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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王女様は男爵令嬢の側仕え。学院に入学したら苛められたですって、なんて定番なんですか、お嬢様。

作者: 和泉 佐歩

本作には前日譚があります。


『王女様は男爵令嬢の側仕え。別にお嬢様に下克上された訳ではありません。』

https://ncode.syosetu.com/n9468gm/


こちらを先に読んでいただけると幸いです。

 夢をみました。


 十年近く前の夢……。


 私、獣人フレドリカが、まだ人間、クナウスト王国王女、アルティシアだった頃の夢。



    *****



「アルティシア姉様、来て下さったのですね!」


 寝台の上の少年は、私にとびっきりの笑顔を向けてくれました。彼はリオン・クナウスト、八歳。大公家の三男、私の従弟、私を「姉様」と呼び、慕ってくれています。


 寝台の横にある椅子に腰を下ろしました。こちらからも笑顔を返します。


「良かった。また発作が起こったと聞いて心配していたのですよ。でも、リオンとっても元気そう。安心しました」


「すみません。僕がこのように病弱なばっかりに、心配ばかりおかけして……」


「そんなことは気にしないで。それに、リオンの病気は小児性、これから段々と良くなっていくと治癒師達も申してるではありませんか」


 申し訳なさそうな顔を見せる彼を励ましました。


 私はリオンを大変愛しく思っています。でも、六歳も年下。リオン、どうしてもっと早く生まれて来てくれなかったの? (六歳の年の差は、殿方が年上ならばなんら問題はありませんが、その反対は……)


 彼はとても健やかな性格で、相手を思いやれる優しい子。王族に生まれ傲慢になってしまった他の従弟達とは大違いです。それに、彼はとても可愛い容姿をしています、まるで可憐な女の子のよう。


 リオン、早く大きくなって、凛々しい青年になって。そうでないと凡庸な容姿の、頑張って中の上の私は、貴方の隣に立つのが辛い。私にだって女のプライドがあるのよ。


「そうですね。そう信じます。そうでないと将来、兄上達を補佐することも出来ません」


「補佐? 貴方は大公家を継ぐ気はないのですか」


「何を言っておられるのです、アルティシア姉様。僕は三男ですよ」


 リオンは、苦笑いをしまいた。私が冗談を言っていると思ったようです。


「それはそうかもしれないけれど、リオンのお母様は第一夫人。資格は十分ですよ」


 リオンには兄が二人いますが、どちらも第二夫人の子。それを苦々しく思っている彼らは、リオンを快く思っておりません。二人が公然と(リオン)の悪口を言い放つのを何度も聞いたことがあります。


『リオンはどうして、あんなにひ弱なんだ。あれでは将来、戦など到底無理だろう。ほんとにあいつは男なのか?』


『ほんとにな。あのように見た目だけのヤツは、文官にもでもなれば良い、軟弱な文官がお似合いだよ』


 彼らの嫉妬と偏見に頭を抱えてしまいました。戦乱の世は先々代陛下(ひいおじい様)の代で終わっています。今の王国をメインで支えているのは文官達です。


 今一つ納得出来ていないようなリオンに、私は言葉を続けました。


「リオン、私には兄弟も姉妹もいません。ですから将来、私は女王として国を背負わなければなりません。その時、大公家に於いては、貴方が当主になっていて欲しいのです。リオン、貴方は人の心がわかる人です。そういう人に私は大公になってもらいたいのです。そして、私を、王家を支えて欲しいと思っています。これは貴方の従姉の切なる願いです。真剣に考えてみてはくれませんか」


 私は両の手でリオンの手をとりました。小さな手……。当たり前です、彼はまだ八歳。そのような子にこのようなことを望むのは酷なことかもしれません。ですが、将来の王国のことを思うと……。


 陛下、父上と、大公、叔父上の関係は良くありません。これは由々しきことです、父上も努力はされているようですが、いったん(こじ)れてしまった仲は容易に元には戻りません。


 私は、このような王家と大公家の関係を、私の代まで持ち越したくはないのです。だから、()()兄達ではなく、リオンに大公家を継いでもらいたい。そうでないと私は、国を背負う重みに潰されてしまうでしょう。


 ごめんね、リオン。私は自分のために貴方の心を利用します、貴方の優しい心を。


 握った手にさらに力を込めました。


「わかりました、姉様。確約は出来ませんが、僕なりに頑張ってみます。頑張って、大好きな姉様を支えられるような男になりたいと思います」


 リオンに心からの感謝が沸き起こりました。でも……、何ですか、今のキラキラした言葉は。


 ()()()()()()を支えられるような()になりたい……。


 まるでプロポーズの言葉ではありませんか!


 思わず顔が赤らんでしまうのを感じました。鼓動が早くなり思うように言葉が出て来ません。たった八歳にして、女心をここまでときめかすとは、恐るべし、私の従弟(リオン)。そして、つい思ってしまいました。


 こんな良物件。他の女に渡すの勿体ないのでは? 年の差なんて無視して婚約を取り付けちゃえば? 私を年下好きの変態だとそしるものがあれば、王太女(おうたいじょ)としての権力で粛清を!


