【25:その日俺は数寄屋の衝撃的な言葉を耳にした】
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「なあ大和。俺、彼女できた」
「ええーっ? ホントに?」
ある日の放課後。
下校しようと廊下を歩いていたら、友人の数寄屋に呼び止められて、驚くべきお知らせをされた。
こいつはサッカー部所属のイケメン爽やか野郎。
クラスでも一番の人気男子だ。
本来なら別に驚くべきことでもないのだろうが、今まではなぜか彼女はいなかった。だから急なお知らせにびっくりしてしまった。
「おう。最初は親友である大和に教えようと思ってな」
親友か。数寄屋ってやっぱいいヤツだ。
「で、相手は誰?」
「同じクラスの月ヶ瀬ヒカリ。今日俺から告白してさ。付き合うことになった」
「マジか!?」
「おう。俺、ああいうクールなタイプ大好きなんだよ」
月ケ瀬さんはクール系美人で、クラスでも赤根さんに次ぐ人気女子だ。
数寄屋の方から告白したのか。すごいな。
そう言えば前に数寄屋と二人で校舎裏に現れたことがあったな。
そのほかにもちょくちょく一緒にいるところを見かけたし、元から仲が良かった。納得だ。
つまりもうすぐ訪れる夏休みは、数寄屋と月ケ瀬さんは恋人として過ごすってことか。
う……羨ましくなんかないぞ!
俺だって夏休みは、嫁と毎日過ごすんだからな。
そう、イチハさんだ! ……二次元だけど。
「そっか、おめでとう数寄屋」
「それで大和にお願いがあるんだけど」
「なに?」
「明日の夜一緒に、鹿野島神社の夏祭り行こうぜ」
鹿野島神社ってのはウチの近くにあって、数寄屋とは中学時代に一緒に夏祭りに行ったことのある場所だ。
「は? 俺がお前らカップルと一緒に? 夏祭り?」
「ああ、そうだ」
なにそれ。
イチャラブカップルと一緒に夏祭り行くなんて、彼女がいない男子に対する拷問ですか?
「そんなところに、男一人でカップルについていくバカがどこの世界にいるんだよ」
「いや大和一人じゃなくて、赤根さんを誘うんだよ」
「赤根さん? なんで?」
「月ケ瀬さんがぜひ赤根さんと一緒に行きたいって」
我が校2大美女が一緒に夏祭りに降臨?
それ、いったい何の特番だよ。
「そして俺は大和と一緒に行きたい。だからお前が赤根さんを誘う。極めて自然な結論だろ?」
「どこが自然な結論だよっ! 俺が誘って赤根さんが来るとでも思ってるのか?」
「大和が誘うからこそ、赤根さんが来てくれると思ってるんだが?」
「は? そんなわけ……」
「能書きはいいからスマホ出せ」
「なにすんだよ?」
「ほら、赤根さんに電話をかける!」
「あ……うん」
俺の眼前にスマホを突きつける数寄屋の勢いに押されて、思わず赤根さんに発信した。
『あ、ガタニ君。どうしたの?』
「あのさ赤根さん。えっと……その……」
もしも断られたらどうしよう。
そんな恐怖心でつい口ごもってしまう。
「大和、ちょっと貸して」
「え?」
数寄屋にスマホを奪われた。
「ども、赤根さん。数寄屋です」
『数寄屋……くん? あ、ども』
「明日の夜、空いてる? 大和と一緒に鹿野島神社の夏祭りに行くんだけど。コイツがどうしても赤根さんにも来てほしいって言うもんだから」
言ってない!
俺の口からは断じて言ってない!!
そういう気持ちはなくはないけど。
『ガタニ君が? 私に来てほしいって?』
「うん。それに月ケ瀬さんも来るんだ」
『月ケ瀬さんが……?』
「うん。実は俺、月ケ瀬さんと付き合うことになってさ」
『え? そうなの? おめでとー!』
「うんありがとう。それでさ。つまり赤根さんが来てくれないと、俺達三人で行くことになってしまうんだよ。だから俺からも、ぜひ赤根さんに来てほしいなぁ。わかるでしょ?」
わかるでしょってなんだよ?
そんな説明で、赤根さんがわかるって言うはずないだろ。
『うん、わかった! 行くよ! 明日の夜に鹿野島神社だね』
ありゃ……赤根さん、わかったの?
もしかして、わからないのは俺一人?
「うん、そう。現地で待ち合わせしよう。じゃあ大和に代わるよ」
スマホを受け取る際に、小声で数寄屋に言った。
「なんで勝手に俺が来てほしいって話になるんだよ?」
「でも来てほしいだろ?」
「ま、まあ……否定はしないけど」
数寄屋よ。
我が意を得たりって感じにニヤリと笑うな。
見透かされていて悔しいじゃないか。
「ほら大和。赤根さんが待ってるぞ。早く話せ」
「あ、そうだな」
スマホを耳に当てて赤根さんに話しかける。
「あ、赤根さん。急な話でごめんね」
『ううん、いいよ。夏祭りだなんて久しぶり。楽しみだなぁ!』
「そっか。楽しみだって言ってくれるなら誘ってよかった」
思いもよらず、赤根さんと夏祭りに行くことになった。
浴衣を着たらめっちゃ可愛いだろうなぁ。
それは嬉しいんだけど……
恋人同士の数寄屋と月ケ瀬さん。この二人と赤根さんと一緒に出かける?
二大美人と夏祭り?
そんなの緊張し過ぎてどうしたらいいかわからん!