第一話 終わりからの始まり
人生初めてのネット小説を投稿しました。
全くの0からの執筆は難しいので、好きな作品をいろいろとオマージュしました。
これから続いていく主人公たちの物語をどうか楽しんでいただければ幸いです。
僕は比嘉鋼也、少々オタクな趣味を持つ自動車整備工である。
冬の終わり、春の温かさを感じる朝。
ラジオを垂れ流しながら、愛車で職場に向かう途中だ。
車を運転していると、よく趣味の事を考える。
アニメを見たり、風景を撮ること。写真はあまり上手くはないけど…
という感じで、休日はどこに何で行こうかと、旅のことで頭がいっぱい。
もし天気が悪かったら、家で溜まった特撮やアニメでも見よう。
そんなことを考えながら職場に到着、車を停め仕事の準備をする。
「おはようございます」
「ういー」
少々ラフな挨拶が返ってくる、言葉の主は僕の上司の工場長。
挨拶の様にフランクな性格だが、面倒見が良い人で新人の頃からいろいろとお世話になっている頼れる上司である。
更衣室に向かう途中、チラッと予定管理が載ったボードを見る。
どうやら今日はあまり忙しくはないようだ、これなら仕事終わりにマイカーの洗車ができるだろう。
あとで工場長に許可をもらおう。
作業着に着替えて工具箱の中身を確認する、特に問題はない。
後からやってきた先輩と後輩で工場の掃除をし、朝礼の時間になる。
事務所に集まる営業と作業員に店長が挨拶をする。
少し白髪のかかった中年の店長、落ち着いた雰囲気の上司である。
「はい、おはようございます。〇月〇日の朝礼を始めます」
スタッフ全員が続けて挨拶をする、今日はどんな連絡なのだろうか?
最初は台数のノルマと売り上げ、本社からの連絡事項と様々だが、店長は世間話も加えていた。
「えー、以上が連絡事項です。最近は地震がよく起きていますから、整備のメンバーは気を付けて作業をしてください。
作業中に、地震でリフトから車が落ちてくることも十分考えられます。
お客さんの車も大事ですが、スタッフの命が優先ですので万が一は全力で逃げてくださいね」
確かに、最近は小さな地震がよく起きる。
直下型大地震なんて噂もよく聞くが、おそらく起きるときは起きるだろう。
ちょいと不謹慎な考え方だけど、災害が起きるとテレビがニュースしかやらなくなるんだよなぁ。
そうするとアニメやイベントが休止してしまうこともあるから、災害は起きないに越したことはない。
そうして朝礼も終わり、仕事が始まった。
「いらっしゃいませ!」
大きな声でお客様を迎える、この軽自動車は朝に予約が入っているお客様だな。
出迎えが終わり、受付に引き継いで準備をする。
ラジオが流れる工場に工場長から注意が飛んだ。
「作業中に地震が来たらリフトから離れろよ!潰されっからな!」
冗談交じりで工場長は言う。
「はい、わかりました!」
苦笑いで僕は答えた 、洒落にならないですよ!
まだまだやりたい事はたくさん有るというのに、死んでたまるかって。
そんな雑念を交えて受付の終わったお客様の車を動かし、リフトに入れる。
工場もそれなりの年数故か、ギギギと耳障りな音がする。
音の発生源を見ると、車のフレームと接するアタッチメントに亀裂が入っていて今にも割れそう…
そろそろ建て替えで設備を一新するらしいから、それまでは我慢かな。
そう思いながら点検整備を進めていく。
クラクラクラ……
リフトが揺れだした。
その時は全く気付いていなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「っ!?」
驚いた拍子に足を滑らせ、靴がリフトの格納口に引っかかってしまった!
「おい!地震だ!皆リフトから離れろ!」
工場長の怒号に一層取り乱した僕は、引っかかった靴を脱ぎリフトから離れようとした…
パキッ!
何かが割れる音がした。
ガキン!
車がバランスを崩しリフトからの揺れを直に受け、這いながら脱出しようとする僕の上に落ちた。
ガシャアアアアアアアアン!
