異世界でもマイペース
皆さんご存じの、あの、大きな動画投稿サイト……もとい。才能の無駄サイト、ニコニコな、あの動画投稿サイトである。
名状しがたいので伏せてしまった。許して欲しい。
そんな事はどうでもいいのだが、現在の置かれた状況が把握できていない。それは、突然異世界に飛ばされ、何故かスマホ片手に町を徘徊。町の人に追いかけ回され、挙げ句の果てに、女の子に蹴飛ばされるなどなど……。踏んだり蹴ったりなんだが、さらに厄介なことに、盗賊に囲まれた。
街は活気に溢れており、とても犯罪が起こりそうにない、ごく普通な街だ。それがどうだ。どこの世界でも、路地裏は危険な世界。例えが悪いが、大阪の新世界くらい怖いのだ。
「ヘヘヘッ、兄ちゃん、金を出しな」
「痛い事はしないさ」
「ちょっとばかし、その服を拝借させて貰うだけさ」
ナイフを舐める男たちは、明らか様に盗賊だ。
明らか様に盗賊ってのもおかしな話、こんな世界で、俺たちの空想の中での出来事とも考えれる摩訶不思議な世界。ああ、いとおしいよ、僕の某ファミチキ君!
スマホを片手に掴んだまま離さず、命綱の如く、それを持っている。
関係がないが、スマホが曲がっちゃったりする話が、少し前に話題になったが、その男性はズボンの後ろポケットに入れていたそうだ。その男は、椅子に座ったとき、スマホがそのままになっていたらしい。それが仇となり、自分の体重で曲げてしまったそうだ。どんだけ重いんだ!って話さ。ついこの間も、新しいiが発売されたし……脱線しすぎた。
盗賊たちだ、盗賊たち。
盗賊たちは、俺めがけて襲い掛かってきた。それは、飛び掛かって来ている、と言えるが、そうとも言いがたいジャンプ。前に飛ぶだけなのに、そこまで飛べないのか、と笑ってしまいそうだが、それはそれで可哀想だ。
俺は盗賊たちに襲われながらも、そこまで感じない恐怖。
俺は精一杯の感情で、叫んだ。
「あー、おそわれるー」
俗にいう、棒読みである。
山田くん、座布団全部持ってってや、没取となりますなど、気持ちが取られた感じがします。スーパーなひとしくん人形を取られた時は、さぞ虚しく感じましょう。とは言え、こんな状況下で、助けようなんて考えるアホも居ないわけですから、お得意の合気道で………なんて考えていた時期も、私にもありました。
どこからともなく現れた、正義のヒーロー。
取り敢えず、目に見えたコテンパンシーンだけは見たくない。心が痛むから、と。
「やめろー!やるなら、僕をやれー!」
「楽しませてもらうぜー!」
「覚悟しとけよ、あんちゃん!」
「ヒャッハー!」
どこの世紀末モヒカンですか、アンタたちは。
ツッコんでいる場合じゃねぇ、と脳内パンダが柵を越えた。そんな、驚き桃木山椒の木な状況で、思う。
(どうしてこうなった)
遡れば数時間前にもなる。
しがないフリーターを名乗る、すねかじり大学生。視聴者命の僕は、常に生放送をしなければ死んじゃう病患者で、今年、根っからの腐れニートのあだ名がついた程、大学に通っていない。単位が惜しいなら行け、と言われているが、正直なところ、すでに取ってきているため、苦労もないだろうと、こう、惰眠を貪ったりしている訳だ。
お腹を掻きながら、空いている手で鼻をほじる。完全にオッサン化が始まっていた。
自称小さなおじさんは、何を思ったのか、目の前にある机んlスマホに手を伸ばして、寝ながら取りに行くスタイル。嫌いな奴はいないだろう。
スマホのロックを外して、何やいじり始めた。そして、あっというまに準備が出来た。
「さあ、こいや。凸待ちだ、カモンベイベー」
性根の腐ったこの俺がするのは、たった一つだけ。ガキ相手に論破する事だけだった。最近の子供は礼儀がなってないからな。こんな自分の醜さが分かっていても、これだけはいいたい。譲れない。
部屋に醸し出される、妙にソワソワする空間。
一人目が入ってきた。きっっと、視聴者だろう。
「わこつー。はい、どもー」
テンションは毎回こんな感じで、ブレることはない。
変に感じる人は中にはいるだろう。何を言っているか解らないって。俺も解らん。解らない事は解らないままで、ほったらかせるのが当たり前。常識人だと、自分は少なくとも思っている。
だんだんと視聴者数が増えてきたところで、俺はいい放つ。
「武器なんか捨てて、かかってこいよ」
有名な映画の一フレーズのため、乗ってくれる人が殆ど。最近は、子供がやけにみてくれている気がするが、生主三年目を舐めないで貰いたい。まあ、大したキャリアでもないけど。
そうそう、生主の説明だが、この生放送の放送主に対して、皆は生主と呼んでいる。また、自分も、そう呼んでいる。
世界なんか、このスマホの中だけで十分だと、自分はよく吐く。
そんなことより、常に点いているパソコンの前へ行き、うるさい着信音を止める。それは、スカイプだ。
