何も失くす事のできない
あの頃の僕は
失くすものなんて
何もないと思っていた
まあ実際に何もなかったけど
弾かれたり
笑われたり
蔑まれた
そんな世界を
見返す機会ばかりを窺っていた僕は
負った傷を盾にして
自分になら何かできるはずと
根拠の無い自信だけを胸に秘めて
忘れたくない痛みがあった
思い出にしたくない過去があった
時間は何も解決してはくれなかったけど
そうやって心に決めたものだけは
遠慮も無く記憶の彼方に押しながそうとして
必死に忘れてなるもんかって
抗い続ける事こそ
正義だと
自分を守れる事だと
信じていた
何も失くすものなんてないと
この世界を見返す機会を窺い続けた僕は
結局
自分のためだけに
抗って
守り続けた僕は
気付いた頃には
何も失くす事のできない大人になって
困っている人へ分け与えるものも持てなければ
守りたいと思えた人へ
差し出せるものだって
何一つ持っていなくて
僕は何がしたかったんだろうって
今更ながらに考える
あんなに忘れちゃいけないと
守り続けてきた過去も自分も
今の僕の惨めさに
陰影をつけてくれるだけだし
僕は一体何がしたかったんだろう
あんなに必死に
あんなに夢中で
あんなに拘って
あんなに時間をかけて
作り上げてきた僕は
何も失くす事すらできない
復讐すら失敗した
空っぽな自分
僕は一体何がしたかったんだろう