 まあ、思っただけです。思っただけ。


 私は彼を抱きしめました。


「ありがとう、リオン。ありがとうね」


 リオンの声、まだ声変りをしていない子供の声が耳元で響きました。


「アルティシア姉様が好きです。本当に大好きです、姉様……」


 夢はそこまで。


 目覚めた後、涙が溢れてしかたありませんでした。どこで、ボタンを掛け違えたのでしょう。もし、あの時、私がリオンとの婚約を決心し、強引にことを進めていたら、王家と大公家に強い縁が出来、あのような悲劇、叔父上の凶行も起こらなかったのでしょうか?


 私がリオンを見舞った半年後、叔父上の反乱によって王宮は火の海になり、沢山の者が亡くなりました。父上も、私が妹のように可愛がっていた獣人少女、フレドリカも亡くなりました。


 二人は亡くなる間際に、私に命をくれました。父上は禁を破っての大魔法で、フレドリカはその身をもって。


 ありがとうございます、父上。ありがとう、フレドリカ。


 私は頑張ってるよ。


 頑張って生きて()()からね!



    *****



 パタ パタ パタ パタ パタ パタ。


 私は、沢山の洗濯物をいれた籠を抱えながら廊下を急いでいました。

 

「シェリルお嬢様が帰って来られるまでに干してしまわないと。もうっ、どうして水場の使用、うちが一番最後なのよー!」

 

 理由はわかっています、わかっているのです。でも、愚痴りたくなるのです。


 申し遅れました。私、フレドリカは今、王立貴族学院の寮にいます。先月、アールベック男爵家令嬢、シェリル・フォン・アールベック様。シェリルお嬢様は無事学院に入学し、寮暮らしとなられました。私も側仕え(学院規定により必須)として、お嬢様と同じ部屋に住み、お世話をさせてもらっています。


 前方から、二人の側仕えの少女が金髪を煌めかせながら歩いてきました。彼女達は仲良し、よくつるんでいます。『げ、ダブルゴールド!』と心の中でうんざりしながら、私は右側に寄り、すれ違おうとしたのですが……、


「わっ!」


 足を掛けられ転倒しました。大きな籠を胸元に持っていたせいで、差し出された足が視界に入らず、避けることが出来ませんでした。


「あらあら、こんなに何もないところで転ぶなんてね。不思議なこともあるものだわ」


「ほんと不思議ねー、なんて不思議なのかしら。アハハ!」


 二人の少女は白々しい台詞を残して去って行きました。私は何も言いませんでした。言っても揉めるだけ。お嬢様に迷惑をかけてしまうだけです。


 廊下にぶちまけられ再び汚れてしまった洗濯物を、黙々と集めていますと、栗毛の少女が来てくれました。先ほどの私の悲鳴と転倒音を聞いて駆けつけてくれたのです。


「また、あいつらなの?」


 ええ、まあ、と答え、助けに来てくれたことのお礼を言いました。


「メアリーさん。いつもありがとうございます」


「お礼なんて良いわよ。それより、ほんと嫌な奴ら! あの子達、獣人の貴女になら何をしても良いと思っているのよ、最低だわ!」


 メアリーさんはとある伯爵令嬢の側仕え、ここで私を人として扱い、友達になってくれているのは彼女だけです。彼女には感謝しています。でも、そのせいでメアリーさんまで巻き添えになってしまったら、他の側仕えとの関係が悪くなってしまったらと思うと……。そのことを彼女に伝えました。


「性悪のドブス達に嫌われたって構わないわ。私は自分に正直でいたいの。フレドリカと話してる方がずっと楽しいの。保身で、がんじがらめなんて真っ平なのよ。これは悪いことかしら?」


 私は、メアリーさんの男前さに感動してしまいました。思わず、『抱いて!』と言ってしまいそうに……コホン、コホン! まあ、これくらいの下品さは許してください。私は生娘ではありません。そんな称号は、とうの昔に奪われました。


 この後、メアリーさんにも手伝ってもらい再度の洗濯を終えましたが、待てど暮らせど、シェリルお嬢様は学院から戻っては来られません。今日は早く帰ってくると仰ってらしたのに……、嫌な予感しました、尻尾の毛がゾワッと逆立ちました。


 私はフレドリカになって以来、直感を大事にしています。獣人は人より野生に近い分、勘が良いのです。尻尾をスカートの中に入れ、大きな帽子でケモ耳を隠し、寮を出ました。向かったのは勿論、学院です。


 門衛達は、「お嬢様をお迎えに」の一言で、すんなり通してくれました。誰の側仕えなのか? さえ聞かれませんでした。うーん、楽で良かったですが、私がここに通っていた頃、彼らはもっときちんと仕事をしていました。王国の将来を担う子息達を預かると所なのに、こんなだらけきった警備で良いのでしょうか。


