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第七話 外の世界・野生と町


村を出発した俺たちは、今後の予定と道のりを話し合った。

シャルさんが地図を広げて場所を示す。


「私たちが出発したのはこの辺り、カーゼル山の麓。

陛下に謁見する日は一ケ月後、時間の余裕は充分あるわ」

「ノービスまでの道は、川に沿ってずーっと進むとすぐだから夕方までには着くね」


流石だな、土地勘のある二人が居ればもう任せても安心かな。


「川も森も近い分、魔物と遭遇することも考えられるわ。

基本的には警護に着いた冒険者が対処するけど、

訓練として二人にも実戦をしてもらう事も忘れないように」


戦闘かぁ…ゴーストの時以来だ。

馬車の幌から外を見渡す、川に沿った道を進んでいるようだ。

思いの他、道は整備されていて馬車はあまり揺れない。

グリスは日光が苦手らしく、鞄の中から出てこない。


「クロ、外が気になるの?」

「うん、今まで見た事が無かったからさ」

「ここの川岸は質のいい香草が採れるから、お母さんと一緒に採りに来たことあるんだ~」

「そういうば、セフィ姉さんの実家って行った事無いなぁ…おばさんには会った事あるけど」

「私は別にいいんだけど、お父さんがちょっとめんどくさい人だから…」

「セフィのお父様は元イグリア人のエルフよ」

「ちょっ!シャルちゃん!?」

「優秀な魔術師で、講師をしていた事もあるの。

今は退任されてノービスに住んでいるらしいわ」

「へぇ~すごいじゃん!セフィ姉さんの魔法の才能って、お父さん譲りだったんだね」

「やめてよ恥ずかしい…」


そんな他愛もない会話の最中、馬車が止まった。

一体なんだろう?


今まで馬車の車輪の音で聞こえなかったが停まった途端に

周りから生き物か何かの鳴き声と思わしき音が聞こえてきた。


「魔物が出たぞー!」


御者が大声で叫び、鐘を鳴らして後続に伝えた。


「早速ね、二人とも行くわよ」


シャルさんに続いて荷車から降りると、御者の乗った馬車からも別の冒険者らしき人達も

降りていた。

現れた魔物は2キュービットほどの大きさの大きな蛙のような魔物で

土色の体で背中に棘を生やし、両生種らしからぬ牙を口元に持っていた。


「うわぁ!なんだよこれ」

「奴はスパイクトード。あまり強くはないけど、見た目に反して俊敏だから気を付けて」

「ひぃ、久しぶりに見たけどやっぱり怖い…」


他の冒険者達が戦闘に入る。

飛び掛かるスパイクトードを槍で突き刺す人や、噛みつきを避けて横から剣で切りつける人と

皆慣れた手つきでトードを倒していった。


相手は野生の魔物、必ずしもゲルルン達みたいに大人しいわけじゃない。

鉱山にいた時だって安全じゃなかった、ナイフで小型の魔物と戦ったことはある。

うちの工房に来ていた客も、こういう環境で生き延びてきた人たちなんだ。


「グェーッ!」


目の前に跳んできたトードと向き合う。

背中から斧を抜いて構える。

大丈夫、落ち着け…


トードと目が合った瞬間、気が付けばすぐ目の前まで飛び掛かっていた!

咄嗟の事に動けず、体が縛られたような感覚がした。

腰を抜かして後ろに転び、立ち上がれない!マズい、やられる!

