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異世界でも生主っ!  作者: パンチラさん
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異世界でもニコニコ

 目の上青タン少年、略して青年。前回、女だと発覚した。今回はギルドに来ている。Wi-Fiの契約のため、どこかで見てくれるだろう視聴者のために!

 ギルドの中は予想通り、異世界モノらしい造りになっている。木でできた受付カウンターなんか素晴らしい程の精密さ。喧騒に包まれたここは、温かさを感じる。


 「素晴らしいな、ここ」


 「そうですね……」


 うつむいて、顔に影を落とした。

 悪い事を言ったかもしれないと、何となく自分を責めそうだが、直ぐに切り替え、笑顔になる。無理してるなー、なんて思いながら、横を歩く。


 「……っで、契約は?」


 「ここです」


 左腕が指す先は、小汚ないカウンター。周りから逸脱した雰囲気を醸し出している、この受付。受付……。汚な。

 受付嬢は、老いた昔のお姉さん。昔の美人。これをお姉さんとは呼べない。


 「フォルブお姉さん、お久しぶりです」


 「おお、来たか」


 呼んだよ、呼んじゃったよ。

 ウォルブさんはどう見ても年配。Wi-Fiが何かも知らないだろう、ご高齢者に手続きを頼んでもいいのだろうか。そう思いながらも訊ねる。


 「Wi-Fiの接続手続きをしたいので、契約がしたいのですが……」


 「わい……ふぁ?」


 ダメだこりゃ。

 頼む相手を間違えた、自分は自分を責める事をしなければ、憎むこともない。ましてや、老婆を責めるはずがない。


 「魔法、解いてくれますか?それと、この人に説明してやってください」


 「嫌だ。話してて楽しいから」


 あっ、これはあれだ。

 異世界あるあるその七。

 魔法に掛けられたり、魔法の影響で何か起こしてしまう。主人公をこっちに引っ張りこんだり、主人公を別のモノに変えたりするのがいい例だ。

 この場合、前者だな。後者は無いな。いや、あってたまるかこんちきしょー。

 とにかく、魔法の悪影響は定番中の定番。異世界ものの引き金、に繋がっている事がよくある。故意的に引き起こすのはあまり見ない。

 それにしても、老婆じゃなければ何なんだ。


 「まだ、エルフと比べたら100歳近く若いわ」


 異世界あるあるその八。

 合法ロリや、ロリBBA、あとその他諸々。

 見た目若いが、歳はうん百歳と歳を取りすぎた変人ども。そんな仙人みたいなやからがうじゃうじゃおり、経験豊富故に、大人の魅力を知りすぎている。そのため、主人公にハニートラップをかけてくる。これ、孔明の罠だろ。

 お金で買えないが、魅力で寄ってくる。異世界人だということからの興味で。

 そんな魅力的かつ、ビッチな輩なのである。


 「幻影魔法、そろそろ止めてよ」


 「はいはい……」


 青年の言葉に、やっと耳を傾けた老婆は、みるみるうちに変化していく。

 耳はそこまで大きい訳でもなければ、小振りでもない中間地点辺りに位置する。鼻は、いささか高い。外人っぽい見た目で、大人の魅力を大きく主張させる服そう。どう考えても、誘っている。

 テントが一張出来てしまう。


 「あら、あらあら。股間が腫れてますわよ」


 「おっと、これは失礼。体は口ほど物を言いますから……」


 「誰が上手いこと言えというのですか」


 何だか複雑になってきそうだから話を戻そう。


 「説明、お願いします」


 「はいはい、余談はおしまい。それで、どこから話そうかしら………ああ、何故ここに居るかがいいわね。それは、スカイプで話をしていて、楽しかったから、こっちでも同じことをやって欲しいと思ってね」


 同じこと……。

 笑点のセットでも用意してくれるなら、笑い話の一つや二つ、用意出るけどな。何故、異世界に来てまでもやらなきゃダメなんだよ。それに、スカイプで話したっけ。覚えてないや。


 「ニコニコ、忘れてない?」


 ああ、ニコニコ。ニコ動かー。

 自分は無理を強いられ、この安寧の地で生主をやれっていうの?こんな順応できる自分もあれだけど、やらないよ!フリがあっても!。


 「生主をやって欲しいと?」


 「この世界で流行っている、生放送発信サイトがあるんだけど……」


 どうやら、クソみそなテクニック以上にホイホイついていくよね、こんな話。もしかすると、交渉次第で何かあるかもしれないしな。


 「露骨ですよ。……それはそうと、『ウェルブラ放送』をするには……」


 「スマホとか、PCがあればいいけど……」


 何、それ。

 突然呼び出されて、生主をやれと言われて、それでもまだ足りないのか容姿までバカにしやがって。

 泣きっ面に蜂と言うけど、泣きっ面にうん○こだよ。

 下ネタを挟まないと死んじゃうからいうけど、うん○こなんだよ!

