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不老不死と11番目の弟子  作者: 雨宮さいか
プロローグ 戦神の軌跡
2/21

第2話 新しい家族






 その日───()()の紀年法で言えば、【四神暦紀元前244年】。

 千歳は見渡す限りの草原の中で、目を覚ました。

 辺りに生き物の気配はなく、戸惑いの最中で助けを求め、当てもなく彼は歩き続けた。


 這々(ほうほう)(てい)でたどり着いた森の中の小さな村には、兎のような耳を持つ人間達が暮らしていた。()に『兎妖精族(プーカ)』と呼ばれる種族達である。

 彼らの暮らしぶりは原始人に勝るとも劣らないものであった。言葉は通じず、まともに休める場所も食べ物もなく、衛生観念の欠片もない。


 しかし、幸いにして千歳は受け入れられた。身を寄せ合うような、その日暮らしの生活が始まった。




 ◆◆◆




 「チトセにはきっと、戦いの才能はないなぁ」



 それから5年の時が過ぎた、【四神歴紀元前239年】。

 千歳がようやく現地の言葉の聞き取りができるようになり、覚束ない言葉で話し始めた頃、ある兎の老人が言った。

 老人は彼らの村に紛れ込んだ千歳を、とりわけ心配して保護してくれた兎妖精族(プーカ)だった。


 どうやらこの世界において、兎妖精族(プーカ)は食物連鎖の随分下に位置するらしく、その外敵は少なくない。そして厳しい生存競争を生き抜く為には、彼らの気性は余りにも穏やかで、優しすぎるものだった。


 外敵には四つ足の大きな獣や昆虫などがいたが、特に多いのは狼の耳を持つ人間か、鳥の翼を持つ人間だった。後に日本語で狼人族(ワーウルフ)鳥人族(ハーピィ)と呼ばれることとなる種族である。


 彼らは拙くも同じ言葉を話す知性ある生物同士で殺し合い、時にその肉を喰らい生き延びる。元の世界ではあり得ない常識に眩暈を起こしながらも、千歳は外敵を排除するべく、兎妖精族(プーカ)達に必死で戦闘訓練を提唱した。その結果、かけられた言葉がそれである。


 それでも千歳は、懸命に強くなる術を求めた。


 罠、奇襲、騙し討ち。

 卑怯も非道も何もない、純粋な生存競争。


 動物の骨から削りだした拙い武器を振り回し、時には元の世界の倫理観につられて思い悩み、神経をすり減らしながらも千歳は戦い続けた。


 受け入れてもらった恩に報いたかったから。

 新しい家族を守りたかったから。



 「何十年か前に、この辺りにいた種族は、みんな狼や鳥に食べられていなくなった。多分僕らも、いつかそうなる」



 兎妖精族(プーカ)の青年が力なく呟いたそんな言葉が、脳裏から離れなかった。

 そんな彼らにすらも全く敵わない現状に歯噛みしながらも、千歳は必死で牙を研ぎ続けた。




 ◆◆◆




 【四神歴紀元前229年】。


 この不思議な世界に来て、15年。

 30歳になった千歳は、自身の異変に気づき始めていた。


 体を鍛えても、筋肉がつかない。

 いや、それどころか千歳は年をとっても容姿が全く変わらなかったのだ。

 自身に起こる不可思議に不安が頭を(もた)げたが、誰に相談する事もできなかった。


 この年の冬、千歳を保護した老人が老衰で亡くなった。それから千歳は、群れを引っ張るリーダーとなったのだ。

 彼らに弱みは見せられない。もう、保護されるだけの子供ではないのだから。


 激動の日々を過ごす内、千歳は不老について次第に深く考えなくなっていった。

 日常の中に埋もれていった現実を思い知るのは、未だ少し先の事だった。


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