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後悔は無い。
そう言うと、嘘になる。
アルシアを最後の最後で泣かせてしまったこと。
そして、彼女にどうしても拭えない別れの傷を残してしまうこと。
しかし、こうするしか無かったのも事実なのだ。
私は大いなる自我を、矮小な自意識で上書きした。
種を導く最後の因子となることで、彼女を救うことを選んだ。
星の全てを巻き込む終わりではなく。
静寂と安寧の訪れを構築した。
私は、自分が世界の中枢に関わった意味を、『そうすることができる立場』として理解したのだ。
個の起こしうる最大の理不尽。
その果てに広がる人類のいない世界は、どこまでも美しく、そして、無垢であった。
これからこの世界は、限りなく人に近く、そして、決定的に違う『彼女』達のものになる。
世界を愛するのも、憎むのも。
全て台無しにすることも。
みな無垢なる理不尽の手の上にある。
私はその美しい世界に残る最後の異物だ。
本をとじるために、消えなくてはならないものだ。
だから、躊躇いなく――――
私は自らを終わらせる装置を起動した。
その瞬間、アルシアとのこれまでの思い出が一気に脳内を駆け巡る。
――――健やかなるときも
――――病めるときも
――――喜びのときも
――――悲しみのときも
「ありがとう、先生」
ありがとう、アルシア。