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短編集 〜 カレッジノート〜 

浄蓮寺という男

作者: 星川ぽるか

 大学に棲む稀代の傑物、誰もが只者のではないとおののき、その豪胆さに「あの人は馬鹿かもしれない」と息を吐く。廃墟同然のアパート『東二見ひかり荘』に下宿する浄蓮寺清宗じょうれんじきよむねを兵庫の学生たちはそう評価していた。彼の逸話は枚挙にいとまが無い。かつてあった伝説のサークル「傾国の美女研究会」を組織し、「俺たちが幸せになるにはまず、敵を知らねばならん」と豪語して女の神秘をあらゆる分野、方向から研究し、その神秘を解明するあと一歩のところで学生統括執行部と熾烈な争いが起きてすベて水泡すいほうにきした。また大好物の焼き芋を食べるためにベランダで芋を焼いていたら布団が落ちてしまい、危うく下宿を灰燼かいじんにせしめかけた。金欠の時期は決まって常闇麻雀界のトーナメントに参加し、毎回賞金や景品を颯爽と持ち帰る。今では休学と留年を巧みに操り、大学五回生という立ち位置を手にしていた。噂では前人未到の八回生を目指しており、大学当局と学生統括執行部は彼の存在に手を焼いていた。一部の学生からは持てはやされ、半分の学生からは敬遠されており、残りすべては彼への迷惑で痛い目を見た学生が憎悪を募らせている。

 傲岸不遜、怠惰で悪辣、そのくせ悩める学生がいれば渾身の焼き芋を食わせて一緒に酒を飲む優しさを有していた。そんな浄蓮寺は良くも悪くも目立っていた。特に、お先真っ暗な不安を抱える学生は浄蓮寺という先輩をよく頼ったのだ。

「浄蓮寺先輩、起きてますか?」

 今日も蒸し暑い八月のある日、一人の学生が彼の下宿先を訪ねた。五度目のインターホンで朽ちかけの扉を開けた浄蓮寺は寝癖のまま眠たそうな目で学生を見た。

「なんだ、岩橋か。こんなクソ暑い日に来るなよ」

 浄蓮寺は五回生ということもあって、すべての学生の先輩に当たる。だから彼は常に横柄な態度であった。

「じつは相談があって……」

「単位か? 女か? それとも兵庫から出る方法か?」

「単位です。僕、霜崎しもざき准教授の講義を受けてるんですけど、めっちゃピンチで」

「貴様、あれだけ『男なら霜崎は避けろ』と言っただろ。馬鹿か」

「必須科目があの人だったんです。どうしようもなかったんです」

「それをどうにかするのが履修登録だ。甘く見てるからそんな目にう」

 浄蓮寺は心底面倒くさそうに言った。岩橋は懇願するように大学を知り尽くす傑物にすがった。彼の取得単位数は低迷を極めており、ただの一度でも怠ければ実家からの仕送りが断ち切られるほど切迫していた。

「助けてください」

「忠告を無視した奴の尻なんぞ拭けるか。それに霜崎は無理だ。お前が女になればどうとでもなるが、男なら諦めろ」

 寝起きはすこぶる悪いことで評判の浄蓮寺は慕う後輩を呆気なく足蹴にした。乱暴に扉を閉めた浄蓮寺は洗面台へ行っていつぶりかわからない歯を磨いた。


 炎天下の中、彼は溜まり溜まった洗濯物を洗いに下宿先から徒歩五分のコインランドリーに向かった。洗濯物を団子のように丸めて放り込み、外へ出て煙草に火をつけた。猛暑を降り注がせる太陽を恨めしそうに睨み、煩わしい蝉の鳴き声を聞いた。

「夏なんぞくたばればいいが、水着がなくなってしまうなボケ」

 などと独り言を呟いた彼の元に、また同じ大学の学生が洗濯物を持ってやって来た。

「浄蓮寺先輩、お久しぶりです」

「水野か」

 水野と呼ばれた女性は常闇麻雀界で唯一、浄蓮寺と互角の戦いを繰り広げた隠れ雀士だ。まだ一回生だというのにその腕は上回生をも凌ぐ。その才覚を浄蓮寺も認めていた。そして可憐なポニーテール姿も彼は大いに感心した。

