表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タナトフォビアの見る夢  作者: 彼岸堂
11.88 - 0.87
9/12

-




 惑星内共存意志包括機能装置、とでも無理やり言うべきか。

 ともかくそれは、人類が自らを裁くための最高の自死装置であり。

 そして、最大の自我であった。


 全てのヒトの潜在意識は、かの兵器に集約され、そして、かの兵器と直結する。

 人類が共通して放つ、種としての『意志の波』。

 それがある色に染まり、ある意志を顕在化させたとき。

 この兵器は、然るべき命令を下し、人類を裁く。

 人類は、この兵器によって、理不尽を排除した種の選択を実現しようとした。

 結果、それは成功したのかもしれない。

 神が裁く前に、人は人を裁く力を得た。

 種としての完全な独立、その仕組みを完成させた。


 そうすることでしか、人類はもう、この星に存在することが許されなかった。


 銃口を脳天に押し付けるように。

 刃を首元に触れさせるように。

 死を手にし、律することでしか……

 もう人類は、自分たちがどこに向かっているかわからない程にまで増長し、

 相克し、

 疲弊していた。



 『彼女』は、人類の自死を結実させる運命であった。


 同じ種でありながら、無限に憎悪を巡らせる人間に対し、大いなる多数決を以て、天使の名の下に、死を下す。

 この星の全てを巻き込んで。身勝手に。

 そして最後には、彼女自身を犠牲にして。


 ……同じ人間のような存在でなければならなかった。

 全ての人間の意志を繋ぎ止めるには、同じ人間としての階位に留まることが求められた。


 神ではだめなのだ。

 人でなければ、いけないのだ。


 だから『彼女』は、名ばかりの天使となった。

 人間の最後の欲求を満たすためだけに、根本が人間であることを強いられた。

 彼女を純粋な神にすることができれば、どんなによかっただろうか。

 なまじ人の心を似せているからこそ、愛されることも、孤独も、風の心地よさも、星々の煌きも、暖かい食卓も、空と海の青さも、その全てがわかるからこそ、彼女だけが最後の最後に理不尽を突き付けられる。


 私は、かつて世界の終わりに憧れた身として、理不尽に恋い焦がれたものとして。

 そして、『彼女』の家族として。

 あの憧憬を取り戻すことを、誓った。


 どうせ、我々の物語が鎖されるのであれば――




 頁を引き裂き、全てを燃やし尽くすことよりも。


 静かで、穏やかな終わりを描くことを決めたのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