第1話 遠い夏の日
※2016/03/08 紹介文を一話冒頭に移動しました。
西暦2015年、春。
都心から少し離れたガレージ付き一戸建ての3人家族。
仕事はプログラマ、趣味は車。休日は家族サービスを忘れない優しい父。
元小学校の教師、現専業主婦。クソがつく程に真面目で少し気の強い母。
そんな両親の一人息子。春から高校一年生となった平凡な少年。
何の変哲もない、故に幸せな家庭。
少年───南 千歳の日々は満たされていた。
始まったばかりの高校生活。
誰もが経験する人生の通過儀礼。
彼は歳相応に戸惑い、未だぼんやりとした将来にほんの少しの不安を抱き、新たに広がった人間関係に期待と希望を抱く。
どこにでもいる、平凡な少年。
しかしその年の夏、千歳は数奇な運命を迎えることとなる。
それは不老不死となり、悠久の時を戦い続ける少年の、晩節の物語。
その、序章である。
◆◆◆
その日、少年───千歳は山の中にいた。
ピックアップトラックに揺られて進む、まったく人気のない山道の先。
小さな川の畔、父の思い付きで始めたフライフィッシングは早くも難航していた。
警戒心の高い自然渓流のニジマス相手に、素人二人で挑むには荷が重すぎたのだ。
半ば意地となってフライフィッシングに勤しむ父を脇目に、千歳は早々に切り上げて周囲の散策を行なうことにした。
野生の魚が音に敏感なことぐらいは素人なりに心得ている。千歳はなるべく音を立てぬよう岸に上がり、森の中へ進んだ。
父のいるポイントから、50メートル程は進んだだろうか。人の手が加えられていない草木を掻き分けながらの前進は、思っていた以上に方向や距離の感覚が掴めない。そろそろ戻らなければ遭難してしまうかもしれないと思い始めた頃、千歳は木々の向こうに不思議な光を見た。
原生林とは言え時刻は未だ日中で、視界はそれ程暗くない。そんな中で眩い光を放つ“何か”。千歳は吸い込まれる様に“何か”に向かって歩を進めた。
「……何だ、これ…………」
そこに在ったのは、イルカのような形をした虹色の発光体だった。
“もし神様がいるとしたら、きっとこんな姿なのだろう”。
千歳は目の前の存在に呆然としながら、不思議とそんなことを考えていた。
別に彼が熱心な宗教家というわけではない。絵本から、漫画から、小説から、ドラマから、映画から───『神様』という概念を自分なりに受け止めた上でのイメージの話だ。
“徳を積んできた其方に、特別な力を授けよう”───だとか。
“彼の地を整えて、国を治めよ”───だとか。
そんな人間本位の、都合の良い存在ではなく。
きっと人ひとりの行い───否、人類の行く末すらも、永遠に続く繰り返しの環の一部でしかないと理解している、人間の尺度や価値観では計れない超常の“何か”。
「………キレイだ」
見ているだけで、その光りに包まれているだけで、“何か”の生命を感じる。“何か”は確かに、生きている。そして今、何かを求め、苦しんでいるのがわかる。人間のように息をしているわけでも、言葉を発しているわけでもないのに、千歳は不思議とそれを察することができた。
“何か”は、どこか遥か高みから落ちてきたのだ。
高揚した───しかし心は落ち着いている───ような不思議な感覚のまま、千歳は“何か”に手を伸ばした。直後、虹色の発光体がひときわ眩い光を放ち、その場から消失した。
一人の平凡な少年を巻き添えに。
そして彼の、永い永い戦いの時が始まる。
長編の小説になる予定です。
しかし更新はリアル仕事優先となる為、滞る可能性が結構有ります。
作者はPV数等を特に気にせずマイペースに投稿するつもりですので、その点を承知できる方のみお付き合い下さい。よろしくお願いします。
プロローグはどんどん時代を飛ばしていくので、各話がとても短いです。