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タナトフォビアの見る夢  作者: 彼岸堂
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 満天の星空。

 レムナントを煌めかせながら淡く輝く、半壊した月。

 それらの優しい光の下、私とアルシアは同じ毛布にくるまって夜空を見上げていた。

 近くに流れる川のせせらぎが、まるで水の中から空を見ているような気分にさせてくれる。


「先生は、どこでお料理を勉強したの?」


 アルシアが星を見ながら私に問う。

 さっき食べた料理を思い起こす星の並びがあったのだろうか。


「先生はね、生まれた時から一人だったの。だからご飯も、家も、何もかも、全部自分で用意しないといけなかったんだ。それで、勉強するしかなかったってわけ」

「そうだったんだね」

「だからね、先生は、アルシアに自分の手料理を振る舞えて嬉しかったよ。誰かに私の料理を食べてもらう日がくるなんて思わなかったから」


 アルシアを抱きしめる腕に思わず力が入る。

 私の腕に添えられていたアルシアの手に、返すように力がこもっていくのが感じられた。


「先生のシチュー、とっても美味しかった。今まで食べたものの中で一番美味しかった」

「うん。ありがとう。アルシアが美味しい美味しいって食べてくれたのが、私も今までで一番嬉しかったよ」

「えへへ」


 ……真っ当な家族がいれば……

 こんな言葉を交わすまでもなく、心を通わすことができるのだろうか。

 いや。

 やはり、当たり前のことだからこそ、普通は認識しないのだろうか。

 アルシアも、そして私でさえも、誰かと食事を一緒にすることがあんなにも幸福だなんて、知らなかったのだ。


「……私、夜は暗いって聞いていたけれど、実際にこうして見ると、ずっと明るく感じる」

「そうだね。今日は雲がないからか、月と星の光がよく届く」

「街は灯りが多すぎて、星が見えにくくなるんだよね」

「うん。だから、今私達が感じている明るさとは違う感じになる」

「それって、どんなの?」

「もっと眩しくて、うるさい感じかな」

「そうなんだ……」


 アルシアが手を伸ばして、自分の視線の先で振り始める。


「あの一つ一つが、色々なものを宿しているのかな」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「私達って、すごくちっぽけなんだね」

「そうだね」


 ちっぽけだけれど。

 私達は、私達の命を通してでしか、この世界を見ることができない。


「ねえ先生、明日はどこに行くの?」


 私の方を見て、アルシアが問うてくる。


「アルシアは、何が見たい?」

「うーんとね。そうだなぁ。森もいいかなぁ。でもやっぱり海がいいかなぁ」

「ゆっくり考えていいよ。まだ時間はたっぷりあるんだから」


 そう言って私は星空を見上げた。

 その時ちょうど空を横切った光は、きっと流れ星ではなく、堕ちた人間の欲の残骸だろう。


 アルシアは知らない。

 この星空の内、本当の星が果たしてどれほど存在しているかということを。


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