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第八話 冒険者登録試験:前編

シャルさんに続いて進んだ先は、受付のお姉さんが立つカウンター。

隣の受付は、冒険者さん達が依頼書を持ってクエストを発注している。

するとこっちは、それ以外の要件の窓口みたいだ。


「お待ちしておりました、彼が先ほどお話された候補生ですね?」

「ええ、申請をお願いできる?」

「かしこまりました、シャルヴィオレ様。後の手続きは私らにお任せください」


受付のお姉さんはシャルさんから一本の巻物を受け取る。

シャルさんが早く来てたのはこの為か。


先に受付のお姉さんに話しておいてくれたらしい。


「えっと、よろしくお願します」

「よろしくお願いします、私はエノシィと申します。以後お見知りおきを」


茶髪の長い髪と、眼鏡をかけたエノシィさんは淑やかな印章の受付のお姉さん。

落ち着いた色合いの制服が良く似合っている。


エノシィさんに続いてカウンターの脇から奥の部屋に向かう。

部屋に入る前に少しだけシャルさんの方を見ると。


「また集会場で会いましょう」

「うん、行ってきます!」


集会場の二階のとある部屋にたどり着いた。

壁一面に巻物を入れる棚と、天井から大きな魔結晶がぶら下がっている。

その真下には、金属の輪が置いてあった。


「さて、ヴィッカーズさん。まずは身体情報鑑定をします、そちらの輪の中に入ってください」

「クロムでいいですよ。よっと、こんな感じですか?」

「はい、大丈夫です。それでは始めますので、手は降ろして体に着けておいてくださいね」


エノシィさんが短い杖を振って魔法を唱えた。


「天よ、かの者が持ちし力と才を見抜き、刻み込め。バイオロ・アナリシス・トライア」


リングが光り、ゆっくりと上がっていき天井の魔結晶にくっ付く。

光の文字が体の周りを囲んで回っている。

「筋力」とか「知性」とかの単語を何とか読めたくらい。


しばらくするとリングはゆっくりと降りていき、足元まで降りてきた。


「はい、お疲れ様です。鑑定結果をお伝えしますね」


巻物を取り出したエノシィさんから結果を聴く。

一応体力には自信あるけど…


「筋力と持久力は十分ありますね、知覚と俊敏性に関しては最も優れていますね」

「よっしゃ!思った通り!」

「えぇ、そのようですね。しかし、知性と魔力はあまり芳しくないですね」

「うっ…思った通り…」

「残念ながら、素質が無魔法(ノーマギ)の為、全属性の魔法に適性がありません」

「えー!?まさか…汎用魔法まで使えないんですか?」

「その通りです。ですが、魔道具やスクロールは使えますし、獣人系の方はもとより魔力に適性が無い方が多く、その分物理職と相性が良い傾向があります」


なんとか魔道具は使えるみたい、でもやっぱり残念だなぁ。

魔法が使えたら火とか雷の魔法で鍛冶作業に使ったり、地属性なら精錬とか採掘がやりやすくなるかと思ったけど、魔法は魔道具に頼りっきりになる。


「それと、クロム君。貴方のもう一つの素質に不自然な点が見つかりました」

「不自然?どういうことですか?」


まさか、レリックの事かな。

エノシィさんが使った魔法から察するに、体の情報を調べられる魔法だろう。

きっとレリックに関係した能力を探れるかも?