「こんにちは~」
「はい、こんにちは~。お名前をどうぞ」
「山里由井でーす」
と、こんな感じで話を始めた。これには訳があり、平たく言うと、媚びている。詳しく言うと、これは視聴者のために、盛るあげるための話術。それを駆使して、放送を面白くしていく。もう遅いが、放送って言うのは、このサイト内で行える生放送である。
こんな事をしている内に、一日が終わる。
「あーあっ……つまんないな」
何か、生き甲斐と感じれる、大きな事を成し遂げてみたい。生主で。
願いは案外、あっさりと届くもので、俺は謎の声に導かれて異世界にやって来た。
謎の声は喋りが上手くなく、いうなれば、強制的に連れてこられたってこと。
今日は何度も話を戻すが、盗賊にコテンパンにされた人だけで巻き上げは済み、自分だけ持っていかれずにすんだ。ありがとう、青年。
何となく気の毒だが、見捨てていこうと考えた僕であった。
「あの、おいてかないで……」
何故か、インターネット環境だけは設備されているらしいから、生放送も出来るかもな、と思った。
青年の助けを求める声が聞こえたきがしたが、まあいいや。
自分は、商店街の様な、市場を駆けることにした。
路地裏を出れば、とても美味しい空気が漂っていり、本当にすばらしい世界だと思った。盗賊を抜いて。
活気のある街だとは思ってはいたが、まさか、ここまでとは。
「あいよー、いらっしゃいいらっしゃい!おっと、そこのお兄ちゃん。安くしとくよ!どうだい、一個」
「いいです」
謙遜とかではなく、古めかしい昭和の町にもにているため、何となくやり取りは分かっている。だから、敢えて定番を選ぶ。
まあ、案外うまくいかないモノだとは分かっていたが、ここまでとはな。
そう思うのも、さっきの目の上青タン少年。略して青年。彼が、断った事案をほじくり返して、その上、奢ってくれた。
「おばちゃん、一つ。この人に!ツケは僕に」
「あいよー!持ってきな、兄ちゃん」
定番中の定番であるリンゴ。
青年は、麻で出来た袋を投げ渡していた。いかにも屈強で、酒場とかで居そうなおばちゃん。きっと、この人は街でも有名だろう。そう思っていた時期が、私にもありました。
何故かパレードが開かれていた。
「さっきまで……なかったのにな。この行列は何だ?」
リンゴをかじりながら、独り言のように疑問をぶつけた。相手はもちろん、青年だ。しかし、おばちゃんが答えてくれた。
「凱旋だよ。あんた、本当にどこの人だい?」
異世界あるある、その一。
日本語がバリバリ通じる。しかも、ここでは日本語とは言わない。今は共通語としか分からないが、何か解らん名前だろう。韓国語だったり、中国語だったり……。元の世界の言葉だったか。
それにしても、凱旋か。
もう一度、リンゴをかじって思った。
ここで一つ、やめたいがやめれない、不思議に思う、異世界あるあるがあった。それは、リンゴだ。
異世界あるあるその二。
日本では最近の事だが、リンゴの無農薬栽培は、少し昔まで無理だと言われ続けていた。そんなリンゴを、昔懐かしのRPG世界では当たり前の様に、きっと、無農薬で食べられていた。偏見だと思われがちだが、この考えは筋が通っている。
農薬を使っているのに、直ぐに市場に持ってこられたリンゴはどうだろう。残留農薬量が異常な物も、中には混じっているだろう。そう考えると、今、こうして美味しいリンゴが食べられるのは無農薬のお蔭だと考えれる。よって、これは無農薬である、と言える。
気づけば、凱旋パレードは中盤。この、俺たちがいる場所に差し掛かっていた。
元より興味がなかったが、俺はどんな物が来るのか楽しみにしていた。矛盾してる。自分でも感じているけれども、仕方がない。ニコニコな、あのサイトでは有名だろう、『何でもしますから(何でもするとは言っていない)』で慣れてしまっているのである。テンプレート大好き。
凱旋パレードのご一行様。
馬に牽引される、カボチャ……もとい。お偉いさんのお舟が目の前にやって来た。
すると、何故か俺たちの前で停車。いつの間にか、野次馬の最前列に来てしまっていた事に、今更ながら気が付いた。
「やあ、君、どこからきたんだい?」
爽やかなイケメンボーイが荷台から降りてきた。
仲間であろう者たちは、ローブだったり杖だったり、盾や剣。それに美少女、おじさん、固そうな鎧を身に纏った奴等が後ろに。きっと、勇者ご一行だろう。RPG定番、モブキャラは勇者を出迎える。
異世界あるあるその三。
何故か安全な安寧の地に住みつつも、勇者たちは危害がありそうだから倒しに行こうのノリでやっつけてきて、何故か有名になっている勇者たち。どうやって噂が広がる。誰かが行ってきたのか?と思ってしまう。
凱旋パレードが開かれる程有名なのはいいが、倒された魔王の気持ちも考えてほしいものだ。
名声を得るために利用されたんだ、少しは悼め!