 私は思いました。やはり王国は確実に悪い方へ向かっている……。


 叔父上が国王になって以来、貴族や官吏らは倫理観を失い、私利私欲の追求に(いそ)しんでいます。そのあおりを食った民は疲弊するばかり。このままでは国力は落ちて行くだけでしょう。そしてその行き着くところは、領土獲得に燃える隣国からの侵攻。


 早く賢王が出てきてくれないと、国、クナウスト王国自体が無くなってしまします。でも、どうすれば……、今の私の身では……。


 いえ、今はそのような大枠(マクロ)のことはおいておきましょう。お嬢様です、お嬢様を探さねば。


 私は学院内に入ると、学院舎の北側にある裏庭に向かいました。学院内でイジメが行われる現場は裏庭が定番です。私の頃はそうでした。たぶん変わっていないでしょう。


 案の定、シェリルお嬢様は七、八名の令嬢達に囲まれ地面に転がされていました。


「あんたが獣人なんか連れてきたことで、私達がどんなに迷惑しているか、わかってるの! 寮の品位がガタ落ちなのよ、即刻、あの獣を家に返しなさい、返さないなら、あんたも一緒に学院から出てけ!」


「いや、返さない。学院の規則に側仕えに獣人は不可なんてない。フレドリカは私の大事な側仕え、友達なの、絶対返さないから!」


「口答えするな、この男爵家風情(ふぜい)が!」


 ドガッ! 「きゃあ!」


 あ、シェリルお嬢様が蹴られました。でも、お嬢様は全くひるみません。さすがです、お嬢様。


「男爵家風情がって何よ、貴女の家だって子爵家じゃない。たいして変わらないわ!」


「変わらなくない! 子爵と男爵の間には深くて大きい溝があるのよ!」


 はい、嘘です。爵位として格に大きな差があるのは、伯爵と子爵の間にです。子爵と男爵の間にはそんなに差はありません。


 ドガッ! 「わぷっ!」


 お嬢様がまた蹴られました。それにしても、我が国の令嬢達は何時からこのような乱暴者になってしまったのでしょう? 情けなくて涙も出ません。しかし、そろそろ私の堪忍袋も限界のようです。よくもシェリルお嬢様を……。私は魔法の発動の準備を始めました。


「我は炎の覇者、火炎の煉獄を統べる者。我は炎の覇者、火炎の煉獄を統べる者。我は……」


 私が出て行っても火に油を注ぐだけ。遠隔火炎魔法で懲らしめてやります。彼女達の髪をチリチリにしてやります。


 さあ、心狭き者ども、慌てふためくがいい! 火炎魔法(最小限)発動~!


 …………となる前に、一人の青年が間に割って入り、令嬢達を怒鳴りつけました。


「愚か者ども! お前達は自分達が何をやっているか、わかっていないのか!」


 びっくりしました。私は魔法の準備に気をとられて、その青年の接近に全く気付いておりませんでした。それは令嬢達も同じだったようです。驚き、そして怯えていました。


「殿下……」「リオン殿下………」


 え、()()()? あのリオンなの?


 私はその青年の顔をまじまじと見ました(私は獣人なので遠目もよく効きます)。私が隠れている木立からは横顔しか見えませんが、とても美青年で、あの少女のように可愛かったリオンの面影があります。でも、私が以前、リオンが大人になれば、こういう感じでは、と想像していた感じとは少し違いました。


 私が想像していた青年リオンは、清潔感のある凛々しい美青年でした。でも今、目にしているリオンはそうではありません。確かに美青年ではありますが、少し(すさ)んだといいますか、なんだかやさぐれて見えます。


 でも、そのようなことはどうでも良いです。


 今、こんな近くに、あのリオンがいます。私を「大好きな姉様」と慕ってくれたリオンが!


 リオン、リオン! もう会えないと思っていたのに、もう姿さえ見ることはかなわないと思っていたのに……。大きくなったね、リオン。ほんと大きくなった。喘息は治った? もう発作なんか起こしてないわよね?


 リオンは令嬢達を、「多人数で一人に暴行するなど、それでも王国の令嬢なのか!」と、叱りつけました。それに対し、令嬢たちは「寮の品位が」だの「獣人の側仕えをつれてくるなんて非常識」だの言い訳をしましたが、リオンは一顧だにしませんでした。


「そんなこと、多数で暴力を振るってよい理由になるか! 恥を知れ!」


「「「 申し訳ございません、殿下! 」」」


 リオンの剣幕に恐れをなした令嬢たちはそそくさと退却を決め込みました。そして、彼女らが去る時、私が隠れている木立の前を通ったのですが……。


「何よ、ひきこもり王子のくせに、えらそうに」


「ほんとよ。リオン殿下ってさー、陛下からの覚えが最悪なんだって。どうせ臣籍降下になるわ、王子面していられるのも今のうちだけよ」


「はは、そうなったら面白わね。うちの家、第一王子の派閥なの、嫌がらせいっぱい出来るかも」


「いいなー。うちは第二なんだけど、最近旗色悪いからねー、第一に乗り換えてくんないかなー」


「それ良いじゃない、お父様に進言しなよ。やっぱり勝ち馬に乗らなきゃ!」


 シェリルお嬢様がかわいそうになって来ました。お嬢様は、これからこのような者達が跋扈する貴族婦人社会を渡っていかなければなりません。お嬢様の真っ直ぐな性格を思うと、憂鬱にならざるを得ません。


