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不老不死と11番目の弟子  作者: 雨宮さいか
プロローグ 戦神の軌跡
12/21

第12話 新たな出会い


「お前が戦神チトセか」



 【四神歴紀元前20年】。

 千歳とマーリンはあいも変わらずいつもの川辺で釣りをしていた。

 長年ここで語らうのは、思い出の場所だとかいう思い入れや感傷ではなく、単にここが人目につかず会話のできる場所だからだ。



「あたしは強いやつと戦いたい! お前が戦いの神だと言うのなら、戦ってあたしを楽しませろ!」



 しかしその日、招かれざる客はやってきた。

 見た目で言えば千歳と同年代程に見える、鬼人族(オーガ)の少女。



「何だ、この不躾な小娘は」



 少女の横暴な態度を見て、45歳となったマーリンは眉間に浮かんだ皺をさらに深めた。



「いや、これ完全に初めてお前がここに来た時と同じパターンなんだけど、そこんとこどう思うの?」



 呆れる様に釣り糸を引き寄せる千歳の容姿は15歳のままだ。



「まぁいいや。戦神じゃあないが、千歳っていうのは確かに俺の事だ。いきなり何だか知らんが、とりあえず座れよ」



 千歳の態度がいつもより柔らかいのを見て、マーリンは溜息を吐いた。

 それは相手が見た目麗しい少女だからというわけではなく、自らに向ける態度が崇拝ではなく挑戦的なもの故だという事を的確に見抜いていたからだ。




◆◆◆




「へぇ、それでお前が優勝したんだ」


「お前じゃない、アヤメだ」



 アヤメと名乗った少女は、マーリンの予想を裏切って大人しく腰を下ろして話し合いに応じていた。



「もう周りに、あたしより強い武人(ヤツ)がいない。魔獣狩りは、大人が怒るんだ。狩人(ハンター)免許(ライセンス)を取ってからにしろって、勉強させようとする。あたしは勉強はキライなんだ」



 アヤメの目的は単純だった。

 剣技を極める為、強い者を探し求めては戦いを挑んでいる事。

 先日、武技を競う由緒正しき武道大会で優勝した事。

 森人族(エルフ)の移民騒動から大きく語り継がれるようになった千歳の神業を聞きつけ、戦神を探し続けていた事。



「まぁそういう事なら、一丁お相手になりますかね」


「本当か!」



 苦笑しながら挑戦を受けた千歳を見て、アヤメは喜々として立ち上がる。

 爛々と輝く目を千歳に向けたまま、腰の得物をすらりと抜き、大きく反った刀を中段に構えた。



「………刀?」


「そうだ。知っているなら話は早い、武器を出せ!」



 鬼人族(オーガ)の鍛冶師が、試行錯誤の末に“戦神の世界の神器を蘇らせた”と謳う、『刀』。

 ()(つば)も、千歳が思い描く『日本刀』とは細部が異なっているが、反りの入った刀身と美しい直刃の波紋は良く再現されているように見える。

 実はこの『刀』、神国ニホンのサムライなる英傑が振るった得物として、ここ10数年程で鬼人族(オーガ)達の間で爆発的に広まっているのだが、ある種浮世離れの生活を送っている千歳には知る由も無かった。

 ただ大昔に酒の席でそんな話をしたかも、と思う程度だ。


 剣技、と言われれば剣で相手をするのが礼儀だろう。

 千歳が愛用の直剣───これといった銘も無い、一般的な片刃の刀剣───を抜くと、これ以上の会話は不要とばかりにアヤメが斬りかかった。


 その剣撃は猪突猛進。

 己の欲求に素直で、直情的なアヤメの気性を表すような一太刀を、千歳は正面から受け止めた。



「……つくづく才能が無い」


「なんだと!?」


「ああ悪い、(こっち)の話だ。お前は天才だよ」



 “100年前の俺なら、この直剣は真っ二つだったろうな”と千歳は内心で嘆息した。


 天才。


 戦いに限らず、学術においても、芸術においても、千歳は天才と呼ばれる傑出した人物を長い人生の中で幾度と無く目にしてきた。

 その最たる例がこの戦いを興味なさげ眺めている男───マーリンなのだが、どんな分野(カテゴリ)の才能であっても、その尤も重要な要素は共通している。


 集中力だ。


 アヤメの初撃───彼女は“斬る”に徹していた。

 人を斬るという事の是非、躊躇い、迷い、恐れ───一切の邪気も無い、ただただ斬る事のみに集約された一太刀。千歳はたった一度のやり取りで、アヤメの底知れぬ才能を感じ取った。千歳の軽口に集中が解けたのは、幼さ故だろう。


 唐突な賞賛に面食らったアヤメは、千歳の言葉を反芻して首を傾げた。



「……何を言ってる? お前は強いぞ、今まででダントツだ」



 彼女は彼女なりに千歳の技量を肌で感じたのだろう。

 渾身の一太刀を完璧に受けられたのは、彼女にとって初めての経験だった。それ以前に、抜身の刀を人間に対して手加減無しに振るう事自体、彼女が幼少期を過ごした剣術道場を飛び出して以来、初めての事だった。



「俺は凡人なんだ。俺が必死こいて“1”を積み重ねる間に、天才(お前ら)は“5”も“10”も学んできやがる」



 台詞とは裏腹に、千歳は笑った。

 嬉しそうに、楽しそうに。天才を───強者を待ち焦がれていたように。



「……お喋りが過ぎたな。集中しろ。100%を出し切れ。全力でかかってこい」



 集中を欠くよう舌戦を交えれば、簡単に切り崩せるだろう。

 アヤメの剣に、若さ故の精神的な未熟さを垣間見ても、千歳はあえてその選択肢を捨てた。


 老いの無い人生で、唯一実感できる()()

 それを計る強敵(物差し)が、千歳には必要だったからだ。

 そしてそれこそが、200年以上もの間千歳を戦いに駆り立て、凡人なりに“1”を積み重ね続けるという茨の道を進ませるモチベーションの正体だった。



 ───────絆を結んだ人達が、先に老い死していく恐怖。

 ───────自分だけが取り残されていく不安。

 ───────終わりの見えない人生そのものへの絶望。



 それは千歳の内面的な弱さ。

 身近な大切なものを守る為の努力は、いつしか長過ぎる生を受け入れる為の儀式へとすり替わっていった。



「……ふッ!」



 掛け声ではなく、身を捻る動作により肺から絞り出された吐息。

 アヤメは魔素から練り上げた闘気による身体強化を最大限に上げ、前傾姿勢のまま中断構えた刀を最適の動作で、最速の力で抜き放たんと急速に距離を縮めた。


 対する千歳はアヤメよりも一瞬早く、お互いが間合いに入る()()に、直剣を振るった。当然その刃がアヤメに届くことはない。ただ、千歳の身体から伝わり刀身から溢れだすような闘気が、虚空に剣閃を描いた。


 直後───入れ替わりにアヤメが繰り出した斬撃は、虚空に残ったままの剣閃(レール)を滑り、千歳を避けるように宛転(えんてん)として軌道を変えた。


 それは寿命を超越する膨大な時間、“1”を重ねる凡人の神業。


 姿勢を崩して晒された無防備な後ろ首に、直剣の()を叩きつけると、アヤメは呆気無く意識を失った。


まだ本編に辿りつけない……。

早く始まれ四神歴。

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