反射的に目を瞑る、しかしトードの体当たりは当たらずに空中で止まっていた。

無意識のうちに念動を使っていたようだ。


「グェー!」


宙に浮いたトードをシャルさんが剣で突き刺した。

トードの返り血がシャルさんの鋭い表情の顔にかかり、何とも言えない恐怖を感じた。


「ゴーストを倒した貴方が、格下の魔物に腰を抜かしている場合?」

「ひっ…」


手を伸ばしてくれたシャルさんに対し、思わず情けない声が出た。

気にせずオレの手を掴んで軽々と引っ張り起こしたシャルさんは、諭すように言った。


「クロム、人のテリトリーの外は魔物の世界。奴らの弱肉強食の一部に組み込まれるの。

生き残るために戦わなければならないのよ」

「でも…」

「私には、貴方を陛下の元に送る任務がある。でも貴方がこんな情けないままでは絶対に合わせたくないわ。傍で貴方をずっと見てきたあの子でさえ理解しているのよ」


ふと視界にセフィ姉さんの姿が映る。

風魔法を唱えてトードを一匹倒した瞬間だった。

いつもよりずっと頼もしく見えた、オレも頑張んなきゃ…


「分かった…」

「その調子よ。落ち着いたら、まず一匹仕留めてみなさい」


ゆっくりと深呼吸をして落ち着く。

近づいてくるトードに目を向けて、斧を握り直すと一直線に走り出した!


「とりゃっ!」


軽く飛び、トードの頭をめがけて斧を振り下ろす。

トードは斧が降ろされる前に飛び跳ねて避けた。


「逃がさない!」


空中で飛び掛かる体勢のトードに、振り下ろした斧の勢いをそのままに全力で投げた。

フォンフォンと風切り音を立てながら飛ぶ斧を念動で操り、トードに斧を当てた。

肉が裂け、骨が砕ける音と共にトードの頭を抉った。

地面に落ちたトードは大きな体をピクピクと痙攣した後、動かなくなった。

洞窟で倒した小型の魔物や、生き物じゃないゴーストとは違った感覚がして

少し気分が悪くなってしまった。


「クロ、大丈夫?顔色悪いよ?」

「お疲れ様。あまり気分は良くないかもしれないけれど、そのうち慣れるわ」

「倒した魔物はどうなるの…?」

「解体して素材や食料になるわ。無駄にしない事こそ、倒した魔物への供養よ」

「町の解体屋さんにお願いするから、クロはゆっくり休んで」

「うん…」


本当に、オレって外の世界のこと全然知らなかったんだな。

書物とか地図で見て知った気になっていたんだ、きっと…


その後は馬車の中で気絶するように爆睡した、目が覚めたのはノービスの町に着いた頃だった。


「おはよう、クロ。体の具合は?」

「あぁ、なんとかなりそう…かも」


これは早く慣れないと後が辛いな。

というかセフィ姉さんの顔が近い、どうやら膝枕されていたようだ。

なんだか子供扱いされてる気がして恥ずかしい。

客席には既にシャルさんの姿は無く、外の椅子に座ってオレ達を待っていたようだ。

外は日が落ちかけている、どれだけ寝ていたんだ?