「リオン殿下、私はアールベック男爵家のシェリル。困っているところを、お助けいただき、ありがとうございました」


 シェリルお嬢様がリオンにお礼を言っています。私もリオンにお礼を言いたい、そして、懐かしいリオンに向かい合ってみたいと思ったのですが、ためらわれました。リオンはフレドリカを知っています。フレドリカに会ったことがあるのです。勇気が出ませんでした。


「シェリル嬢、君が側仕えとして使っている獣人とは、あの者ではないのか?」


 そう言って、リオンは私の方を指さしました。どうやら、最初から私が木立に隠れているのに気づいていたようです。ばれていては仕方がありません。まあ、大丈夫でしょう。この十年で大人の体になりました、顔に大きな傷もありますし。フレドリカだとリオンはわからないでしょう。そう、思い直し、お嬢様とリオンの下へ向かおうとした瞬間、お嬢様の元気いっぱいの声が響きました。


()()()()()! 何でそんなとこいるの? こっち来なよ、こっち!」


 私は、自分の馬鹿さ加減とシェリルお嬢様の天真爛漫さに、頭を抱えたくなりました。



   +++++++++++++++++++++++++



 今、私は、リオン殿下、フレドリカと共に黙々と森の中の道を歩いています。リオン殿下も、フレドリカも全く喋りません。さすがにこの状態では、普段、空気が読めないと言われている私でも口を開きづらいです。黙々とするしかありません。


 どうしてこのようなことになったのか? 少し時間を戻して説明しましょう。


 私が呼びかけると、フレドリカは近くにやって来て、リオン殿下に私を救ってくださったことにお礼を述べました。ですが、なんだか様子が変です。あの有能で、いつも、しゃっきりすっきりしているフレドリカが、へどもどしています。まあ、相手が殿下なので仕方がないのかもしれませんが、なんとも意外でした。そして、リオン殿下も少し変でした。


「フレドリカって……、すまないが帽子をとってみてくれないか」


 フレドリカは要望通り、帽子をとりましたが、俯き加減気味。殿下は、そのフレドリカの顔をマジマジと見続けました。フレドリカは美人なので見つめてしまうのは仕方ないと思うのですが、本当に真剣にマジマジしています。


 少し、腹が立ちました。私なんか一瞥だけだったのに、この差はなんでしょう。私だって女です。殿下のような美男子に、マジマジされたいです! ブー!


 でも、結局、殿下は「まさかね」と言って、フレドリカを凝視するのをやめられました。何がまさかだったのでしょう。それに、殿下がそう言った時、フレドリカがホッとしたように見えたのは見間違いだったのでしょうか?


 私は、リオン殿下とフレドリカには、何かの関係があるのではと思いました。フレドリカは貴族の嗜みに通じ、魔法まで使えるスーパー獣人です。普通の獣人と一緒にしてはいけません。怪しい、怪し過ぎます。私は大変興味を持ちました。どこかのお嬢様(どこのだったけなー)風に言うと、


 私、気になります!


 後で、フレドリカを問い詰めても良いのですが、彼女は真実を話してくれないでしょう。彼女はきっと、()()()()()()わかったようなわからないような話で誤魔化してしまいます。


 ならば、聞くべき相手はリオン殿下です。でも、彼は王族、軽々しく問い詰めるなど出来ようはずもありません。何とかして殿下との距離を詰めないと……、そのためには時間が必要です。しかし、このまま「ありがとうございました」で、別れてしまっては終わりです。私のような下層貴族では、殿下とお話できる機会など二度と巡って来ないでしょう。


 このまま、別れてなるものか! 私は鼻息を荒くし、強硬手段に出ました。


「殿下、私はお礼がしとう存じます、何でも言って下さいませ! 身体を差し出せておっしゃられるなら、今すぐ差し出します!」


 私の淑女らしからぬ暴言に、リオン殿下もフレドリカも呆然となりました。フレドリカが慌てて私を諫めて来ます。


「お、お嬢様! なんてことを仰られるのですか!」


 片手を上げて彼女を制しました。


「うんうん、わかっています、わかっていますよ、フレドリカ。私のようなへっぽこ令嬢には、殿下にお返しできるようなものは何も無いことを……」


 顔を少し上げ、私は殿下を正面から見据えました。


「ですが!」


 リオン殿下は、お、おぅ……といった感じ。私の迫力にたじろがれています。


 …………うわぁ、こうやってまじまじと見ると、リオン殿下ってほんと美形。殿下なら白馬に乗っても絶対似合う、リアル白馬の王子様になれるよ。それに、私を助けてくれたことから見て、人としても悪くなさそう。勿体ないなー、こんな王子様が引き籠っているなんて、ほんと勿体ない。