「お前も溜め込んだ洗濯物を回しに来たのか」

「家の洗濯機が壊れてしまったんです。いい天気ですし、回したくて。ほんとツイてないです」

「この暑さだ。そんなこともある」

 水野はコインランドリーを回して浄蓮寺の隣に立った。

「じつは先輩に折言ってご相談があるんです」

 その言葉を聞いて浄蓮寺は眉をひそめた。朝から二人目の相談に早くも嫌気が差していた。

「お前もか」

「お前も?」

 きょとんと小首を傾げる水野に、浄蓮寺は「こっちの話だ」と言った。

「それで、なんだ?」

 洗濯が終わるまでの暇つぶしとして彼は話を聞くことにした。

「じつは、学科で気になる人がいるですけど、その人お付き合いしてる人がいるらしくて。私どうしたらいいのかわからなくて」

 これが岩橋のような腐れ大学生なら吐いて捨てるところだが、まだ初々しさが微かに残る一回生とポニーテールというのもあって、浄蓮寺は二割程度は真摯的に向き合った。

「俺にはどうでもいい話だがな。好きなら好きと言ってしまえばどちらに転んでも終わる話だ」

「簡単に言わないでください。好きなんて怖くて言えないし、相手がいるなら身を引いた方が良いと思います。でもこのままで良いとも思わない。毎日お風呂に入るたび、考えてしまうんです。もう、死んじゃいそうで」

 大学で由緒あるサークルのトーナメントで競り合った相手とは思えない臆病さに浄蓮寺は落胆した。

「相手の手を読み、こちらの手牌を揃える。あの戦略眼を不毛な恋に応用しろ。何をうじうじ乙女ぶっているんだ」

「麻雀ならどうとでもいけますけど、恋の駆け引き?っていうんですか。あれはダメです。天敵です」

 水野がそう言った時、浄蓮寺のコインランドリーから完了の音が鳴り響いた。音を聞いた浄蓮寺は煙草を捨てて強引に話を切り上げた。

「麻雀にでも誘え。馬鹿馬鹿しい」

 ぶっきらぼうにそう告げて、こんもり盛り上がった洗濯物の塊を彼は剥き出しのまま持って帰った。


 下宿先に帰ると、彼の部屋に一人の旧友が座っていた。

「清宗、どこに行ってたんだ」

 大学一回生の頃から共につるみ、「傾国の美女研究会」にいた浄蓮寺の数少ない戦友の佐々木が煙草を吸い、勝手に珈琲を作って飲んでいた。

「洗濯だ。間抜け」

「なら鍵くらい閉めていけよ。何されても文句言えねえぞ」

「家を荒らされたくらいで俺が腹を立てるものか」

 佐々木は現在、大学院へ進んでおり、修士号獲得への王道開道をひたすらに突っ走っている。毎夜大学院棟の一室でヤモリの遺伝子研究をやっていた。何故ヤモリなのか、そういった無粋なことは聞かないのが浄蓮寺という男であり、無粋に聞いて来て欲しいものの自分からは切り出せないのが佐々木という男だった。

「それで何しに来た? 俺は忙しいんだ」

「何もしてないだろ。俺は今日は休みなんだ。研究が行き詰まってね。それにクソ暑い。ここにはクーラーがあるだろ? 避難してきたのさ」

 東二見ひかり荘の数ある部屋の中で浄蓮寺のいる205号室だけ備え付けのクーラーがある。ヴェニスの商人を思わせる大家との交渉の末、浄蓮寺はこの部屋を手に入れた。クーラーという夏の英雄を求めて多くの学生が入居に殺到したが、浄蓮寺はあらゆる手練手管を駆使して彼らを唆し、英雄を手中に収めたのだった。