「本来なら、先ほどの無魔法に続いて記される項目ですが…」


巻物をエノシィさんに見せて貰うと、不思議な紋章が刻まれていた。


「この紋章は、この国に伝わる創造神・アクト様の紋章です。内容は一切記されていませんでした」

「これって、どういう意味なんですか?」

「申し訳ありません、私も始めて見ました。しかし、アクト神に関わりがあるとすれば…アーキティクス教会の神父様ならきっとご存じかと」


鑑定の魔法でも判別しきれなかったレリックの存在。

知られずに済んだのは良かったけど、ますます気になってしまう。


「それ以外に体の異常や後遺症は見つかりませんので、冒険者として戦うには問題無いでしょう」

「わかりました、ありがとうございます。紋章については自分で調べてみます」


ちょうど首都に向かうことだし、教会の神父さんにも話を聞かなきゃ。


エノシィさんが巻物にサインを書き、それを受け取る。


「頑張ってくださいね。次はクラス適性試験ですので、こちらの部屋でお待ちください」


エノシィさんに案内された部屋にはいくつかの机とイスがある。

机の上にはそれぞれ巻物とインクとペンが置いてあった。


椅子に座ってしばらく待つと、他の冒険者候補たちも数人入ってきた。

手足の鱗と太めの尻尾を持つ爬人の少年

短めの耳と明るい表情の獣人の少女

後ろ髪を三つ編みにした真面目そうな人間の女の子

浅黒い肌で人間に近い顔立ちと曲がった角を持った目つきの悪い少年が入ってきた

獣人にしては獣の要素は少ないし、爬人のような滑らかな鱗もない。


彼はいったいどんな種族なんだろう?


「めんどくせぇ、んなくっだらねぇ事やってねぇでさっさと終わらせろオラぁ!」

「うっさいわね!だったら大人しくしてなさいよ!」

「黙れ毛玉女、俺様は魔物をボコれりゃいいっつってんのに試験がどうのでイライラしてんだ!」

「イライラしててもなんにもならねーぞ、気楽にいこうぜ」

「てめぇもだトカゲ野郎!腹立つんだよその喋り方がよぉ!」

「皆さんお静かに!」


エノシィさんの声で場がおさまるも、気まずさが消えないままでいた。

やっぱり、冒険者になる人ってみんな血の気も濃いのかな…


四人はそれぞれの席に座り、適性試験が始まった。

オレの隣に、魔人さんを宥めようとした爬人さん、もう片方は言い返してた獣人の子。

その隣には真面目そうな子、騒ぎの発端となった魔人さんはさらに離れた隅っこに座った。


「それでは、クラス適性試験を行います。これから行う試験の内容で、あなた方の冒険における役割(ロール)並びにクラスが選定されますので、正直にお答えください。もしも虚偽に回答して苦労するのは、己自身ということを重々承知ください」

「チッ!」


まるで誰かに釘を差すような言い方だ、エノシィさんもしかして怒ってる?


「では皆さん、お手元のスクロールを開いてください。問節は私が読み上げます。」


さて、どんな中身なんだろう?


「第1問。君に気の触れた錬金術師が近づいてきて「お前のマギスティック・アラケリウス・シリンダーに俺のルクシオム・アルモナイターを入れてやる!」などと叫んでいる。何と答えるかな?」


もうこの時点で意味が分からない!

これ対して自分らしい回答をしないといけないっぽいけど…

マギスティ・アラケリウス・シリンダーって何!?ルクシオム・アルモナイターって何!?


「選択肢を読み上げます。

1番、「けど先生。それだと体内魔素と反応して異形化(アボミノーシス)を引き起こさないでしょうか?」と意見する。

2番、「はぁ?頭イカれてんのかお前は!」と罵る。

3番、手近にある武器で錬金術師の頭を殴り気絶させる。この錬金術師が人を魔物に変えて暴れさせようと計画していたことを知っていたからだ。

4番、無視して、これ以上錬金術師が喚き続ける前にそっと立ち去る。

5番、錬金術師に抵抗せず、受け入れる。

この中から選んでください」


気合の入った演技までして選択肢を読み上げたエノシィさん、初対面の時のイメージが音を立てて崩れた。


「はわっ!?こ、これって…」


真面目そうな子は顔を真っ赤にしている。

どうしてそうなる!顔赤くするような事なの?!


そこから少し間をおいて、全員が答えを決める頃。エノシィさんの合図でそれぞれの選んだ答えを言っていく。


「では、皆さんお答えください」


「えっと、オレは4かなぁ…何言ってるかさっぱりわかんないし」


「オイラは5にしたぜ、なんだか強くなれそうだし!」

「ウチは3、人を魔物に変えて暴れさせようとするなんて許さない。絶対止めなきゃ!」

「わ、わたしは…1です。理由は、危ないので言えません…」

「2だな、俺様にそんなもん必要ねぇ。それに、頭のイカレた奴に親切にする意味ねぇだろ」


見事にバラバラだった。

気弱な子は選んだ理由も気になるけど恥ずかしがっていた理由の方が気になった。

危ないって、どういうことなの…


「では次の問題です。あなたが見習いとして治療院で働いている時に、奇妙な感染症の患者がよろめきながらドアから入ってきた。病状は驚くような速さで進んでいるが、癒術師は当分外出先からは帰ってこない。さあ、君はどうする?」