 リオン殿下と陛下は口も利かない関係と聞いています。それ故でしょうか。リオン殿下は正妃様の御子であるにも関わらず、彼を次期国王に推す家臣たちのグループは最弱派閥。なんだかな~です。


 私は第一王子も第二王子も好きではありません。王国の大地では連年の不作が続いているというのに、彼らは華美なパーティーや、大勢の貴族子息を集めての盛大な狩り等を行い続けています。どう考えても次代の為政者にふさわしいとは思えないのです。


 私は言葉を続けました。


 「『受けた恩は早く返せ、後で返そうなどと思うな。人の人生など、何時どうなるかわからない。出来る間に出来ることをするのだ!』が亡くなったお祖父さまの遺言です(嘘です)。私は大好きだったお祖父様(これは本当)の教えを守りとうございます。さあ、何なりと言って下さいませませ!」


 自分で喋りながらも、適当なこと言っているなー。こんなので納得してくれるかなーと不安でしたが、なんと殿下は納得してくれました。うそ~ん。


「人生などどうなるかわからない。出来る間に、出来ることをせよか……。君の祖父は素晴らしいな。よくわかっておられる御方だ。わかった。では、これから行くところへ一緒に来てもらいたい」


「一緒に? どこへでございますか?」


「あそこだ」


 殿下は、裏庭の塀の向こうに広がる深き森に向けて、腕を上げられました。


「君達も俺と一緒に行って、祈ってくれ。鎮魂の祈りを……頼む」



   +++++++++++++++++++++++++



 リオンとシェリルお嬢様、そして私の三人は、森の中の道を歩き続けています。もうかなりの時間歩き、森の深奥部に入っています。このような所まで来る人はめったにいないでしょう。どこまで行くのか? 不安になって、思わず花束を持った手に力が入ってしまいます。


 この花束はリオンが用意していたものです。リオンは自分が持つと言いましたが、殆ど無理やり奪い取りました。今の私は獣人、リオンに持たせて私が手ぶらという訳にはいきません。


「着いた、ここだ」


 ようやく、とホッとした私の前にあったのは、木々が切られ整地された小さな広場。そして、そこには名前の記載が無い二つのお墓……。


 なんてこと……。リオン、貴方は本当に優しいね。涙が出そう、でも、こらえなきゃ。不審に思われてしまう。


 リオン、私は貴方のことが大好きだったよ。今だって、大好き。




 シェリルお嬢様がリオンに尋ねられました。


「殿下、この二つのお墓は?」


「先代の陛下とその姫君……。私の伯父上、アルフレッド陛下と、従姉、アルティシア姫の墓だ」


「アルフレッド陛下とアルティシア姫の墓……」


 今の国王である叔父上は兄を殺し王権を奪ったことは()()()()()()()であったとしています。私の父上が叔父上に冤罪をなすりつけ、叔父上の領、大公領を奪い取ろうとしたため、自衛のためやむを得ず反旗を翻した。あれは強欲な王への正当な懲罰であったと国民に向けて布告を出しました。


 勿論、こんな戯言を信じない者も沢山いましたし、今もいます。でも、あの反乱時に国王派だった有力貴族の殆どは潰されました。今、叔父上に逆らえる者など国のどこを探してもおりません。


 リオンは私から花を受け取り、墓に供えました。


「殿下、どうしてこのような所に、お二方の墓があるのですか? それに名前が刻まれていないのは何故ですか」


 シェリルお嬢様は当然の疑問を問われました。


「父上に知られないよう隠れて作ったからだ。だから、名前も刻んでいない」


「殿下が隠れて作った? もう少しわかるように言って下さいませんか」


 私には、この墓のことは十分わかりました。だから、もういいよ、リオン。もういい、と言ってあげたくなりました。でも言うことは出来ません。私はもうアルティシアではないのです。


 基本的に律儀な彼は、すまないという感じで説明を始めました。


「元々、伯父上とアルティシア姉様の墓は無かった。どんな小さな墓でも父上が許可を出さなかったんだ」


「そんな、陛下は、何故そこまで無情なことを。自分の兄と姪なんですよ、墓くらい立てさせてあげても……」


 シェリルお嬢様の顔が白くなっています。まあ、仕方ないでしょう。お嬢様はあの反乱のことを詳しくは知りません。叔父上の反乱は十年前。その頃のシェリルお嬢様は五歳になるかならず、その上、末端貴族アールベック家にとっては王族のいざこざなど、有象無象の自分達には関係ないという感じだったでしょう。シェリルお嬢様が、ちゃんと知らなくても無理はありません。


