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あの頃の風景 プロローグ  作者: ミクマリ
4/5

流転

ホテルの窓から夜の街を眺めている。梅雨もそろそろ終わりだろう。

すぐに暑く眩しい季節がやってくる。夏は裕也の好きな季節だ。

目に映るものみな生命力に満ち,目映く輝いて見える為だ

この鬱陶しい街はいつも下品な喧噪に包まれている

夏のギラつく狂気に満ちた表情の方が似合っている

夜は昼間とは様相が豹変しどこか霞がかったようになる

通りを彩る灯りが白みを帯びた空気に滲んで見える

その分まばゆくも思われるが裕也の目にはどこか街の風景そのものが作りものめいて

白々しいものに映っている。

窓の下から見えるのは昼間と変わらない人波

多くの人が夜の中、夜光虫の如く猥雑に蠢いている

外国人と腕を組んで歩いている派手な娘が見える

明るい茶色に染めた髪をちょんまげみたいに束ね

濃い小麦色に焼けた脚を剥き出しにしタイトで短いスカートをはいた女

とても夜だとは思えないほど際立っている姿だ

無邪気に笑っているその娘の眼にはこの世が平和な世界に映っているだろう

無意識に裕也は煙草に火をつけた

「まだ禁煙出来ないとはな、我ながら意志が弱い」

出張ばかりの仕事でもう一週間は家に帰っていない生活が続いている

中小企業の医薬品メーカーで全国の病院施設に訪問営業する仕事

支店も無く卸会社の情報を元での飛び込み営業

上司も2回同行したきりで後は一人で周りノルマを達成しなければならない

給料の良さで入社したが学歴経験不問の仕事は世間で云うブラック企業と相場は決まっている

裕也は薄ら笑いしながら呟いた

「こんなもの売れるかよ・・」

「このまま、この土地でバックレてやろうかな」

この会社は典型的なブラック企業で募集給料が20万~30万と書いていた

何の事はない実際には15万スタートでみなし残業込みの金額だった

しかも数字が出せないものに対しては

追い込みもきつく罵倒・暴力がまかり通っている職場

採用時人数が10人で3ヶ月後には裕也一人しか残っていない有様

裕也は口には自信があったが飛び込み営業の過酷さにはついていけなかった

同期も見るからにマトモでは無くクセの強い人ばかりだった

「もう俺も限界だね」

「明日は真面目に仕事せずにこの土地を見物しにいこうかな」

裕也は睡眠薬をビールで流し込んでベットにもぐり込んだ。


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