せっかくいろいろ見れると思ったのに残念だな。


「お目覚めね、初めてにしては良い動きだったと思うわ」

「シャルさん。さっきは情けない所を見せちゃって、ごめんなさい…」

「構わないわ。戦えたのだから、文句は無いわ」

「よ、よかった…」

「ところで、これからどうするのかしら?二人とも当ては有るの?」

「私は実家に泊まるよ、クロもどう?」

「オレはいいよ。爺ちゃんの家に行く、父さんからの届け物もあるし」

「分かったわ。明日はここのギルド集会場に集合よ。ヴィッカーズ治療所はここにあるわ」


町の地図看板から位置を教わる、町の入り口に近い大きな建物がギルド集会場

そこから北に進んで爺ちゃんの治療所だそうだ。


「ちょっと不安だなぁ、迷いそうかも…」

「なら私が案内するわ」

「じゃあ私も一緒に!」

「別に二人とも来なくても…まぁいっか、お願いするよ」


御者に運賃を払って、オレ達は爺ちゃんの治療所に向けて歩き出した。


町は日が暮れ始めているというのに、商人の屋台で賑わっている。

吟遊詩人が音楽を奏で、個人用の小型馬車も行き交う中に、町の活気を感じた。

村よりもずっと広い道と背の高い家々、今まで見たことのない景色にとてもワクワクしていた。


「クロはノービスに来るのは初めてだよね?明日時間あったら私が案内しよっか?」

「ありがとう、助かるよ。でも王様に会いに行く方が先じゃない?」

「それについては問題ないわ。ノービスから首都までは半日で着く。それまでの猶予はある。

その間は貴方達の鍛錬に回せるわ」

「私も!?」

「えっと...お休みは?」

「状況次第よ」


今までの言動からするに、厳しい鍛錬が待っていそうだ…


しばらくすると、看板付きの一軒家に着いた。

看板には「ヴィッカーズ治療所」と書いてある、どうやらここみたいだ。


「案内ありがとう、セフィ姉さん、シャルさんもありがとう」

「では、ここで失礼するわね。」

「じゃあね、クロ。寝坊したら起こしに来るから!」

「大丈夫、早起きは慣れてるって!」


軽く会話をして、二人はそれぞれの帰路に就いた。

空はだいぶ暗くなってきて、直ぐにも夜を迎えそうだが

家々の窓と街灯に明かりが灯り、静かで温かい感じがした。


治療所ということもあり、玄関に鍵はかかっておらず、ドアを開けると鈴の音がカラカラと鳴り響いた。


「ごめんくださーい!爺ちゃ…ヴィッカーズさんいらっしゃいますか?」


危うく初対面なのに爺ちゃんと呼びそうになった。

待合室の奥の扉から白髪の老人が出てきた。


「おん?ヴィッカーズはワシじゃが、何か用か…」


話の途中でヴィッカーズさんは黙り、涙をこぼしながら話し出す。


ん?爺ちゃんどうしたの?


