異世界でも放送事故
前回、青年が俺の昼飯を奪った。許すまじ、暴食。
俺は剣士さんに引っ張られ、店の裏手にある庭に、ごみの詰まったごみ袋のように投げ捨てられた。
「うっ……」
呻き声を上げたが、これは演技。いいな、これは演技だ。
「貴様っ!剣のサビに……いや、一生消えぬ傷をつけてやる!」
女だけが恥じらうやつだね。
男にとって一生消えない傷は、クソなみそのテクニックだよ。「いさじだ」とか言いたいね。
「そんな……」
俺は右手を頬にあて、赤くなる。
気持ち悪いとは思うだろうが、これは許容範囲に入れてくれ。
俺は剣士さんに挑発をして、モテるために真面目なんだ!俺がやることなんかにツッコミをイチイチ入れれいたらキリがない。やめよ……。
「それは……斬っていいってことだな?」
鞘から剣を抜き放ち、構えた。
ただならぬ殺気に、道端の猫の如く、震えながら見つめるだけ。
俺は彼女の振り上げた姿を見ながら思った。
太陽、なんで雲に隠れないの?
「ダメだって」
あるあるその十五。
朝と夜は来るのに、雲が来ない。
異世界は快晴。嵐か雪ぐらいの時にしか雲は流れようとしない。しかも、特定の場所で。異世界は何だか異常気象が好きなのかもしれない。
砂漠、あるっけ?雪山はあるけどさ。
「こらっ!お客様に何をやっているんだい?」
どこからか、どこにでも居るモブオバサンの声がした。
俺はその声の主が居るところに顔を向ける。また、彼女もそちらに顔を向ける。
「あっ………仕事をほっぽらかしてすみません!」
彼女は頭を下げて、何だかしおらしいというか……。
取り敢えず命拾いをした。おばさんの区別は出来ないが、ありがとう。
その後、俺と青年と部屋に戻った。
「はぁ~………」
ベッドに腰を下ろした。
青年はそんな俺に何をさせる気か、目の前にある化粧台にスマホを立てて、こちらにカメラのレンズを向けた。
そして、指を三本立てる。
「まさか……」
指は二本、一本……。
「ハイ!どうもー、第二回目の放送、かな?」
俺は放送が始まった事を否むかもしれない。
最近、この世界が楽しくていつまでも遊びたいと思ている。だから、もう少しだけ体験がしたかった。
「それで、今見てる人は……」
青年に閲覧者の確認をさせようとしたところ、当然ドアが開いた。そこには、あの女剣士が立っていた。
何も言わず、視線を一度流し目で送ったくらいで、何もしてはいない。彼女は何故かクローゼットに足を向けて進めていた。俺は、入ってきたや否や、慌てた声で彼女に向かって、
「ちょっと、何してんだよ!」
彼女は構わず、クローゼットを開け出す。
あるあるその十六。
勝手に人の物を物色しだす冒険者。
ゲームで毎回思うのだが、なぜ、凶器ぶら下げたまんまで入ってくるんだろうか。そのせいで、追い払えるやつも居なくなるだろ。
「ないか………邪魔した」
「ちょっ……」
彼女が帰った後、この放送は誰かがに録られていたらしく、ウェルブラの動画ランキング首位獲得、コミュニティーが多数作られて、この事故で持ちきりになり、俺の放送は閲覧者が一日で、リアルタイム三万を記録。
結果―
「さよならだ」
ウォルブに黒い真珠の様に奥がある、綺麗な穴に送られた。
彼女たちには悪いことをしたな、とか考えながら俺の体が浮いた瞬間、地面に足が着いた。
「あれ?」
「失敗だぁ……あはは!」
「えぇ……」
次々と生まれる声。
どうやら、帰るのはまだ先みたいだ。