「怖かったんだよ。墓があれば、その墓に参る者が出てくる。前王家の無念を思い出し、忠誠を尽くそうと思う者が出てきてしまう。父上はそれが怖かった。恐れるあまり、ちゃんとした墓が絶対作れないように、二人の遺骨を他の戦死者の遺骨と一緒に共同墓地に投げ捨てた。もうわからないよ……、伯父上の骨も、姉様の骨もわからない。どの骨が誰の骨かなんて、全くわからないんだ!」


 リオンを見ているのが辛くなって来ました。眉間にはきつい皺が寄り、握りしめた拳には震えさえ起っています。彼の苦悩がありありと伝わってきます。


 リオンは、ついに大声を上げてしまいました。


「父上は正当な王ではない、忌まわしき簒奪者だ! 伯父上に不正を咎められ、それを逆恨みした最低の男だ! 人間の屑だ! 地獄に落ちて永遠に呪われればいいんだ!」


「で、殿下、落ち着いて下さいませ」


 リオンの怒りに驚いたお嬢様は、なんとか声をかけましたが、逆効果でした。


「殿下となど、呼んでくれるな! 呼んでもらえる資格なんて俺にはない。俺は簒奪者の子だ! 死ぬべきは、俺達、大公家の方だったんだ!」


 死ぬべきって……。リオン、貴方、何てことを言っているのよ!

 

「二人は俺に良くしてくれたよ。特に、アルティシア姉様には、とても良くしてもらった。病弱だった俺を常に気にかけ、発作が起こった時は必ず見舞いに来てくれた。姉様の優しさにどれだけ救われ、彼女の笑顔に元気や勇気をもらったことか。俺は姉様が好きだったよ、ほんと好きだった。それなのに……」


 リオンの声はもはや、涙声。墓の前に力なく座り込んだ。私は大きくなった彼の背中をじっと見つめた。


 私も貴方が好きだったよ、リオン。貴方を愛してた。


「それなのに、俺は二人のために何も出来ていない。出来たのはこんなちっぽけな墓、遺骨さえ入ってない墓を作っただけ! なんて情けなく、無力なんだ……。許してください、伯父上、姉様。父上を殺して自分も死のう、何度もそう思った。けれど、出来なかった。どうしても、親を手にかけると思うと剣をとれなかった、手が震えてダメだった。俺は臆病者、とんでもない臆病者だ!」


 リオンは両の拳を地面に激しく打ち付けました。


「 クソが!! 」


 もう我慢がなりませんでした。どうして何の罪もないリオンがこんなに苦しまなければならないの? どうして世界は悲しみの上に悲しみを重ねていくの? 私はリオンに向けて叫びました。


「リオン殿下、もうお止めください! 自分を責めないで下さい! 姫様はそのようなこと望んではおられません!」


「知ったような口をきくな! どうしてお前にそんなことがわかるんだ。アルティシア姉様を知りもしないのに!」


「知っています。私が一番よく知っています。先ほどは申さず申し訳ありませんでした。私はフレドリカ、姫様に妹のように可愛がってもらったフレドリカです」


 私はリオンに精一杯、優しい眼差しを投げかけました。今の私が彼にしてあげられることはこれくらいしかありません。


「フレドリカ、本当にあのフレドリカなのか……」


「はい、()()フレドリカです。お久しぶりでございます、リオン殿下。大きくおなりになられましたね」


 リオンの目からついに涙が流れ始めました。そして、私を抱きしめてくれました。私の頭は彼の胸に。リオン、本当に大きくなったね。


「良かった、生きていたんだね。奴隷商に売られたと聞いて母上に頼んで、君を探してもらったんだ。でも、見つけることは出来なかった。ごめん、本当にごめん。苦労したんだろうね。俺なんかにはわからないほどの苦労を……」


 リオンは私の左頬に優しく触れました。そこには傷があります、以前の主人につけられた大きな傷が。


「はい、苦労はしました。でも、今は幸せに暮らしております。シェリルお嬢様に買ってもらってからとても幸せです。お嬢様は私に良くして下さいます。私を獣人、ただの召使ではなく、人として、友達として扱って下さるのです。」


 リオンは私を体から放すと、お嬢様の方に向き直りました。


「ありがとう、シェリル嬢。フレドリカは僕にとっても友達なんだ。礼を言うよ」


「礼など。私はフレドリカが好きなだけです。それだけです」


 お嬢様の返事は素っ気ないものでした。でも、万の言葉より嬉しい。お嬢様と一緒にいると笑顔になります。いつもそうです。


「ですから殿下、私のことは心配しないで下さい。それより殿下のことです。姫様は殿下のことを、心の底から大切に思っておられました。だから、もし今、姫様がここにおられれば、罪のない自分を責めたりせず、幸せな人生を送って欲しい、きっとそう仰る筈です」


「…………そうだろうか」


「そうですよ。これまでのリオン殿下の苦しみ、心の傷をお癒し下さい。それが供養にもなります。姫様が、陛下が、大切に思っていた貴方が苦しみ続けられていては、お二方の魂に平安は訪れません。ですから殿下、これからは……」