「呑気なやつだ。修士号を落としても知らんぞ」

 浄蓮寺は洗濯物を干して珈琲を淹れた。過去に大学を悠々自適に飛空し、単位やら恋やらに立ち向かった今は大学院にいる戦友に対して、彼は一切の引け目を持っていなかった。卒業して社会の歯車になりに兵庫から旅立った友人、地元に帰り地に足が着いた生活を送っている中で、大学五回生という世間的に見ても悪っしき存在に成り果ててさえ、彼の軽蔑は失うことはない。仲間が去り、戦友が着実に将来への下積みをしていても、浄蓮寺にとって重要なのは生活費の確保であり、不可能と言われたモラトリアムの延長への挑戦だった。誰一人として讃えるものはいない、孤軍奮闘の戦いは日に日に激しさを増しているにも関わらず、援軍なんぞは存在しない。浄蓮寺は孤独だった。彼を慰めるものは新人グラビアアイドル、もしくは元カノから貰ったソーラー電池で動く手招き猫のみであった。

 佐々木がやって来たのは、彼の身に危険が迫ってるという噂を研究室の後輩に聞いたからだった。後輩は友人からその噂を聞き、その友人は風の便りが来たと言っていたそうだが真実かどうかはわからない。佐々木は浄蓮寺の軟弱な身を案じた。

「お前、この先大丈夫か?」と佐々木は言った。

 その言葉に浄蓮寺は怪訝な顔をした。

「知らん。ヤモリにでも聞け」

「真面目に言ってるんだ。なんでも学祭統括執行部が不穏な動きを見せてる。お前を大学から追い出そうとしてるらしい」

 浄蓮寺は眉をひそめた。学祭統括執行部。彼らは学生たちに快適なキャンパスライフを送ってもらうため、様々な支援活動をしている。学園祭も彼らが仕切っており、多くの学生は学祭統括執行部を頼りにしていた。浄蓮寺はたった一人でかの組織と対峙している大学最強の腐れ大学生。悪神に愛された浄蓮寺は自身に迫る危険なんて歯牙にもかけない。だが、かの団体が相手なら彼も無視はできななかった。

「ふん。相変わらず懲りないやつだ。俺を大学から追い出そうなんて、浅はかにも程がある」

「そう言っても相手の権力は強大だ。傾国の美女研究会だって潰されただろ? 忘れたのか」

「あれは貴様以外のメンバーが合コン組んでやるなんて甘い罠に引っ掛かったのが原因だろ? あのまま行けば、俺たちが勝っていた」

「とにかく、今回はあいつらも本気だ。いい加減、大学へお前の有用性を示さなくてはならない」

 浄蓮寺は鬱陶しそうに不機嫌になり、また煙草を吸い始めた。

「そんな媚を売るなんぞ、まっぴらごめんだ。追い出したくば力づくで来い」

 佐々木は彼の強情さを理解していたが、こうまで頑なであっては本当の意味でこいつの人生が心配になる。浄蓮寺のような性根の曲がり曲がった馬鹿大学生は日本に腐るほどいる。彼が大学から追放されようとも天地の太平になんら影響はない。むしろ大学は健全さを取り戻すことだろう。だがそんな誰にとっても無用の権化のような男を気に入る因果な男もまたいたりするわけで。

「お前の言葉を待ってる奴らが大勢いる。頼りにしてるんだよ。だって五回生だぞ? 絶滅危惧種すら霞む突然変異種の学生じゃないか。もっとその力を使え。周りはともかくどうして自分に対してまでそう浅慮なんだ」

「俺は俺が大した男ではないことを自覚している。確かに俺は大器晩成型の器をしているが、何か本質めいて助言を求めらるのは嫌いなんだ。五回生なんぞ頼りにして何になる? そんな馬鹿にはニーチェを読ませる。それで更なる迷宮の闇へと葬るのが俺の流儀だ」

