第三話 伝説を超えたい少女
今日付けで助手になったクレア・ホームズには、早速働きたいということで書類の整理をしてもらっていた。
一言二言いうだけで、要領を得た彼女の仕事ぶりは、とてつもなく早いし丁寧だった。俺なら三時間以上かかりそうだが、このペースだと、もう終わりそうだ。さらに彼女は要領を得てからは、延々と話し続けているのだ。自分が日本に来た理由だとか、趣味であったりとか、話題は尽きない。
日本に来たのは故郷にいた日本人の影響から日本に行きたかったということと、親と大喧嘩したということらしい。どういった方法で金を稼いだかはわからないが、親の支援を受けての留学ではないそうだ。
彼女は相当の荒波を超えてきたのだ。
クレアはすべての書類を片付け終えると、一度伸びをして話し始めた。、
「どのきっかけも『ホームズ』という自分の名前なんですよ」
俺は地図に気づいたことを書き込みながら尋ねた。
「それなら日本でよりもイギリスで探偵の助手とかやったほうがいいんじゃないか?」
クレアはまっすぐな目で答えた。「私の夢はかの『シャーロック・ホームズ』を超える探偵になることなんです」
「モデルの実在はともかく、彼はイギリス女王から爵位を与えられほどの功績だった。並大抵のことじゃないな」
「もちろん」クレアは言った。「承知の上で超えてやりますよ。曾祖父さんを」
「ちょっと待ってくれ」俺は言った。「実座はともかく、親族なのか?」
「会ったことはありませんが、私はひ孫です。証拠もありますよ」
彼女は答えた。彼女の目は確信に満ちている。
にわかに信じがたいことだ。しかし、この場にシャーロキアンがいれば歓喜して彼女を質問攻めするだろう。名前だけではなく、彼女はそれを自称するほどの能力を持ち合わせているのだ。
俺も彼のような探偵像を持って、この業界
「名前は『シャーロック・ホームズ』なのか?」
「そう称していたときもありました」
「というと?」
「彼はいろいろと名前を変えていました。有名になるのが嫌だったとか、とある作家に付きまとわれていたとか。理由に関しては親族でも分かれますね」
俺は素直に感心していた。
とある作家とはおそらくコナン・ドイルのことだろう。
シャーロック・ホームズのモデルに関しては諸説ある。
コナン・ドイルの恩師だとか、彼自身だとか、色々言われている。
そこで俺は冗談半分に地図を指した。
「ぜひホームズの名を継ぐ者として、この事件の推理が聞きたいな」
「わかりました」
クレアは新しいおもちゃを買ってもらった子供のような笑顔でうなづいた。