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女M

連載ですが三話で終ります。

 もうどれだけ歩いたかしら。思い出せないくらい昔の事に感じられる。大分下流まで来た。日も傾いている。今日も見つからないのかな、ずっと探しているのに。苦しい。彼がくれた大事な物。でもまだ疲れてない、疲れるわけにはいかない、アレを見つけるまでは。


 絶対に。


 あら、向こうの人も何か探している。でも私とは違う。私はこんなに胸が締め付けられているのに、あの人はどこか楽しそう。あの人は探しているんじゃないわ、ただ拾っているんだ。早速何かを川の中から見つけた。遠くからだからよく分からないけど、夕日に照らされて光ってる、小さくて綺麗。なんだろうこの感じ。心が満たされていく感覚。私は一人じゃないって思える。これからずっと幸せなんだって。いつかの時と似ているな。何だっけ。そうだ、彼が私にアレをくれた時の気持ち、今キラキラ光ってるアレ。私には分かる。


 やっと見つけた。絶対に返してもらわなくちゃ。


まずあの人に事情を説明しないと。あ、待って、ダメ、行かないで。どうしよう、せっかく見つけたのにまた離れていく。もう悲しい気持ちはうんざり。


 ついて行くしかない。


きっと話せば分かってくれる。でもあんまりジロジロ見ないで欲しいな、私がもらった物なのに。

 アパートに入っていった。とりあえず玄関まで行ってみよう。はあ、階段を上るのは大変だ。散々探した後だからしょうがないか。でももうアレはすぐそこ、頑張れ私。玄関の前まで来た、呼び鈴を鳴らそう。でもあの人、大雑把そうだからベル鳴らしたらドアの脇にどこう。当たって怪我したらたまったもんじゃない……おかしい、出て来ない。もう一回鳴らそう、ダメだ。じゃあ乱暴だけど扉を叩こう。今度は出て来てくれた、ってちょっとすぐ閉めないでよ!舌打ちまでして感じ悪い!


 私はただ返して欲しいだけなのに。


残念だけど今日は諦めよう。せっかく階段上ったのにな。

 あれ?あの人がゴミ袋持って降りてくる。ちゃんと朝に出さないといけないんだ。でも私にとってこれはチャンスだ。もし鍵をかけてなかったら家に入ってアレを見つけてやる。そうと決まれば急がないと。階段で疲れたなんて言ってられない!よし開いてる!……汚い部屋だな。いや、今はそれどころじゃない。どこに隠した。私の大切な物。返して、どこ?どこ?……ダメだ、見つからない、近くにあると思うんだけど。あっ足音が聞こえる、戻ってくる。どうしよう、今出て行ったらバレちゃう。隠れなきゃ、どうしよう。クローゼットはダメ、開けられるかもしれない。お風呂場もダメ。そうだベッド!下に何も仕舞ってなければベッドの下しかない!よし何も無い、入っちゃえ!

 ふう……焦っていたとはいえ、やってしまったな。これじゃあ私が悪者みたいだ。隙間からあの人の足が見える。汚い足。色々確認してるみたい。バレてないよね?……はあ、どうしよう。出て行けるタイミングを逃さないようにしないと。いつまでもここに居るわけにはいかないわ。その前にバレたら絶対にいけないんだけどね。こんな状況で見つかったらこっちが何を言っても無駄。そのくらい分かる。


 でもこれも彼からもらった大事な物の為。


うわっベッドの上に来た。怖い。絶対に音を立てちゃダメよ。凄い圧迫感。でも頑張れ私。そうだ、この人が寝たら静かに抜け出せば良いんじゃない?でも今は寝そうにない、多分携帯いじってる。夜まで待つのはしんどいけどこれしかない。

 一体どれくらい経ったかしら。一瞬のようにも永遠のようにも感じられる。でもさっきあの人が電気つけてたからきっと夜にはなったのかな。あ、玄関で音がする。出て行くのかな?もしそうならこの好機を逃しちゃいけない!……違う。人が一人増えた。お酒でも飲むのかしら。やっぱりそうだ、缶ビールの袋が見えるもの。はあ、いつになったらここから出られるの?いつになったらアレを返してもらえるの?

 全然チャンスが来ない。あの二人はもう大分酔っぱらってる。私が彼からもらった物もどこにあるのか分からない。悲しい。どうしてこんな事してるんだろう、バカみたい。でも、どんなに私が惨めでも絶対に諦めない。あ、アレは…光ってる。私の。ついに見つけた。あの人がアレを持って、もう一人に自慢してる。違う。それは私がもらったの、やめてよ。私の物なんだから…ねぇ、何してるの?そんな事しないで。口に入れるなんて。下品。信じられない。私と彼の思い出。そんな風にするなんて。


 許さない許さない許さない。

 

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