 

 「あっ、あった」


 手汗でベッタベタになったスマホを、強く握りしめていた。

 メガネ、メガネー。なんてネタは、ドジっ娘がやるから可愛いんだ。僕がやってどうする。


 「これで安心だけど、サイトに繋げるためにはこっちの世界のWi-Fiに繋がなきゃいけないから………あったあった」


 ゴミの山か、ゴミ箱か見分けがつかないゴミ入れ場から紙を抜き取り、ちり紙にでもしろと、くしゃくしゃのままで突き出してきた。

 これに判やらサインをしろと言いたいのだろうが、どう考えてもゴミだから。シワが年の数ほど織り込まれているっぽいから。これをどうしろと!

 考えてみれば、この世界には職業が沢山ある。何故、ニート職に就こうとしている。生主を何時間も続けろってことだろ?クソだろ。うん○こだよ。今日で三回目だけど。


 「書いて、サイン」


 「そうですよね……あはは」


 放送で話した誰だったかも知らせず、ただサインをくれとねだる女性。魔女!悪魔!責任とれ!養え、バカ!

 心の声が募るばかりで、クソまみれの感情が錆び付いている。

 ああ、強いられるのって、こんなに辛いのか。


 「さあ、書いて」


 異世界あるあるその九。

 何故か強いられる決断。

 揺るぎない精神を持った主人公がどこにいただろうか。皆、見知らぬ地に来てしまえば気が動転してしまい、右も左もわからぬままで進んでしまう。現実を生きる方が楽だと感じさせるのは、この時だろう。

 ヒロインキャラに迫られ、嫌でもさせられる。クソ展開。今日で何回目かのクソ。自分って、まみれているんだな。


 「はい……」


 いいなりです。

 絶対服従、絶対王政。従属万歳、ははなる大地に響き渡れ、角笛の音。俺はこれから、マゾヒストとしての道を歩む、誰もとめるな!」

 心で嘆きながら、震える手で書いた。


 「ああっ、ああっ………もうダメだ、もうダメだ……」


 だが、それでいい。

 どこからか声がした気がした。まあ、心の声だけどね。


 「何で?」


 不思議そうに僕を見るけど、やめて欲しい。僕は痛くないし、痛くないし!強がってねぇし。ただ、武者震いが止まんないだけだし!

 つい、強がってしまう自分を自分で慰めながらサインを書いた紙を返した。


 「はい、契約完了。このURLをそのまま打ってくれれば、ウェルブラ放送に行けるから。まあ、応援しているよ」


 「アカウント、人になすりつけたらダメでしょ」


 え、作ってあるの?パスワードは?……って、違反だろ。完全なる違反だろ。まあ、やって人は多いけどさ。


 「まあ、作っただけだからいいじゃん、別に」


 あげたらダメって訳ではないけど、運営的にもそれはまずいだろ。きっと、毎晩枕を高くして、涙を流すことになるだろう。最悪だよ、それ。一番ダメなパターンだよ。


 「取り敢えず、頑張って」


 こうやって押しつけられたアカウント。パスワードはその後に教えて貰ったが、罪悪感が凄いため、どうも使う気がしない。

 7000ウェル(日本円で30000だとか)の宿泊費代を無駄にするわけにもいかず、ただ、こも状況をどうにかしなければならない。

 初めは大切だ。だから、どうしようか。


 「いくぞ……」


 「いつでも、いいよ……」


 唾を飲み込んだ。

 この緊張する一瞬は癖になりそうだ。ここは一気に行くしかない。


 「これで……いいかな」


 宿屋の一室、自分らは、スマホに向かっていた。

 パスワードを入力し、ログインする。メールはこっちが請け負う事になり、ついでにメールアドレスも受け取っっていた。

 メールアドレスとパスワードをいれる瞬間、僕たち過ちを犯した気がするほど張りつめていた。それが緩んで、笑みが溢れる。


 「設定だけども……男でされてる」


 「本当だ。ウォルブはとんだ変態さんだったんだね」


 異世界あるあるその八にて説明した、変態性を持っているんじゃないか説は有力だね。……デタラメを言っていた訳ではない。自分が説明する殆どが仮説段階で、定石の枠から抜け出す物も多くなってくるだろうから、まだ確信が持てない。それを、ここで披露している自分もどうかと思われる。

