表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

五日目 ハーブティー




 昨日俺は、茉莉花の家に行って指示を仰ぐつもりだった。なのに、昔のようにゲームをして遊んだだけだった。帰り際「ごめんね。お母さんがなんか喜んでいたから、夏樹と二人で話したいって言えなくなっちゃって。明日こそ、よろしく!」とあっさりと言われた。

「は?俺、忙しいんだが」と言ったが「家に帰ってゲームかPCいじってるだけでしょ?」と言われ図星だったので言い返せない。「手短にお願いします」それだけいうのが精いっぱいだった。




 いつも通り、学校に着く。だけど、今日はいつも通りの朝ではなかった。玄関で彼女の姿を見つけた。向こうもこっちに気が付いたようで、視線が合った瞬間大きい瞳をさらに見開いた。またゲームの話でも始まるのかな、そう思ったのだけど、彼女は一瞬固まって「おはよ」とだけ言うとさっさと教室の方へ駆けて行った。


 なんだろ、これ。

妙な引っ掛かりを覚えたが、違和感の正体なんてキモオタの俺にわかるわけがない。今の俺はいろいろと手いっぱいだ。不得意分野は、気にしないでおこう。






******






 放課後いつも通り教室を出て生徒玄関へ向かう。

いつも通り、という表現もこの頃怪しいな。俺のいつもとは一体何だろう。靴をひっかけて歩き出す。後ろからパタパタと足音を確認し、そのまま玄関を出る。

横に並んだ彼女を目の端で捉え、「うっす」と小さくつぶやく。


 そこへ



「ねえねえ、今日も途中まで一緒してもいい?」



と後ろから声がした。俺は振り向かない。

隣で「別にいいよ、ね?」と茉莉花が言ったのでうなづく。



 彼女は茉莉花の隣に並ぶと楽しそうに話し始めた。茉莉花は、彼女と普通にゲームの話をしていた。キャラがどうとかステージがどうとか。話の内容から、どうやら教室で誰とでもこんな感じらしい。そのことに俺は驚きつつも安堵した。


 たぬき公園へ向かう道の交差点まで来ると、彼女は「じゃあ、わたしはここで。バイバイ。また明日ね」と言って駅の方に向かっていった。俺は違和感を覚えたが、その正体にすぐに気づけず無言で彼女の後姿をじっとみつめた。

そのまま、だまって公園に向かう。途中のちいさな商店で、飲み物とお菓子を買った。田舎の裏通り。コンビニはない。小さなころから通っている店で、俺も茉莉花も勿論顔馴染みだ。



「おばちゃん、喉かわいた」



 コンビニのような大きな冷蔵庫はない。レジの横に冷蔵ケースがあって、そこに少ない品揃えの商品が無造作に入っている。

おばちゃんが俺たちの顔をみると俺にはハーブ系のお茶、茉莉花にはミルクティーのペットボトルを差し出した。二人で顔を見合わせて苦笑する。お菓子だけ選んで、俺が支払う。茉莉花は「自分のは出す。奢りはしないけど」と言ったが、「俺、懐に余裕があるから」とだけ言ったら「ありがと」って笑った。







「いつも紅茶飲んでるけど、ハーブティーも飲むんだね」


「どっちかっつうと、ハーブティーが好きなんだよ。だけど、ハーブティーのって、どこにでもあるわけじゃないから紅茶を飲んでることが多いだけ。お茶全般、好きなんだけどさ」


「ハーブティーって癖があるんじゃないの」


「なんか、そのクセにはまった?みたいな?」


「そうなんだ」






 ハーブティーで喉を潤しながら、俺は今朝の彼女の様子を話した。


「いま、一緒に居て茉莉花は違和感あった?」


「全然。だって、普通に話しかけてきたよね?楽しくしゃべってたよね?」


「お前たちがな」


「まさか夏樹は言葉を発してない?」


「じゃあな、ぐらい?」


「嘘。夏樹、おしゃべりなのにね」


「はあ?内気だろ?」


「内弁慶でしょ」


「……まあいいや。茉莉花に思い当たる節がないなら、いいか」


「んー、ちょっと気を付けてすみれの様子見てみるね」


「悪いな。ああ、もう時間だ。ごめん。結局今日も話聞けなかったな」










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