第3話 古の国
【四神歴紀元前148年】。
兎妖精族の寿命は凡そ50年前後で、既に千歳がこの世界に来た頃の兎妖精族達は全て代替わりしていた。
111歳となった千歳は相変わらず、容姿にまったく変化が無かった。しかしそれを忌避する者はおらず、むしろ神聖視する者の方が多かった。
外敵から逃れつつ過ごす千歳達は、定期的に拠点を変えながら生活している。
千歳が最初にいた草原からは既に遠く離れ、彼らは山や森を超えて安住の地を探し求めていた。
この年、森に新しい二つの勢力が現れた。
世にも不思議な『魔法』の力を使う、悪魔のような耳と尻尾の生えた小さな人間達、小魔族。
鉄製の武器を振るう、鬼のような二本角を生やした大柄な人間達、鬼人族。
彼らの台頭により、森の勢力図は大きく塗り替えられることとなった。
狼人族や鳥人族はそれぞれ二つの勢力と接触し、手痛い被害を受けてどこか遠い地へと逃げていった。
小魔族と鬼人族も決して少なくない被害を受けたが、進んだ文明や倫理観故か、彼らを深追いすることも捕食することも無かった。
その結果を間接的に知った千歳は、彼らとの共存の道を選んだ。
敵対すれば兎妖精族に生き残る道はない。
共存ではなく恭順とならぬよう、千歳はそれまでの100余年で改善しつつあった生活技術を全面に押し出し、慎重に彼らとの交渉を行なった。
◆◆◆
【四神歴紀元前112年】。
悪戯者ながらも気さくな小魔族、武人のように寡黙で義理堅い鬼人族、穏和で優しい兎妖精族を中心に構成された多人種国家『オトギ』。
各種族の生来の気性故か、特に大きな諍いを起こすことなく、彼らは惜しみなく技術を交換し合い、その生活ぶりは豊かになっていった。
元々複数の群れを各個に築いていた狼人族や鳥人族からも、少数ながら共生を願い出る集団が現れ始め、国はより大きくなった。その分諍いも増えたが、長い時をかけた言語統一と法整備を進めるに連れてそれも落ち着いていった。
どの種族にも当てはまらず非力な少年の容姿を持つ千歳だが、その賢慮と知恵から彼を王にと推す人々は数多かった。
千歳はそれを固辞したが、兎妖精族達からだけでなく、各種族からも千歳を英雄視する者が現れ始めた。
駆け足です。
本当は細々としたエピソードを挟みたいところなのですが、主人公がだいぶお年を召してから本編が始まりますので、まだまだプロローグが続きます。
ここから週一更新を目指します。リアル仕事次第ですけど。