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【23:赤根さんはコスプレする②】

◆◆◆


 カメラマンさんが一眼レフカメラを構え、イチハさんに扮する赤根さんの撮影をしてくれてる。

 カメラさんの声に合わせて決めポーズを取る赤根さん。

 あまりに美しくて、思わず口から言葉が漏れた。


「綺麗だ……」

「うん、綺麗だね! まさにイチハさんそのものだ!」


 横で一緒に赤根さんを見ていたレイヤーさんに、心の声を聞かれてしまった。

 めっちゃ恥ずい。


「ですね。感動しました」

「私もだよ、彼氏君」

「いや、あの……俺、彼氏じゃないです」

「え? そうなんだ」


 なに言ってんだこの人。

 あんな美少女と俺みたいな地味男。

 誰だって、パッと見てカップルじゃないって気づくだろ。


「俺と彼女じゃ釣り合わないでしょ」

「ん……そうかな」

「そうですよ。地味な俺と彼女じゃ、見た目偏差値が違いすぎる」

「あはは。キミ、そんなこと気にしてんの?」


 気にするだろ普通。

 この人だって凄い美人だ。

 彼氏はきっとカッコいい男に決まってる。

 世の中そんなもんだ。


「気にしなくていいんじゃない?」

「なんでですか?」

「なんでって……。あ、そうそう。彼女があのキャラ選んだのはさ、キミがイチハさんを大好きだからなんだって」

「へ?」


 ああ、そうなんだ。赤根さんは俺を喜ばそうと思って、イチハさんを選んだんだ。


「つまり彼女は、キミが大好きな女の子になりたかったんじゃないかな?」

「んなことありませんよ」


 それは単に友達・・である(・・・)俺を喜ばせようと思っただけに決まってる。


「んなことあるって。まあ、あたしの勘だけどね」

「ほら、根拠なんかない」

「まあまあ、そんな拗ねた顔すんなって。地味だっていいじゃん。キミ、優しそうだしいい男だよ」

「え?」

「地味だなんてことより、そういうひねくれたような態度の方が女の子は嫌うと思うなぁ。彼女に嫌われてもいいのかな?」

「いやそれは……」


 困る。

 別に赤根さんと彼氏彼女になりたいなんて高望みはしてないけど、嫌われるのは嫌だ。


「彼女がキミを好きなんじゃないかって根拠か。あれだね。ほら見てごらん」


 レイヤーさんがあごで指し示す方を見た。

 赤根さんが不安そうな顔でこっち見てる。


「キミが私と親しげに話してるから、彼女心配してるんだよ」

「そ、そんなことないでしょ」

「それにせっかく彼女コスしてるのに、全然キミが嬉しそうな顔で見てあげないからだね。ほら、笑って手を振って」


 レイヤーさんに促されるままに、俺は赤根さんに満面の笑みを向ける。そして大きく手を振ってからサムズアップしてみせた。


 ホントに赤根さん、綺麗だよ。


「すごいよ赤根さん!」

「ガタニ君、ありがとー!」


 赤根さんは嬉しそうに、キラキラした明るい笑顔を見せた。


「お、いいねー! イチハさんはクールでめったに笑わないけど、満面の笑みのイチハさんも素敵だよ!」


 カメラマンさんのそんな言葉に、赤根さんはさらに笑顔を弾けさせる。

 このうえなく可愛い。


「ほら彼氏君。キミが嬉しい顔したら、彼女はすっごく嬉しそうじゃん」

「いや、だから……」


 ──俺は彼氏じゃないですって。


 どうせそう言っても聞いてくれないだろうから、あえて言葉を飲み込んだ。


 そんなことより。

 リアルの世界に現れた美しいイチハさんの姿を、俺のスマホに残しとかなきゃ。


 パシャパシャとスマホカメラのシャッターを切った。

 うん、素晴らしい写真だ。満足満足。


 赤根さんのコスプレ撮影は終了し、しばらく待っていたら、再び着替えを終えた赤根さんが戻ってきた。


 レイヤーさんとカメラマンさんにお礼を申し上げ、俺たちは撮影会場を後にした。


 帰り道、バスの中。隣に座った赤根さんが急に「わ、来た!」という声を上げた。


「なにが?」

「さっきカメラマンさんが撮ってくれた写真。サイズダウンしたやつをいくつか送ってくれたんだ」


 スマホに表示された赤根さんのコスプレ写真を横から覗き込む。


 うっわ、やっぱ撮影上手な人が一眼レフで撮ったのって、俺のスマホ写真とは段違いにいい!

 写真の質もそうだけど、赤根さんの素晴らしい一瞬の表情を上手く切り取るこの技術。


 なんて綺麗なんだよ!


「ん? どうしたのガタニ君?」


 赤根さんのスマホに見とれてたのがバレた。

 恥ずかしい。


「いや別に」

「もしかしてこの写真欲しいの?」

「いや別に……」


 欲しいなんて言ったらキモいだろ。

 だから言えない。ホントはめっちゃ欲しいけど。


「そっか。じゃあ、あ〜げない!」

「あ……」

「どうしたのかな?」

「いやなんでもない」


 ああ、俺って素直じゃないよな。

 でもきっと顔には『めっちゃ欲しい』って出てると思う。

 赤根さんに勘づかれてるだろうなぁ。恥ずかしい。


 それからバスが駅に着いて別れるまで、ずっとしどろもどろな俺だった。


 赤根さんはそんな俺を、なぜかとても楽しそうに眺めていた。



 帰宅したら、ちょうど赤根さんからLINEメッセージが届いた。


『今日は面白いところに連れてきてくれてサンキュ。楽しかったよ!』


 すごく楽しそうな顔の女の子のスタンプまでついてる。

 今回のコスプレ撮影会見学は、赤根さんをもっと楽しませてあげたいと思って考えついたことだ。だから喜んでもらえて素直に嬉しい。


 ──あ。


 もう一通メッセージが来た。

 ……と思ったら赤根さんのコスプレ写真だ。

 カメラマンさんにもらったやつ。


 あげないとか意地悪言ってたけどくれたんだ。

 やっぱ俺が欲しがってたことがバレバレだったみたい。


 俺の推しのイチハさん。

 やっぱりいいな。


 赤根さんがそりゃもう、すっごく美人で可愛いんだってことがバシバシ伝わる至高の一枚だ。


「あれ? お兄ちゃん、どうしたの? ニヤニヤして」


 ヤベっ。リビングのソファに寝転んでにやけていたら、妹のひかりに指摘された。


「いや別に。ニヤニヤなんてしていないから」

「え~っ、してるよ。そう言えば、この前映画観て来た日もなんだかニヤニヤしてたし」

「だから、してないって」

「ニャアニャア」


 猫の茜が寄ってきた。

 なんだよ、お前まで『ニヤニヤ』って言うのかよ。

 この裏切り者め。


 俺は黙ってソファから立ち上がって、妹から逃げるように自分の部屋に戻った。

 ベッドに寝転んで、また赤根さんのコスプレ写真を眺める。


 妹にはああ言ったものの。

 あまりにも可愛い赤根さんを何度も眺めて、俺は寝るまでニヤニヤが止まらなかった。


 ……キモいぞ俺。

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[一言] そりゃコスプレイヤーのお姉さんもニヤニヤしますわw ニヤニヤw
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