 と、そこまで言葉をつないだ時、シェリルお嬢様から思わぬ言葉が投げかけられました。


「フレドリカ。なにを腑抜けたことを言っているの。リオン殿下は甘えています。それ以上、甘えさせてどうするの」



   +++++++++++++++++++++++++



 殿下の話には同情しました。ですが、釈然としないものがありました。彼の思考は、自分の周りのこと、ごく身近な人達のことに限定されているのです。忌まわしき簒奪者の父親、良くしてくれた伯父、彼に大変優しく、彼が慕っていた従姉(ねえさま)そして、可哀そうな自分自身のこと。それだけです。


 殿下には、殿下の立場、その立場において為すべきことは何か? という観点が、すっぽりと欠落しているのです。私は以前、このようなことをフレドリカと話したことがあります。



「ねえ、フレドリカ。王女様だったって言うけど。王女様って、普段何を考えているの? 何か私達とは違うことを考えてる?」


「うーん、考えてることは普通ですよ。今日の食事は美味しかったなとか、あのドレスは似合わないなとか」


「なんだ、そんなんだったら私とそう変わらないじゃない」


「変わりませんよ。でも、立場がありましたからね。特に私は一人娘で、王位を継ぐことは決定してましたので、そのプレッシャーは大変でしたよ。将来、私が判断一つ間違うだけで、多くの国民が飢えたり、死んだりする可能性があるんですからね」


「あー、そうねー。それは大変なプレッシャーよね」


「でも、嬉しいことでもありましたよ」


「嬉しいこと?」


「ええ、だって私が正しい判断をすれば、沢山の人が、獣人が豊かに、幸せになれるのです。そういうことを出来る立場なんです。それは素晴らしいこと、本当に素晴らしいことなんです」


 

 それなのに、そうであるのにフレドリカは、ベタベタにリオン殿下を甘やかしています。可愛くて仕方がない弟を甘やかす姉であるかのように……。


 何が『これまでのリオン殿下の苦しみ、心の傷をお癒し下さい』よ。『それが供養にもなります』よ。


 腹がたった私は、つい、リオン殿下が私の命なんか簡単に消し去ることの出来る王族であることを無視して言ってしまいました。


『フレドリカ。なにを腑抜けたことを言っているの。リオン殿下は甘えています。それ以上、甘えさせてどうするの』


 私の言に唖然となった二人ですが、フレドリカが直ぐに取りなそうとしました。


「殿下、お嬢様は天真爛漫というか、怖いもの知らずというか、そういう面白いタイプの方なのです。どうか怒らないでやって下さいませ」


 かなり焦った感じのフレドリカでしたが、殿下は、君の恩人だ、怒る気などないと彼女に告げました。


 殿下がこちらを向かれました。とても真剣な顔です。その表情には、本当に私への怒りは無いように思えます。あるのは……何でしょう。よくわかりません。


「俺が甘えている? それはどういう意味だい、説明してもらえるかな」


「ええ、勿論。殿下、貴方は王子様ですよね、それも正妃様がお産みになった。それなのに、どうして王位を目指さないのですか? 殿下は王位を目指す努力を全くせず、自らの館に引き籠ってばかり。挙句の果てには、第三王子はもうダメだ。そのうち、臣籍降下だよ、などと囁かれる始末」


「…………」


 殿下は黙って聞いてくれました。嬉しかったです。『何故、そのようなことが関係あるんだ!』などと、お怒りになるようなら、リオン殿下はダメだと、諦めてしまったでしょう。


「殿下、十年前の悲劇の最大の被害者は誰だと思いますか?」


「それは、陛下と姉様だろう。自らの弟に、叔父に殺されたのだから」


「違います。最大の被害者は国民です。今の陛下、殿下が言われるところの忌まわしき簒奪者を王に戴かなければならなくなった民が一番の被害者なのです」


 殿下とフレドリカの目が大いに見開かれました。殿下はともかく、フレドリカ、あんたねー。これ、殆ど貴女が言ったことの焼き直しよ。まあ、貴女は王女様ではなく、王女様の妹分だったようだけど……。


「今、国は悪い方向に向かっています。これは私のようなものでもわかります。貴族学院に入学して、よくわかりました。ろくな学院生がいません。こんなのが国の将来を担う者達なのかと呆れ果てています」


 まあ、全部が全部という訳ではありません。中には優秀で素晴らしい学院生もいます。ですが、ここではインパクト重視です。


「だから、殿下には王位を目指して欲しいのです。王位について、ガタガタになってきている国を立て直して下さいませ。殿下は、前陛下やアルティシア姫様の死をあれほどまでに悲しむことが出来るお方。きっと、民のことを思いやれる素晴らしき賢王になることが出来ましょう」


