。

「あ、おはよー英也くん」

 遅刻常習犯の海花が日直でもないのに早く登校していた。他にはまだ誰もいない。

「あれ、僕、時間間違えたかな……?」

「Oh、海花ちゃんショック」

「冗談だよ」

 英也もそうだが、海花も少し表情がぎこちなかった。

「……窓、いつ直るんだろうね」

「そうだね」

「……」

「……」

 お互いに会話が続かない。

 昨日のこともそうだが、何よりこれからどうするのかが頭の中でぐるぐると巡り続ける。

「僕は、あの人たちと、またいずれ戦うことになると思ってる」

 英也は海花に考えを打ち明ける。

「コレを使って、ね」

 フィギライトを見せる。

「あ……。英也くんも、持ってるんだ」

 黒野と鉄仁が持っていたことを思い出す海花。

「……戦わなかったら、どうなるの?」

 純粋で、それでいて複雑な質問。

 英也が答えに詰まったところで──

「『神人大戦』が、始まるかもしれない」

 英也の代わりに答えたのは教室の入り口に来ていた黒野だった。

「黒野くん、おはよう」

「あ、う、うん。おはよう」

 ちらほらと教室に生徒が集まり始める中、他クラスの生徒として少し遠慮がちに英也と海花の元に歩いて来る。

「『神人大戦』って……、な、そ、そんな」

 海花はとても信じられないと言った風に困った表情を見せる。

「『スレイク』が引き金になる、そういうことだね?」

 英也は黒野に問いかける。

「す、すごいなぁ、白道くん。もう、そ、そんなところまで理解してくれたんだね」

 将斗が話していた『ハードレム・スレイク』と封印の関係、そしてその鍵となる無相の誘拐が重なれば。

 フィギライトを経由して超常現象を引き起こす『スレイク』がそれ以上に何をもたらすのかは想像できた。

「『スレイク』って言ったら、あちこちにあるあの魔法陣みたいなやつのことよね。歴史で習ったやつ」

「そう。このフィギライトも、その『スレイク』と関係してるらしくてね。そうだよね、黒野くん」

「う、うん。昨日は詳しく話せなかったけど、フィギライトは『スレイク』の力をこの世界に干渉させるための、スイッチ、みたいなものなんだ」

 黒野が自身のフィギライトを取り出す。

 そしてまるでフィギライトの周りに複数の見えないボルトがあり、それを回すかのような動きで操作する。

【2015001】『スケッチ』!

 黒いフィギライトが一瞬だけ光り、何事もなかったかのように元に戻る。

 黒野は英也たちの目の前でフィギライトをペンのように持ち直し、虚空にキャンバスでもあるかのように点を打つ動作をした。

 するとその空間に、点のような跡がついた。

「えっ!?な、なに?どうなってるのこれ?マジック?」

 目の前で起きている現象に理解が追いつかない海花。

 そして黒野はフィギライトをサラサラと動かす。その先端を追従するように、黒い線が空間に描かれていく。

「す、すごい」

 フィギライトに理解を示し始めた英也も、思わず声に出てしまう。

「こういう、平和な使い方だけでいいんだけどね。本当は」

 黒野は線を描いていない方のフィギライトの先端を軽く親指でなぞる。すると空間に描かれた黒い線はすうっと消えていった。

「今のが、その『フィギライト』っていうやつの力なの?」

 海花も興味を持ったようで、黒いフィギライトを見つめる。

「そ、そうだね。今やったみたいに、使う者の思考、理解力を元にして『スレイク』から特殊な力を引き出してこの世界に干渉させる。そのためのスイッチが、このフィギライトなんだ」

 海花は頭を抱えて理解に苦しんでいたが、英也には理解できた。

 しかし、この説明だと一つおかしい点がある。

「ちょっと待って黒野くん、『ハードレム・スレイク』ってので『スレイク』は力を封印されてるんじゃなかったっけ?」

 そう、封印についてだ。

「……良いところに気付いたね、白道くん」

 黒野はポケットから数本の未覚醒フィギライトを取り出して眺めながら話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