結末
「……なるほど、それでこちらに。分かりました。では早速例の指輪を見せてもらっても良いでしょうか。ああ…かなり強い念を感じますね。恐らく彼女、今丁度あなたの後ろにいらっしゃるんですけどね、そう、彼女にとってとても大切な物だったみたいです。それを無下に扱われて我を忘れるほどに怒ってらっしゃる。少し待って下さい」
坊主は今度はSの後ろに居るという女に話しかける。
「うん、大丈夫です。もうこれは私が大切に扱いますから。勿論あなたの物ですよ。これは恋人からもらった、はい。ああ、プレゼントだったんですね。少しずつで大丈夫。彼がその後不慮の事故で亡くなって、あなたもすぐ後を追い滝から飛び降りた。それでその時指輪を落としちゃってずっと探してたのか、分かりました。こちらの方はあなたの物だって気づいてなかったんですって。そうです、だから自分の物だって勘違いしちゃった。そうそう悪気があったわけじゃないんです」
今度はSに向かって話す。
「大分落ち着いたみたいです。それと、Sさんの足首。右です。掴まれました?紫色のモヤモヤした煙みたいなのが見えて……ああやっぱり。一応祓った方が良いかも知れない。そうしますか、じゃあ一度外で待ってもらって良いですか?……ありがとうございます。私はもう少しこの方と話をしてから行きますので。はい、では後ほど」
Sは坊主の言う通り出て行った。
「……M、私だよ。覚えてないかい?こんな老けちゃったし、頭も剃ってるから気がつかなくても仕方ないか。私はあなたの弟のS。もう今では弟の私の方が年上だよ、不思議なもんだ。……そう!思い出したか!じゃあもう大丈夫だ。やっぱり未練だったんだねぇ。あなたが身を投げた後大雨が降って、結局遺体は見つからなかった。この指輪だけ戻って来ただけでも私は嬉しいよ。そうそう、あなたの彼はもう成仏したから、次はMの番。まずさっき出て行った人のお祓いしてからね。凄い力で掴んでたよ。うん、話は勿論聞いてやるから。はいはい、じゃあまた後で。ちゃんと待ってるんだよ」
坊主が再びSの元へ向かう。
「お待たせしました。しかし因果なものですねぇ……あ、いやいや、すみません。こっちの話ですのでお気になさらず。はい、ではこちらへどうぞ」
読んで頂きありがとうございました。
この坊主は実はMの恋人だったというオチも考えたのですが、ホラーよりヒューマンドラマになってしまうし、心中未遂もなんだかなあと思ったので、最終的に弟に落ち着きました。