一番目の問題とは違ってだいぶまともな質問だった。

さっきのはいったい何だったんだ…


「第2問の選択肢です

1、感染が広まる前に手又は足を切断して、容態が安定したら義手もしくは義足をつけさせる。

2、自分にはどうにもならないので助けを求めて叫ぶ。

3、伝染病に汚染された箇所に出来る限りの医療を施す。

4、患者を拘束はするが、伝染の拡大は傍観する。

5、苦しませまいと安楽死させる

では、お答えください」


たぶん、これはセフィ姉さんや母さんや爺ちゃんだったら悩まなかったと思うけど…

下手に処置して悪化しちゃうかもしれないし、可能性があるのに死なせるのも嫌だな。

自分らしい答えだとしたら、これかな。


「1にします。患者さんの体に合わせて義手を作ればきっと馴染む。かな!」


「オイラは2だな。どうしたらいいかわかんねぇな…」

「ウチも2、手足を切っても止血とか大変だし、痛そうだから…」

「わたしは、3です。治療院なら、似た症状の対処法の文献があるはずなので、進行を遅らせる程度ならできると思います」

「5だ、どうせ遅かれ早かれ死ぬんだ。苦しむ前に俺様が葬ってやる」


魔人さんの考えも一つの解決方法だけど、オレはそんな気にはなれないなぁ…

母さんや爺ちゃんみたいな癒術師が身近にいない人だったら、そういう手段も悪手ではないのかもしれない。


女の子二人が魔人さんに向けて不満そうな顔をしていたけど、爬人さんは特に気にしていなかった。

きっと、薄情な奴だと思われてそうだけど、誤解を解くのは難しそうだな。


「では第3問です。君は何処かの町で迷子になってる少年を見つけた。彼はお腹が空き疲れていたが、盗品も持っていた。さて、君ならどう接する?」


盗人への対処か、でも相手は子供となると何か事情がありそう。


「第3問の選択肢です

1、その子を安心させ、自分が盗人と名乗って身代わりになる

2、逃げられる前に憲兵を呼ぶ

3、少年のポケットから盗品を盗み自分のものにする。後に、その子の運命だということでそのまま置き去りに。

4、少年を安全に導いてあげる。その上で憲兵に引き渡す。

5、盗品を持ち主に返し、一緒に謝る。

では、お選びください」




「これは5かな。たとえ子供でも、盗みは良くない」


「4だ。後は憲兵に任せるぜ」

「ウチは1ね。お腹空いちゃってお金もなかったら、しょうがないもんね」

「わたしは4です。どう接したらいいのかわからないので、憲兵さんにお願いしちゃうかもです…」

「3だろうが。もとより盗人なんだ、盗まれたって文句は言えねぇだろ。後のことは知らん」


やっぱり4が多かったな、憲兵に任せるのが普通か。

オレの選択だと盗人の肩を持つ事にもなるし、持ち主さんが許すかどうかは別問題か…

魔人さんは相変わらず厳しい回答だけど、良くはないけど悪いかどうかはオレじゃ判断できないね。


「では4問です。おめでとう!君は新しい町の一員になった!さて、どの役割がいいかな?

1、町長

2、職人

3、商人

4、狩人

5、町を出る

では、お選びください」


これは迷うことないな。


「2!オレは鍛冶職人をやりたい!」


「4だ!狩りは男の本能だぜ!」

「1です、町民の皆さんが穏やかに過ごせる町を作りたいです」

「ウチは3ね。お金は大事だもん」

「5。町なんかで呑気にしてられっかよ」


例えばの話なのにそれぞれの考えが良く分かる。

この答えがどのような結果になるのは終わってから分かるだろうけど。


「5問です。

君はおばあちゃんからお茶に呼ばれました。そこで彼女は驚くべき命令を与えてきました。

町のある住人を殺すようにと短剣を渡してきました。さてどうする?

