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アルシアは昨日作ってあげた花冠がよほど気に入ったのか、今日も朝から頭につけている。
「ねぇ先生、もうすぐ?」
「もうちょっとだよ。ほら、ここを上れば……」
アルシアの手を引いて、木々に囲まれた坂のを登りきると、急激に視界が開けた。
そこには真っ白な砂浜と、青い海が広がっている。
「わぁっ」
アルシアが駆け出す。
砂浜の上を走り、海まで、真っ直ぐに駆けていく。
その無垢な笑い声が、誰もいない砂浜に響く。
「すごい! すごい!」
両手を大きく広げて、潮風を一身に受けるアルシア。
「先生、これが海の匂いなんだね!」
アルシアの足跡を消さないようにしながら、彼女の元へと近づく。
「海に入ってみたら?」
私がそういうと、はっとしてアルシアが足元を見る。
彼女は、波が打ち寄せるぎりぎりの所に立っていた。
「入っても、大丈夫?」
「勿論」
私はアルシアの前で靴を脱ぎ、そして、その横を通り過ぎ、波に両足を晒してみせた。
彼女は私の様子を見て、慌てて自分も靴を脱ぎ、海の中へ恐る恐る入り込んだ。
「冷たい!」
私達の両足から波が引き、そしてまた、寄ってくる。
「なんだかちょっとひりひりする……」
「海水だからね」
「不思議。面白い」
慣れたのか、アルシアがぱしゃぱしゃと歩き始める。
水しぶきが僅かにたつ度に、陽の光が反射される。
それは、彼女の長い銀髪と相まって、神秘的なものを感じさせる光景だった。
アルシアと私は、しばらくそうやって、海岸を歩いていった。
時折、昨日食べたものの話を交えながら、ゆっくりと、長い長い海岸に足跡を残し、それを波に消させる。
やがて。
「……この海の向こうにも、まだ海は続いているの?」
不思議な質問をされて、少し頬が緩む。
「続いているよ。ずっと向こうまでね」
「……生命は、この海から生まれたの?」
「ずっと大昔にね」
「私も海から生まれたかったな」
思わず、アルシアと目が合う。
「先生」
彼女の瞳は、今日も、空と海を繋ぐ蒼を宿している。
「私、もう死んじゃうの?」
アルシアは、笑って、そう問うてきた。