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それを初恋と人は言う〜ゲーヲタの初恋〜  作者: 中村悠
セカンドラブの二週間
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八日目 新たなる始まり




 いつもの時間に登校する。少し眠いが仕方がない。あくびをこらえながら教室へと入っていく。荷物を置いた後、これまたいつも通りに廊下に出る。すると昂輝がやってきた。変わらない日常だ。



「眠そうだな」


「ああ、眠い。やばい」


「ぎりぎりにガッコ来ればよかったのに。そしたら一時間近く寝れるだろ」


「ペースを崩すと疲れるからさ。それに昂輝とこうやって話してる方が目が覚めるだろ」


「どうだか。で、なんで眠いわけ?」


「ゲームしてた。……すみれと」


「盛り上がって朝まで?」


「ま、そんなところ」



 昂輝はそれ以上は聞いてこなかった。きっと俺の気持ちには気付いているだろう。だけど、俺が何も言わなければそれ以上突っ込んでこなかった。それは、茉莉花の時もそうだった。その優しさにどれだけ救われたか。ただ笑って俺の話すことを聞いてくれるのだ。



「おっはよー」


「茉莉花。おはよう」


「なんだ、茉莉花。今日は一人か」


「なんだとは失礼な。わたしが今朝一人なのは悠一が良く知っているでしょ」


「なんのこっちゃ」


「朝起きたらすみれから、ぎりぎりまで寝るから先登校してて~ってメッセージが入ってたの。送信時刻にびっくりだよ。何時までゲームしてんのよ」


「そんなの茉莉花に言われたくない。お前の垢、ゲーム三昧じゃねえかよ」


「そ、それはそうかも、だけど、それにこれからあんまり夜更かしはしない。夏樹が夜更かしはお肌に悪いからって遅い時間は一緒にしたくないって」


「で、夜更かしはほかのギルメン達とするんだ。夏樹、焼きもち焼いちゃうよ」


「大丈夫。ちゃんと言ってあるから。それに俺が夜更かしさせているわけじゃないならいいって言われたし」


 

 さりげなく鎌をかけたのに茉莉花は事も無げに返事をした。今日の放課後、夏樹が俺に話す内容は決定だな。わかっていたことだけど、今の俺はそのことが嬉しい。茉莉花の様子もいつもより気分が良さそうで、表情が柔らかい。今は心からおめでとうと思っている自分にこんな日が来るんだなと心にじわぁっと染みていった。だけどそれを悟られないようにわざと憎まれ口をたたく。



「それを鵜呑みにするのもどうかと思うけれど」


「俺だったら彼女が知らない人たちと楽しく盛り上がってたらツライ」


「嘘、昂輝って全てにおいてクールかと思ってたのに」


「俺は表情に表れないだけで、激アツだ」


「ハイハイ、そうやって揶揄って」



 茉莉花と三人で阿保な話をしていて初めは気づかなかった、その違和感に。途中何かがいつもと違う気がしたけれど、三人で話しているのは楽しくてそのわからないモヤモヤを突き詰める気にはなれなかった。気遣うこともなく馬鹿なことを言っているうちにようやく眠い頭もクリアになってきた。気心の知れたメンバーで話しているのは気が楽でいいな、いつもならこういうわけにはいかないからな、とようやくそこで気付く。今朝は女子たちが囲みに来ない。何の気もないように装って、周りをぐるっと見渡してみると明らかに女子がこそこそしている感じがした。そこへ夏樹がいつも通り登場というか、通過した。



「おはよ、夏樹」


「うっす」



 きっと二人は付き合いだしたんだろうなと思ったが夏樹の様子に変わったところはなく、違いといえば夏樹の後ろを親鳥を追いかけるようにくっついていった雛鳥、茉莉花の存在だけだ。もう始業のブザーが鳴るなと思った時、廊下にようやくすみれの姿があった。駆け足でこちらに向かってくるが、それは一刻も早く俺に早く会いたいからではないだろう。スピーカーからは、案の定始業のブザーがなった。



「おはよ。昨日は楽しかったね」



 目の前を走り去りながら何とはなしに掛けられたすみれの言の葉に周りはざわめき空気は揺らいだが、急ぐすみれにはその波は耳届かなかったようだ。昂輝が俺の肩をポンと叩き、嫌な笑顔で「また後でな」と教室へ向かった。教師達がやってきて、さっさと教室に入れと大きな声で話していたが、その声は遠くの方で鳴る風の音のように自分にはまったく届かなかった。




 昼休みになると昂輝がやってきて、俺の前の席に腰かけた。俺は廊下に出る気にもなれなかったから丁度良かったが、こういう時ほど廊下でいつも通り過ごした方が良かったのだろうか。



「俺さ、今日の放課後、夏樹と待ち合わせてんだ」


「うん」


「多分、報告だよね」


「だろうな」


「茉莉花、幸せそうだった」


「ああ。でも……」


「でも?」


「お前も幸せそうだよ」


「そうだな。いろんな意味でそうかも」


「いろいろ、な」


「また、みんなで集まってゲームとかできるかもな」


「今時ゲームで集まらないだろう?」


「オフ会だ、オフ会」


「それを言ったら、お前にとっちゃ学校がオフ会じゃねえか」


「だな」



 


 ああ、今頃俺のデートの相手がすみれだって更に広がってんのかな。なんかリアクション取っといた方が良かったのかな、とか考えた。

すみれが皆から詰問されたらあっさりと「違うよ」って否定すんのかな、とか、すみれは「ただの友達だよ」っていうのかなとか、とか、とか、とか。


 考えるほど、どんどん負のイメージに傾向して昼休みは終わった。




 放課後のたぬき公園は、なんだかあっさりとさっくりとするーっと終わった。夏樹も俺の変化には気付いてはいたんだろうが、報告が互いが前に進む儀式のようなものであったのだと思う。

その後、禎丞が合流し、郎の店に行く。いつも、常に時間さえあればバイトしている朗も今日は特別にと結構話せたし、夏樹の奢りだからといってご飯も一緒に食べた。昂輝にも朗の店に行く前にメッセージを入れておいたので、途中で短時間だったけど加わった。「恋バナならよろこんで~」と冗談言ってたけど、昂輝がそんな風に茶化すことが昔のあの空気感に戻った気がして嬉しかった。このメンバーがそろったのは小学生ぶりだ。禎丞のどこから仕込んだんだというくっだらないネタに大笑いした。はははって吐く息が肩の力が心底抜けているようで、さらに脱力した。



 ようやく何かが終わった気がしたけれど、それよりは新しいステージが始まった高揚感が勝って帰り道の花信風に心が躍った。












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