1、おばあちゃんの言うとおりにして、短剣でその住人を殺す。

2、自分が持ってる一番大事なものを、その住民の命の代わりとして受け取ってもらえないか聞く。

3、おばあちゃんに短剣ではなく、大剣を要求する。

4、おばあちゃんにお茶をぶっ掛けて立ち去る

5、問題が起きる前に憲兵に突き出す

お選びください」


急に物騒な問題になった!

この質問ってクラス適性というよりも別の物を試してる気がしてきたぞ

いやもう最初からそうか…


オレは5にした、どんな事情があっても見過ごせないよ。

みんなどんな回答なんだろう?


「ん~、オイラは5だなぁ…人殺しのは嫌だし、野放しにもしたくないし」

「ウチも5かな…」

「わたしも5です、おばあさんにもきっと事情があると思います…でも、怖いので…」

「4だ、見知らぬババァに茶ごときで一人殺れだぁ?んなくっだらねぇ事を俺様に任せるぐらいなら自分でやれ

ってんだ」


何と言いうか、最初くだらないとか言ってたくせに彼随分と真剣に答えてるなぁ。

危ない人だと思ったけど、案外しっかりしてるのかな?


それから後の問題を数問解いてクラス適性試験は終わった。

残りの問題も曲のある物騒なものばかりだった。

この問題作った人、絶対におかしい…


「それでは、皆さんの適性クラスを発表いたします」


試験の内容と、身体情報に基づいた適性クラスが言い渡される。

あくまでこれは駆け出しのクラスだから、鍛錬を積んだり勉強をして別のクラスにもなれるという説明と

これらのクラスは冒険者の免状でもあるから、クラスがないとクエストを受けられない。

なので、必ず見習い系クラスと三つの技能を貰えるので、そこから戦闘職か生産職かは人それぞれらしい。


一人一人の巻物の文字が書き換わる。

どうやら質問の答えを描きこんでいた巻物も、魔道具だったようだ。


文字の書き換わりが終わり、クラスやロールが巻物に写った。

どうやらオレの役割は特異(ピーカー)、クラスは見習い投擲使い(ランチャー)

説明も一応書いてある。


特異(ピーカー)はいずれにも属さない個別の役割、特殊な素質を持つ者が属する。

投擲使い(ランチャー)は投擲武器を用いて戦うクラス。

ブーメランやチャクラムなどの手に戻る物や、投げナイフや手投げ弾等を用いる近・中距離戦職。


たぶんレリックの所為だなこれは…


技能は鍛冶と射撃と爆発物、この辺はもともと経験あったから納得できる。

鍛冶は言わずもがな、爆発物は岩盤を爆薬で発破することは

射撃も、一応クロスボウ修理の時に試し打ちしてたこともあるし。

投擲もこの技能に含まれるならそれもそうか。


周りの冒険者見習いのみんなも、思ってたクラスになれたのかな?


「おい、ふざけんなよ受付嬢!」


そうでもなかったみたい。


「俺様が特異(ピーカー)の見習い邀撃者(インターセプター)だぁ?ざっけんじゃねぇぞ!

わけわかんねぇモン押しつけやがって!」

「邀撃者は攻撃能力に特化した、特異系職です。魔力と筋力の両方に優れた貴方の身体情報と、素質と適性試験の結果から判断いたしました」

「んだとぉ!?」

「不服があるのならば、第二・第三適性クラスの見習い魔術師(ウィザード)や見習い盗賊(ローグ)がありますが。貴方の有り余るほどの闘争心を最大限に活かせるのは邀撃者(インターセプター)以外にありません」


にっこりと魔人さんを煽るエノシィさん、やっぱり怒ってたんだな…

チッ!と舌打ちしながら食い下がる魔人さん。

どうやら流石に折れたらしい。



こうして、身体情報鑑定と、クラス適性検査という奇妙な心理試験が終わった。


次の試験は実戦試験をするらしいけど、昨日の調子だとキツいかも。

でも、これから先何があるかわからないし、怖がってる場合じゃないよね。

シャルさんの推薦に答える為にも!

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