 脱線した話を元に戻すとして、ウォルブは変態。


 「プロフィールを書き換えようか」


 「そうしないと、少し危ないね」


 プロフィールには、こう書かれていた。


 《やっほー、腐女子の皆。僕っち、この度ウェルブラを始めたゼ!よろしくぅ》


 痛い、以外の言葉は無し。

 開いた口が塞がる事は、まず、ないだろう。もしも塞げるのならば、これ以上にショックを与えて欲しい。まあ、そんな大きなショック、僕に与えれるはずがない。


 「名前、言い遅れたけど、セル•ゲイ•ホモォビアって言うんだ、よろしく」


 ゲイにホモォ。

 地獄絵図が容易に想像出来てしまうほど、名前の印象が強く、口が元に戻ってしまった。そして、吹き出した。


 「ゲイに……フフッ……ホモォ………やべぇ」


 腹を抱えて笑っていると、とてつもない殺気に気圧される。

 青筋を浮かせたホモォ……フフッ。


 「今から、この冗談を説明します……」


 セル•G•クラリスが本名で、それはあだ名だと。ウォルブが付けたらしく、説明されると納得がいく。信憑性が高すぎて怖い。

 本名が分かったところで、クラリスに訊いた。


 「ウォルブって、何歳だ?」


 「たしか……ングッ!」


 何者かに口をつままれた様に口をとんがらせて、もがいていた。ウォルブはきっと、遠くからでも魔法が使えるんだな、と思ったところで、彼女にかかっていた魔法が解けた。

 肩の力が落ちた事が目印。


 「ぷはぁっ………もう、ウォルブの歳は言わないでおこ……ングッ!?」


 どうやら、歳で反応する、自動詠唱魔法か何かだろう。都合がいい。彼女にとっても、僕にとっても。

 そういえば、クラリスも一人称が僕……。キャラかぶりは嫌だね。これからは俺で行こう。

 決意をしたところで、また、術が解けた。


 「もう……いやだ」


 その言葉には力がなく、弱々しい、衰弱した声だった。

 彼女には悪いが、遊ばせて貰おう。


 「ウォルブって10回言って」


 「ウォルブ、ウォルブ、ウォルブ、ウォルブ…………」


 指を曲げながら数える姿は、とても目の保養になる。後は、ラッキースケベーも欲しいね。


 「じゃあ、歳って言って」


 「とし……ングッ!?」


 キーワードに力が働くみたいだ。

 効果は10秒と短めだが、それなりに需要がある。ああ、おやじの神、ウォルブよ。今、我に祝福を!と崇め讃え、奉って、ゴミ箱に捨ててやりたい。


 「ぷはぁっ………もう、貴方も嫌です………」


 それはどうも。

 俺に似合わない事はしない趣味で、どうも馬が合わないな、と感じたら捨てていくスタイルだから。オニワバンのスタイルですから。……僕の知っているやつと、何かが違う。

 何故か悩みこんで、頭を抱えだしたか分からない俺に声を掛けてきた。


 「いや……何て言うか、言葉のあやだったと言うか、その……」


 おっと、これはいい。泣き落としが効くんだな!


 「もういいさ………死ぬから………」


 そう言うと、俺の体が勝手に浮き出した。

 ウォルブをこの日以上に恨めと言われても無理なほど、これは辛い。

 窓が勝手に開いて、俺がそこから放り出される。これを何と例えればいいのやら……。玉ヒュンでいいか。

 去らば、世界。


 「うおっ!?」


 落とされたはずだった。

 頭から落ちたはずだった。

 だが、生きている。


 「いてて………何をしてくれた!」


 鎧に兜。腰の鞘に納まった剣を携えて、半身を起こして、自分の頭を撫でている女性。長い金髪が兜から覗いている。

 これはフラグか!?仲良くなれそうな予感がするよ!


 「このやろっ!」


 急に立ち上がって、鞘から剣を抜き払った。


 「ひっ!」


 目の前を通過した剣先は、俺の前髪を切った。

 俺の目の前に剣を構えて立っている女性は、俺を見下しながら睨んでいる。

 これは命の危機か?


 「許してやる……」


 剣を鞘に納め、ため息を吐いた女性。

 俺はそんな彼女の行動に安堵をして、毛が立ち上がった腕で額の冷や汗を拭いた。


 「大丈夫ですか?」


 「ああ、だいじょうぶだー」


 異世界あるあるその十。

 高いところから落ちても大丈夫。

 100人乗っても大丈夫な物置でも、落とされてはお陀仏だ。だが、異世界では、半重力装置があるわけでもなく、大した人通りもない。故意的な事が起こらない限り、死なないのだ。

 異世界の中でも、七不思議に数えられるほど。これは凄い体験であり、もう感じたくはない。

 こんな体験はまっぴらごめんさ。


 「今、薬草を持っていくからね!」


 異世界あるあるその十一。

 何故か薬草を多く消費される。

 薬品とは、化学反応を利用したものである。そのため、大量摂取は危ない。薬草を沢山使用するなんて、薬物乱用だろう。よく生きてられるよな、ああいうやつら。


 「はあ……」


 ため息をつきながら、道路に仰向けざまに、通り行く女の子のスカートの中を覗き見ようとする。だが、スカートが長すぎて見えない。


 「何でだよ………」


 異世界あるあるその十二。

 何故か長い、街の人々のスカート。

 一般的に知られている格好が、長いスカート。それ以上も、それ以下もない。長さが全員同じ。味もなければ、華もない。

 貴族の格好はどうなのか気になる。

 ああ、短いスカートが恋しい。貴族はドレスだろうから、長いだろう。ああ、長いの嫌い。

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