 佐々木は途方に暮れながらも、浄蓮寺が焼いた焼き芋を一緒に食べた。


 珍しく浄蓮寺は大学へおもむいた。

 彼が所属する堂林准教授の研究室に忘れていた研究レポートの提出があったのだ。

「もう一週間も期限が過ぎてる。君ほど舐め腐った学生は初めてだよ。ついでに五回生を担当したのも初めてだ」

 堂林准教授が高級豆ブルーマウンテンの珈琲を飲みながら厳しい声で言う。しかし浄蓮寺はへりくだることなく、むしろ見下すような態度で研究レポートの紙束を放り投げた。

「貴重な経験をお互いしているようで何よりです。俺も五回生は初めてだ」

「私に対してその態度も初めてだ。これでつまらん研究なら私の研究室から追い出してやる」

「そうなれば倉本教授のところへ引っ越します」

「あいつのところへ行くぐらいなら大学を辞めろ。そっちの方が有意義な時間を過ごせる」

「准教授も相変わらずですね」

 堂林准教授の倉本教授嫌いは有名だった。倉本教授が学生から人気を得る仏のような教授に対して、堂林准教授は真逆の前時代的鬼教官のごとき態度を貫いている。浄蓮寺はそうした彼の頑なさに好感を持っており、その偏屈ぶりを勝って彼の研究室を選んだ偏屈野郎だった。

 浄蓮寺は部屋で煙草を吸い、日のよく当たる窓際に置かれたヤモリの入ったゲージを眺めた。憩いに体を休める浄蓮寺に堂林准教授は不機嫌な声をあげた。

「何くつろいでいる。期限遅れの罰がまだあるぞ」

「そんなことで罰を与えていては器の底が知れますよ?」

「挑発しても無駄だからね? 罰は与える。私は厳しいんだ。それを受けてもらわなければこのレポートも読む気にならん」

「まったく……子どもみたいな」

「悪いのは君だからね? 言っとくけどさ。まるで私が悪いみたいに言ってるけど」

 額に血管を浮かべる堂林准教授はホワイトボードの奥を指さした。

「その奥のソファに人生に悩む三回生がいる。しみったれた独り言を呟く幽霊よりも迷惑な男が私のお気に入り革ソファを独占しているんだ。彼の話を聞きなさい。そしてここから追い出してくれ」

「自分でやってくださいよ。アホらしい」

「全然動かないからお手上げだ。一寸先の闇に囚われた学生はあんなにも重くなるとはね。私は忙しい。さっさとやれ。五回生だろ」

 ここでレポートを読んで貰わなければ浄蓮寺のモラトリアム延長は幕を下ろしてしまう。彼は渋々、ホワイトボードの裏に回ってうずくまる学生の向かい側に座った。五回生だからと言ってなぜ後輩の閉じた人生に幕を上げねばならんのだと大きな声で悪態を吐きながらも、暇だったので学生を見た。

 五回生という異質なオーラと煙草の臭いを纏った浄蓮寺の気配に闇に沈む学生も気がついた。学生は顔を上げる。目尻が赤く腫れて、女々しく泣いた跡が残っていた。

「浄蓮寺先輩……」

 弱々しい声が浄蓮寺の神経に障った。

「なんだ、漆原うるしばらか。一人でソファを占拠してまで何メソメソしてやがる」

 漆原は三回生の生物学を専攻する雰囲気イケメンの男だった。どこかで見たことのあるマッシュ型ヘアをセンター分けにした如何にもな大学生であり、闇に呑まれた情けない男にして過去に三人の美女と付き合うも一ヶ月とたたず別れた可哀想なやつだった。

「僕はもうおしまいです。ここから一歩も動きたくない」

「どうでもいいからさっさとここから出ていけ。じゃないと俺が大学から出ていく羽目になる」

「……追われてるんです。学祭統括執行部の総長、長濱さんの彼氏を加古川に沈めてしまい、そいつは風邪を引いて長濱さんが楽しみにしていたUSJデートを僕が頓挫させたんです」

 これがくだらない単位の話とか、片思いに悩みうずくまる腰抜けの話であれば、浄蓮寺は彼を強引に外へ放り出して一切を終わらせるつもりだった。しかし、まあなんと香ばしく痛快な話であろうか。学祭統括執行部の不穏な動きとやらは漆原を追ってのことだった。久しぶりに浄蓮寺は本領の六割を発揮することを決めた。

