⑪
「ねぇ、バス停で一度会ったのを覚えてる?」
心臓がどきりと跳ねる。俺は返事をせず、ただこくりと頷いた。佐竹はそれを見て嬉しそうに笑った。
忘れられる訳がない。
「……互いに嫌い合ってると知りながら、何でお前は声をかけたんだ?」
ずっと疑問に思っていたことを素直に口にする。
彼女は言葉が見つからないとばかりに、ごにょごにょと口ごもりながら、それでも言葉を探した。
「雨が、降っていたから」
「雨?」
「雨が私達を濡らさなかったから、まるであなたと私はひとつのような気になったの」
上手く言えないんだけど、そう言って彼女は恥ずかしそうに目を窓に向けた。窓の向こうのどしゃ降りの世界へ。
「雨が好きなの。空っぽの私を満たすでもなく、許す訳でもない。ただ降り落ちる為に降り落ちる。それってすごくシンプルで真っ直ぐで……自然なことなの」
言葉をひとつひとつ繋げながら、彼女はゆっくりと続けた。
「……雨が降るとね、ビルもアスファルトも木々も花も濡れるでしょう?それだって自然なこと。それが私はとても羨ましくて濡れていない自分が、濡れることを怯えるばかりの自分が凄く悲しかった。だから、あの時、あなたと雨を見ていた時、あなたと私は同じなんだと思った。濡れたくても濡れることが出来ないんだって。何だかあの一瞬が永遠みたいに思えた」
同じだった。彼女も同じだった。あの日感じた安堵と世界から切り離された疎外感を彼女も感じていた事実に俺は胸が熱くなった。
「でもね、宮前君」
彼女はスッと背筋を伸ばし、俺を真っ直ぐに見つめた。
「あなたと私は同じなんかじゃないの。私はあなたじゃないし、あなたも私なんかじゃない」
心臓を抉られているような感覚だった。足下からがらがらと今にも崩れ落ちそうな気がした。
俺は佐竹を見てずっと安心しきっていた。
いつもどこか冷めてしまっている自分が、全て分かりきったような顔をして澄ましている自分が、俺は大嫌いだった。
でもそう考える前にいつも佐竹の顔が浮かんだ。
大丈夫、あいつも俺と同じだと。
それなのに、佐竹は俺に決別を告げる。
愛しげに雨を眺めながら。




