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惑星内共存意志包括機能装置、とでも無理やり言うべきか。
ともかくそれは、人類が自らを裁くための最高の自死装置であり。
そして、最大の自我であった。
全てのヒトの潜在意識は、かの兵器に集約され、そして、かの兵器と直結する。
人類が共通して放つ、種としての『意志の波』。
それがある色に染まり、ある意志を顕在化させたとき。
この兵器は、然るべき命令を下し、人類を裁く。
人類は、この兵器によって、理不尽を排除した種の選択を実現しようとした。
結果、それは成功したのかもしれない。
神が裁く前に、人は人を裁く力を得た。
種としての完全な独立、その仕組みを完成させた。
そうすることでしか、人類はもう、この星に存在することが許されなかった。
銃口を脳天に押し付けるように。
刃を首元に触れさせるように。
死を手にし、律することでしか……
もう人類は、自分たちがどこに向かっているかわからない程にまで増長し、
相克し、
疲弊していた。
『彼女』は、人類の自死を結実させる運命であった。
同じ種でありながら、無限に憎悪を巡らせる人間に対し、大いなる多数決を以て、天使の名の下に、死を下す。
この星の全てを巻き込んで。身勝手に。
そして最後には、彼女自身を犠牲にして。
……同じ人間のような存在でなければならなかった。
全ての人間の意志を繋ぎ止めるには、同じ人間としての階位に留まることが求められた。
神ではだめなのだ。
人でなければ、いけないのだ。
だから『彼女』は、名ばかりの天使となった。
人間の最後の欲求を満たすためだけに、根本が人間であることを強いられた。
彼女を純粋な神にすることができれば、どんなによかっただろうか。
なまじ人の心を似せているからこそ、愛されることも、孤独も、風の心地よさも、星々の煌きも、暖かい食卓も、空と海の青さも、その全てがわかるからこそ、彼女だけが最後の最後に理不尽を突き付けられる。
私は、かつて世界の終わりに憧れた身として、理不尽に恋い焦がれたものとして。
そして、『彼女』の家族として。
あの憧憬を取り戻すことを、誓った。
どうせ、我々の物語が鎖されるのであれば――
頁を引き裂き、全てを燃やし尽くすことよりも。
静かで、穏やかな終わりを描くことを決めたのだ。