 私は、地面に膝と手をつき、殿下に頭を下げました。自然と体がそう動いたのです。どうしてでしょう? この国、クナウスト王国には立礼の風習しかありません。


「再度、お願い申し上げます。王位を目指されませ。そして王になられ、この国を正しい方向に戻して下さい。殿下はそれが出来る立場におられるのです。私やフレドリカの微力でよければ、いくらでもお手伝いさせていただきます。ですから、どうか王位を!」


 ”それこそが、亡くなられた陛下、姫様への真の供養ですよ。リオン殿下”



 殿下は私の懇願に、イエスとは言ってくれませんでした。ただ、ノーとも。


「わかったよ。考えてみる、検討してみるよ。今はそれしか言えない」


 でも、私は満足でした。即断せず、じっくり考えてみようというその姿勢に好感を持ったのです。私自身は即断即決のタイプです。ですからその利点もよく知っていますが、その欠点もよく知っています。本当に、本当によく知っているのです。



   +++++++++++++++++++++++++



 学院の寮に戻って来ました。シェリルお嬢様が今更ながら慌てております。


「あー、またやってしまった! この性格直さないと、いつか無礼でギロチン台送り、なんてことに! どうしたらいい? どうしたら、この性格改善出来るの? 教えてよフレドリカ!」


 知りませんよ、そんなの。それにしても、お嬢様といると楽しいというか、なんというか。ほんと飽きませんね。これは、リオンも思ったようです。森からの帰り道、リオンは私にそっと言ってくれました。


「フレドリカ、君は良い主人にめぐり逢えたな。彼女は良い令嬢だ」


 良き令嬢ね……。一直線に惚れた! という感じではありませんが脈ありとみました。


「シェリルお嬢様、明日からお嬢様への淑女教育をより厳しくすることにします!」


「何よ、突然。なんで急にそんなこと言いだすのよ」


「私には目標が出来たのです」


「目標?」


「ええ、お嬢様をリオン殿下の妃にすることです。そして、いつかは王妃に!」


「殿下の妃に! 王妃にですって! 私なんかがリオン殿下と結婚出来る訳ないでしょ。フレドリカ、貴女の頭がおかしくなったんじゃない?」


 お嬢様は、何をバカなことをという感じで反論してきますが、お顔が真っ赤です。こちらも脈ありですね、良かったです。私が、泣く泣く譲ろうとしている()()()()()を『え~、あんなヤツ。やだ~』とか言ったら蹴り飛ばしてやろうかと思っていました。良かった、良かった。


「大丈夫ですよ。お嬢様はリオン殿下が慕っていた姫様、アルティシア姫に負けない魅力を持っておられます。自信をお持ちなされませ」


 お嬢様に、パーッと笑顔の花が咲きました。


「え、え、アルティシア姫に負けない魅力って本当? 私、増長しちゃうよ?」


「増長してくださって結構。本当のことです。姫様と共に暮らした私が言うのです。間違いではありません」


「やったー! 私、そんな凄い娘だったんだー!」


 大喜びするお嬢様。ちょろい、ちょろ過ぎです。善は急げ、私は寮にある図書室にお嬢様を連れて行きました。お嬢様を机に座らせ、次々と本を山のように積み上げて行きます。


「フレドリカ、何これ?」


「何って、本です、知識の泉です。王妃になるためには、最低限これらの数倍の知識を持たなければなりません」


「ぐはっ!」


 あっ、お嬢様が机に突っ伏されました。でも、大丈夫でしょう。私が見込んだお嬢様です、これくらいの試練、難なく乗り越えてくれる筈です。


「ファイトです、お嬢様!」 はい、二冊追加。


「ぐはっ!」




 私は、心底、シェリルお嬢様とリオンが結ばれて欲しいと思っています。私はこの国を、クナウスト王国を二人に託したいのです。王国はダメになって来てはいますが、まだまだ腐りきってはいません。獣人の私を色眼鏡で見ることなく助けてくれるメアリーさんのように素晴らしき国民も沢山いるのです。


 リオンのこれからは、とても辛いものになるでしょう。彼は、王位争いで第一王子や第二王子にかなりの差をつけられています。その差を挽回し、王太子の座を勝ち取るのは並大抵の難事ではありません。茨の道そのものです。


 そして、人とは弱いものです。荒み切った荒野を一人独力で突き進める者など滅多にいないのです。ですから、お嬢様。お願いです。リオンの伴侶となり彼を助けてあげて下さい。お願いです。


 私は貴女に救われました。貴女となら一緒に生きて行きたいと思わせてくれました。リオンも、きっと思う筈です。貴女とずっとずっと共にいたい、共に年を重ねていきたいと。


 貴女がいれば、彼は頑張れる。きっと頑張り続けることが出来る。


 どうか、私達、不出来な王族の光となって下さい、お願いです。


 勿論、私だってお嬢様に頼るばかりではありませんよ。精一杯努力します、命の限りを尽くします。


 だから、ここで再度宣言しましょう。




    私は永遠に貴女のもの、貴女のフレドリカです!



 好きです! 大好きです! 愛しています! シェリルお嬢様!


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