⑦
「佐竹?!もしかしてお前もこのツアー申し込んだの?」
「そうだよ!私、大学は愛知に行ったんだけど、まさかこんな所で会うなんてほんとスゴイ偶然!」
二人は興奮ぎみに身を乗りだしはしゃいでいる。
佐竹蒼は高校時代に見たときより髪が伸び、肩につくかつかないかのボブカットになっていた。濃い目のブラウンの髪色は彼女をまたひとつ垢抜けさせ、薄化粧だが切れ長の目を強調したアイラインは中性的な彼女に色気を足していた。
「宮前君も、ひさしぶり。偶然ね」
目を細めて笑う彼女に、怯えた様子はどこにもなかった。
「……ひさしぶりだな、佐竹」
挨拶を無視するような歳でもない俺は、無難な笑顔を貼り付け、挨拶を返す。
その様子に佐竹も東もホッとした様子だった。
いつまでも駄々をこねる子どもじゃない。俺だって一通りの礼儀は学んだつもりだ。
彼女は東に近況を簡潔に伝えると
「じゃあ、友達の所に戻るね。お互い楽しもうね!」
と手を振って彼女は去って行った。
彼女が戻ると、彼女の友人二人がこちらを興味深げに見ながら話し込んでいる。
「こんな所で友達に会うなんてすごいね」
取り残された佐伯が真っ先に口を開いた。
「小学校から知ってるやつなんだ。ほんと偶然ってすげー」
東がまだ信じられない、と言うように両手を上げて言う。
俺は何も言えなかった。
とても現実のようには思えなかった。あの佐竹と言葉を交わした。それはまるで鏡越しに自分に挨拶をするような違和感を感じた。
未だ呆然としている俺を乗せ飛行機は定刻に飛び立った。彼女は俺達の三列前の窓際だった。あの日乗ったバスより近いその距離に俺はまた戸惑った。
彼女は小窓から外を見ている。小雨が弱い力で窓を叩いている。飛行機が高度を上げ、一気に雨雲から抜ける。途端に広がる青空を見て、彼女はほんの一瞬顔をしかめた。
ああ、あの頃の佐竹蒼だ。
俺はその表情に安堵の息をついた。
バス停の、そして卒業式の彼女の横顔を思い出す。
ただ、降りしきる雨だけを見ていた。
どうしてその横顔が今も脳裏に焼き付き離れないのだろう。
俺は青空から目を背けるようにそっと目を閉じた。




