爪を噛む女 パート2
付き合っていた女が死んだ。自宅のアパートで首を吊った。
職場の女の子たちとランチをしていたとき、彼女からメールが送られてきた。
「さよなら。」
二ヶ月ほど連絡をしていなかったから、俺は、
「やった。こっちから言わずに済んだじゃないか」
安堵した。と言うより、せいせいしたという方が正しいだろう。
初めて彼女に会ったとき、今までにない女の匂いがして新鮮な気持ちになった。口数も少ない。控え目でいつも俺の後ろをついてくる。口答えなど一度もしなかった。部屋にいつ行っても文句なんて絶対に言わない。俺の好きな料理を作ってくれた。
居心地がいいなと感じていたのも半年くらいのあいだだけだった。
無口で、暗くて、自分の意志がない。たまに静かに後ろに立っていられると背筋が寒くなった。左手の薬指の爪を噛む癖も、最初のうちは無性に可愛いと思った。それを彼女に伝えたこともある。
「その癖、とっても可愛いよ。俺は好きだな」
なんて、今思えば、俺の頭は狂っていたのかもしれない。陰気くさくて、鬱陶しいだけだった。別れたいと思うようになった。職場で茶髪の快活な女の子たちを見ているうちに、
「やっぱり、俺はこういう子と一緒にいるほうが楽しい」
そう思った。
女の四十九日が過ぎたころ、俺はふと左手の薬指がチクチク痛むのに気付いた。見ると、爪の先がギザギザになって割れている。
「何かで切ったのかな」
そのときは、たいして気にも止めなかったが、他の指の爪は伸びるのに、なぜか左手の薬指の爪だけが、そのままだった。伸びることなく、ずっとギザギサのままだった。たまにチクリと痛むことはあったが、病院に行くほどではない。爪切りをするときには不快な思いに駆られるが、すぐに忘れてしまう。
ある夜、新しい彼女とバーにいた。金髪に染めた髪と白い肌に長い付けマツゲが、異国の女のようで、彼女といると頭も身体も熱くなる。会話も弾んだ。
「で、どこにする?アタシはグアムかハワイがいいな。水着、買ってくれるわよね?楽しみだわ。どんなビキニにしようかなあ」
女は微笑みながら、グロスをたっぷり塗った唇に薬指を挟んだ。長い四本の爪には濃いピンク色のマニキュアが綺麗に塗られている。俺の顔をじっと見つめながら、女は何かつぶやいた。パキッと小さな音がした。俺の左指がチクリと痛んだ。
女は唇から指先を外し、ふふっ。と笑った。俺と同じギザギザの爪からピンク色のマニキュアがはがれ落ちていった。
完