「坊や、名前は何と言うんじゃ?」

「クロムウェル・ヴィッカーズ…です。初めまして、爺ちゃん」

「なんじゃとおおおお!!」


オレが名乗った途端、目を見開いて驚く爺ちゃん、そんなに驚くことかなぁ。


「えっと、大丈夫?」

「大丈夫じゃ、ふぅ…会えてう嬉しいぞ、クロムウェル!よく来たのう」


気を取り直して話の続きをした。

ここまで来る道筋や出来事と、旅に出た理由を話した。


「ほほぉ~、たくましく育ったもんじゃわい。小さいときに遊んでやれんかったのが心残りじゃがな…」

「忙しくてそれどころじゃ無かったんでしょ?しょうがないさ。それと、父さんから荷物預かってるよ」

「ふむ、なんじゃ?」


父さんから預かった荷物を渡す。

受け取った爺ちゃんは荷物を机に置くと、魔法を唱え始めた。


「天よ、荷にかけられし封印を解きたまえ、ディス・シール・プライマ」


うっすらと光ると、包んでいた布が開き、中から一冊の本とインクとペンが出てきた。

魔法って不思議だなぁ、どおり触っても中身を覗けないわけだ。


「魔導伝書かの、これはよいの~。便利なんじゃぞ」

「伝書?何に使うの?」

「これには遠筆(ファーライト)の魔法が込められていての、こいつに書いた文字は呪節が繋がった場所に写るんじゃ」


説明しながら、爺ちゃんは工房の名前と場所を書くと「クロムウェルは無事にノービスに着いたぞ」

と書き込んだ。

すると本がうっすらと光り出し、文字が浮き出てきた。

内容は「ありがとう、お父さん。忙しい中ごめんなさいね」

となっていて、母さんが返した文だと直ぐに分かった。


こうやって遠くの人とやり取りをしてるのか。

もし、文字だけじゃなくて、物や人をこうやって行き来できたらもっと便利になるんだろうな。


爺ちゃんは「伝書の贈り物、助かったぞ。困り事が有ったらいつでも書いて寄こしとくれ」

と書き込むと。

「お役に立てて何よりです、お義父さん。クロムも迷惑をかけるなよ?」

と帰ってくる。

この筆跡と文面から察するに、父さんだな。


「はっはっは!お前さんの方が何倍も苦労させられたわ!クロムウェルの方がず~っといい子じゃ!」

「急にどうしたの、爺ちゃん?」

「んぉ?クロムウェルお主知らんのか?ヴライネルの奴、何も教えんかったか…」

「教えなかったって?何が?」

「それはのう、お前さんの父のヴライネルは…」


爺ちゃんが父さんについて話そうとした時、何かが書き込まれた。

爺ちゃんが見た後、伝書を閉じてしまったので、誰がどんな内容の文を書いたのか見せては

貰えなかった。


「ふむ、そうか…いや、止めとこう」

「どうして?」

「これはお前さんの父さんとの大事な約束じゃ。たとえ可愛い初孫にも言えんよ」


爺ちゃんは悲しくも厳しい声色で穏やかに諭した。

オレは村を出る時の父さんも同じような言い方をしていたのを思い出して、ゆっくりと頷いた。


「うん、わかった。いずれは嫌でも思い知ることだし。今は今でできることからやらなきゃね」

「すまんの…」


その後は爺ちゃんの家兼治療所に泊めて貰い、次の日が訪れた。


「行ってくるよ、爺ちゃん」

「気を付けるんじゃぞ~」


爺ちゃんに見送られながら治療所を出る。


「うし!行くぞっ!」

「おはよう、クロ」

「うわぁっ!?」


急に声を掛けられて驚いたが、声の主はセフィ姉さんだった。

何で扉のすぐ脇で隠れてんの!


「セフィ姉さん…脅かさないでくれよ。まさか待ち構えてたってこと?」

「人聞き悪いわね、ちょうど来たから待ってただけよ、ふふっ」

「ニヤニヤしながら言わないでくれよ…」


その後はセフィ姉さんに案内されながら、ギルド集会場

朝の町並みも市場が店開きを済ませ、早速賑わっている。

様々な店が立ち並ぶ路地を進むと、大きな建物が見えてきた。


二枚扉の上の看板には「冒険者ギルド集会場・ノービス支部」と書かれている。

中に入ってみると、町の通り以上の賑わいに少し驚いた。

大広間を見渡すと、壁際の丸いテーブルで手記を開き、考え事をしているシャルさんを見つけた。


「おはよう、シャルさん。待たせちゃってごめんなさい」

「気にしないで、私が早く来ただけだから」


席に座り、もう一度周りを見渡すと興味深い事がいくつもあった。

大きな掲示板があり、隣の看板には文字が写り、看板が文字でいっぱいになると消えて

また別の文字が写る。

昨日爺ちゃんに渡した魔道具と同じ物かな?

それぞれのテーブルに数人規模でチームを組んでいる冒険者さん達が沢山いた。

知り合いはいなさそうだけど、その代わりに村では見かけたことのない種族の人を見かけた。


眼光が鋭く、長い舌の先が割れていて、体の各所に鱗のような部分があり、滑らかな皮の尻尾も生えている。

確か母さんの治療書物に書いてあった爬人(レプタリアン)さんかな

その人と一緒に話してるのは綺麗なお姉さんだが、耳の辺りに魚のヒレのようなものがあり

掌も水かきの様に皮が繋がっている。

たぶんこの人は魚人(メロウル)さんだと思う。

他はドワーフや獣人系やオークさんや人間種とみな腕っぷしのよさそうな人たちが飲み物を片手に談笑していた。


「今更かもしれないけど、この国は多種族国家よ。亜人も精人も人間も、皆互いの違いを理解しながら共存するのが国是。ちなみにノービスは、国の南側に向かう冒険者達の

情報交換の場でもあるわ」

「騒がしいけど、いいところだね。オレの村もこんな感じだったよ」

「私は村の方がまだよかったかな、ここだと騒がしすぎるからね…」

「エルフはハーフでも耳が優れているもの、無理もないわ」


そういえばこの中にエルフの冒険者は見かけない、そういう理由もあるのか。


「さて、まずはクロムに冒険者ギルドに登録をする必要があるわ」

「わかった。でもどうやって?」

「ついてきて頂戴」

「行ってらっしゃい、頑張ってね、クロ」

「セフィ姉さんは?」

「私は成人の儀の後に済ませたから大丈夫」

「ちなみに、内容は身体情報鑑定とクラス適性試験と実戦試験があるから

最後まで気を抜かないように」

「そんなに!?日が暮れちゃうじゃないか…」


この後クロムは、今まで楽観視していた冒険者が

どういった存在なのかをしっかりと叩きこまれることになるのであった…

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