突然の事に理解が追い付かず周りを見回す。
蛍光灯が落ち、ガラスの破片が床に散らばる中、ようやく自分の置かれた状況に気が付いた。
下半身が、車の下敷きになっていた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!」
潰されたことを認識した途端、内臓が潰される圧迫感と肉を引き裂かれる鋭い痛みが腹部から伝わり悶えた。
動けば動くほど体を抉る金属片に噴き出る血、感覚がなくなっていくのを感じた。
「おい! 大丈夫か! しっか…」
誰の声だろう……もう何も見えない……何も聞こえない……
体から力が抜け、血が凍るような寒気を感じたまま
視界が暗転するように、僕は意識を失った。
目を覚ますと、何も見えない真っ暗闇の空間にいた。
そこは地獄でも天国でもなく虚無だった。
音も全く聞こえない、寒くも熱くも痛くも痒くもない。
その中で、僕の意識だけがこの空間にいる。
苦しいはずなのに苦しいという感覚すら感じられない。
そうか、僕は死んだんだ…
死ぬことは怖いことだと思った。
実際死んでしまうと、怖さを通り越して空しさが感情を支配してしまっていた。
これが永遠に続くと考えると、どこかの漫画のラスボスみたいに考えるのをやめたくなる。
いっそ消えてしまいたいと思い始めたとき、何もない暗闇に光の塊が見えた。
「消えるにはまだ早かろう、資格者よ」
「まだ駄目よ」「運のいい奴だ!」「頼みたいことがあるんだ」「提案」
声の主は老人、その声に続いて四人分の声がした。
艶めかしい女性
厳つい中年男性
さわやかな印象の青年
無機質な機械
のような声だった。
「我は、汝の生まれし世界と、異なりし世界の創成者である」
「産みの親よ」「神だ!」「作り手さ」「設計者」
神様に…パラレルワールドか…
どちらもおとぎ話や都市伝説で聞くことはあったが、死後の世界が無かった時点でどちらも信じがたい。
訝しむ僕を余所に、『神』は話を進めた。
「汝は、災禍により肉体に大きな傷を負った」
「でも死んではいないの」「死にぞこないだ!」「まぁ、ほとんど死んでるけどね」「致命的損傷」
なんだか騒がしい話し方だが、完全には死んでいない?
となると瀕死か…
でも、こうして意識だけがあるのも不思議な点だ。
『神様』の話を聞いてみよう。きっとこの状態から抜け出す手段が見つかるかもしれない。
「我が世界にて力を顕現させるべく、災禍にて命が尽き欠けた者に力の肧を植え付け」
「育てさせるの」「奴らを叩き潰せ!」「成長した力で」「世界を再構築」
「世界を救いし暁には、汝の願いを我が力にて示そうぞ」
「生まれ変われるの」「強大な力をくれてやる!」「永遠の命だって得られる」「空想具現化も可能」
目的を果たしたら願いを叶えるのか…
渡りに船だけど、正直そんなものを貰えても扱いきれる自信がない。
この真っ暗闇から抜け出せればもうそれでよかった。
「選ぶがいい、資格者」
「消えてしまうの?」「死にかけの体で!」「それとも英雄になるか?」「決定権は資格者に帰属」
迷う選択肢も時間もなく、僕は答えた。
「やります…何もせずに暗闇に消えていくなら、せめて足掻いて元の人生に戻りたい…」
「汝の答えは聞き届けた、さすれば我が力の胚を受け取るがよい」
「頑張ってね」「暴れてきな!」「いい返事だったよ」「資格者の了承を確認」
光の塊から分離した欠片がこちらに向かってくる。
その欠片は、すぅ……っと溶けてどこかに消えた
自分の体が認識できない以上、体のどこかに入ったことは確かだ。
「新しき生にて、力が目覚めるには時を要する」
「体が育ってからね」「ガキには扱えんよ」「扱えるようになったら」「行動開始」
「では行くがよい! 力が芽吹きし時、また相まみえよう」
「楽しみにしてるわ」「死ぬんじゃねぇぞ」「おとなしくすることだね」「生存活動優先」
そのまま眩しい光に包まれるように、見えないはずの視界が真っ白になった。
まるで物語の世界に入ったような気分がしていた。
職人の村、トルフォ
鉱山と隣接したこの村は、ベルディニア公国の北西に位置する。
良質な金属が手に入りやすいので、彫金や鍛冶等の職人達が多く住んでいる。
工芸品や鉱物での交易が盛んな、にぎやかな村だ。
日が沈み、家々のランプに火が灯るころ
村の診療所で産気づいた人間の女と
祈るように女の手を握る獣人の男の姿があった。
「ぐッ!アァァァァァ!!」
「大丈夫だエルーデ!もう少しだ!」
出産の痛みに悶える女は、やっとの思いで赤ん坊を出産した。
父親に抱き抱えられた赤ん坊は大きな産声を上げている。
「エルーデ、おめでとう…元気な男の子だ…」
涙を流しながら父親は妻に感謝をする。
「よかったわ…アナタにそっくりな、可愛らしい耳と尻尾があるわ…」
赤ん坊にはまだ毛の生えていな小さな獣の耳と尻尾があった。
「お前さんの名前は、クロムウェルだ!生まれてきてくれて…ありがとう!」
男の号泣と、赤子の産声が診療所から響く中
月の明かりは優しく村を照らしていた。
地名とかの矛盾が出てきてしまったので、修正しました。