「やるじゃないか。お前は長濱が好きだったもんな」

「でもそれで学祭統括執行部を敵に回しました。彼女は僕を見つけて制裁を下す気です。いくら僕が彼女を好きだからって嫉妬でやってしまった僕は、浅はかでした。僕は彼女を傷つけてしまった」

「ふん。恋なんぞ傷ついてこそだろ。お前ほどの純愛阿呆は遠藤以外俺は知らんね。それでそんな怯えているわけか。ところで、長濱の彼氏は誰だ?」

「ブレイクダンスサークルのエース、早雲です」

「あいつか。小物だな」

 鼻を鳴らして小馬鹿にする浄蓮寺。だが当の漆原は肩を震わせたままだった。

「総社へ願掛けにも行ったんです。千円を賽銭箱へ入れたのに、何も変わらない」

 漆原はまた涙を流し始めた。浄蓮寺は煙草を灰皿に押しつぶして立ち上がった。

「神より俺へ頼め。賽銭も入れろ。あの小物を加古川に沈めた心意気を勝って俺が一肌ひとはだ脱いでやろう」

「いくら先輩が五回生でも無理ですよ。昔サークルだって潰された。一度負けているんですよ?」

「五回生を舐めるなよ」


 それから浄蓮寺の行動は神がかり的なほど見事だった。

 風邪で寝込む早雲の下宿先へ行き、長濱との仲を問いただした。不仲ではない恋人関係に「強いて言うならどこが我慢ならない?」と油汚れのごときしつこさで聞き、「毎日、夜に電話をしなければならないのが嫌」と言う言質を取った。その言質を手に因縁の敵、長濱のいる学生会館へ向かった。長濱にこの情報を流し、さらに付け加えて浮気をしてるとひとつまみの嘘を添えて、二人を破局へ追いやった。そこへ漆原を長濱の前へ連れ出し、彼がどれだけ彼女を想っているのかを熱弁し、二人をくっつけた。

 さらに早雲を勝手に失恋の谷へ蹴落としたが、早雲のことが好きだと噂の水野さんの元へ行き、二人の仲を取り持った。水野さんに「電話はお互い時間のある時にでもしましょう」と言えと耳打ちし、失恋の傷もあって早雲は水野さんと付き合った。

 これをわずか三日で成し遂げた浄蓮寺の手腕は瞬く間に大学へ広まり、彼の下宿を訪ねる学生はその規模を大きくした。まるでUSJ前のコンビニを思わせる行列ぶりに、さすがの浄蓮寺もお手上げだったそうだが、一切を彼は解決させて行った。一度大胆な行動を起こせば浄蓮寺さんはその力を振るってくれる。浄蓮寺の頼り方を知った学生たちは極端に行動を起こし、さらにややこしく拗れてから浄蓮寺に頼った。彼は五回生としてなんら恥じることのない卑劣な手を使って誰もが収まるところに収まる東二見の用心棒として、大学での立ち位置を確定させた。だが岩橋の頼みだけは毎度のように断っていた。

 彼の戦友である佐々木は今の浄蓮寺を見て上機嫌に微笑んだ。

「佐々木さん、なんだか嬉しそうですね」

 研究室でクラゲの遺伝子研究に勤しむ早雲が言った。

「浄蓮寺がようやく重い腰を上げてくれたからね。これで俺も安心だ。大学を追われずに済む」

「浄蓮寺先輩、そんなに危なかったんですか?」

「いや、そういう噂を聞いていたから。君が言っていたことだろ?」

「あー、じつはそれ僕の友人の彼女が寝言で言っていたそうなんですよ」

 佐々木は肩透かしをくらったかのように唖然とした。佐々木の言葉で浄蓮寺が奮起して今のように崇拝されたわけではないが、熱心に口説こうとしたあの日が恥ずかしかった。しかし、余計な気を回すのが戦友の役目だったりするので、このことは内緒にしておこうと思った。


8「浅慮」

「  」はテーマというか、そこから膨らませた言葉です。それにしても私も浄蓮寺先輩のところへ言って焼き芋を貢ごうと思います。どんな相談も乗ってくれるから略奪愛についての相談も乗ってくれると思うんですよ。

どうかな? 

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