「僕か?」
「いや、横の女の子」
「僕、ですか?」
女の子?僕っ娘だったとでもいうの?
どう見ても胸がなく、ペッタンコカンカン。ハーレムフラグの予感だが、この勇者みたいな奴に取られそうだな。まあ、NTRもおつですな。
「そうそう。俺、勇者マルクと一緒に過ごさないかい?我、妻として横に」
「嫌ですね。この人と一緒にいますから」
袖を掴まれる。
修羅場をつくる気か、このアマは。勇者といえども、人は人。マジシャンのマリク?だっけか。殴ってきてもおかしくはない。だが、男は少しの間をあけて話し出した。
「そうか、ならいいんだ」
勇者マリックは………マルクは荷台に乗り直して、凱旋パレードの続きを楽しみ出した。
一部始終を見ていた野次馬の皆さんは俺と青年を見て、一行が通りすぎた道を横切りながら寄ってきた。後ろの野次馬も沢山寄ってきた。何だか腹が立ってきた。
自分たちが柵の中に入ると、皆は騒ぎ出した。
「スゲーよ!」
「やるじゃんか!」
「あのクソ勇者によく言った、姉ちゃん。そして、あんたもだ!」
老若男女、古今東西、どこを向いても人だらけ。クソ勇者とまで思われていた、あのナンパ野郎。どうやら、こっちが勇者みたいだ。
そんな喧騒を数時間。何故か僕っ娘と仲良くなり、この市場を案内されている。
ここはゲルニアムローディウスと呼ばれる、大きな街。ギルドや酒場、市場何かが城下町に集められ、それを中心に栄えた、RPGによく出てくる便利な街だった。そのため、宿の利用料は異常。
「しゅ、宿泊費は何円だって?」
「円ではなく、ウェルです。ちゃんと覚えといてください。ギルドに銀行がありますから、お金はそこで預けてください」
異世界あるあるその四。
強盗が一切入らない銀行。しかもギルドとかの中にある。
異世界モノなら、誰もが考えつきそうな場所。そんな場所に、誰も押し入る事もなく、一気におろす事もない。金融危機とか知らないだろうと言っても、おかしくない。ギルドの人も大変だ。
盗賊は人から盗むのに、何故か金庫からは取ろうとしない。そこら辺はしっかりしているんだなの思わされる。
ウェルカム銀行強盗。そんなところなのにね。
「ウェル………へぇー。それじゃあ、Wi-Fiはあるかい?」
「Wi-Fiですか……。町中に駆け巡っているそうですが……」
最近流行りの、観光地全体にWi-Fiを置こう現象。
Wi-Fiがどこでも繋がるのなら、それはそれでうれしい。しかし、どこで契約をすればいいんだ?利用法とか知っていそうじゃないから、頼りにしないけど。
「どこで契約できるの?」
「ギルドです」
異世界あるあるその五。
ギルドの需要と供給が半端ない!
この世界ならば、銀行にWi-Fi契約。きっと、換金とかもできるだろう。異世界に行ったなら、まずは見ておきたい観光名所、第一位。
名所と化してしまう程、ギルドは凄い。きっと、可愛い娘もウジャウジャ……。ハーレムづくりにはかかせないね。
「案内してくれるか?」
頼んでみる。
「もう、通りすぎてしまいました」
どこかのコメディーですか。これ、ラブコメとかにでもする気ですか。路線変更でっせ、親方じゃねえんだよ。もう嫌だよ、なんだよこれ。
不満が満載だが、仕方なく引き返した。
踵を返して、ギルドに向かって一直線。好きになったら……おっと危ない。
「ここです」
青年は立ち止まると、看板を指差した。
全く読めない文字。
異世界あるあるその六。
文字が全く読めない。日本語が通じるなら、文字も通じるようにして欲しい。
転生者を悩ます、一番の関門。これを超えなければハーレムなんて、夢のまた夢。これが一番鬼畜だろう。
勉強、勉強と階段駆け上がって行きたいと思えるよ。久しく。
取り敢えずギルド。そんな気分で足を踏み入れた。