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ZartTod  作者: えびてん丸
34/42

episode24

 次の日、陽光に眩しくて目を覚ますと、軒一番に視界に入って来たのは目の前で寝ている少年の姿だった。黒い短髪と起きているときよりも幼い顔で寝ている。狭いベッドに、大人の大きさの私とまだ発展途上とはいえ私と同じ大きさの彼とで一緒に寝ていると、自然と身体が密着する。彼の吐息が私の額に当たる。彼の腕の中に私がいて、一晩このままだったのだろうか、とふと考えてしまう。しかし、不思議と恥ずかしくなかった。おぶられているときとか、彼が私の熱をみるためにお互いの額をくっつけたときの顔の近さに恥ずかしくなって顔面が沸騰するくらいに熱くなるのに、こうやって、一緒にこんなにも密着して寝ても、あの雨の夜の日のように抱きしめられても、恥ずかしくないのだ。寧ろ、安心する。ずっとこのままでいたい、と思ってしまう。

 まあ、ずっとこのままというわけにもいかない。そう言えば、今は何時だろう。

 そう思って、ベッドから出ようとすると、後ろから隣に寝るイキに抱きしめられた。

「え? い、イキ? 起きてるの?」

「………」

 しかし、反応がない。聞こえるのは静かな吐息くらいで、その他は何もない。無理に出ようとすると、私を抱きしめる腕の力が増す。出ていくな、とでも言いたいのだろうか。困ったなあ、と悩んで、数分待ってみたがイキは一向に起きる気配がない。

「イキ、起きて」

「ん~、もう少し」

「もう少しじゃないわよ……じゃあ、五分、五分待つから」

「えー……じゃあ、あと五時間……」

 彼は寝ぼけてそう言ったのか、それだけ言って夢へと旅立とうとする。

「いや、ちょっと! 寝ないで!」

 イキの腕の中で、身体を動かして面と向かう。そして、肩を揺さぶる。

 五時間もこのままだったら、何時になるか分からない。

 すると、

「んぁ、シキ何騒いでるの?」

「何って、五時間も寝ようとした人に言われたくない!」

「五時間? あははは、何寝ぼけたこと言っているのさ。そんなことしてたら、日が暮れちゃうじゃないか」

 何事もなかったように話し始める。

 それにイライラする。

 寝ぼけたことを言っているのはあなたのほう。日が暮れる、とか、その台詞は私のものだ。

 すると、彼は微笑んで、何も知らずに微笑んで、

「風邪治ったね。元気?」

「え、あ、うん。げ、元気……」

「そっか」

頷くと、急に、

「ひゃあ」

抱きしめてきた。

「あはは、可愛い声出すね」

「可愛くない!」

「ぐえっ……顎ぶたないでよ」

 暴れる私を他所に彼は抱きしめる力を強くした。と言っても、痛くはない。優しい。

「離して」

「やだ」

「………」

「ない?」

「何が?」

「ふと誰かを抱きしめたくなること」

「ない」

「えー、ないの? 僕はあるんだけどなあ」

 そういって、私の頭を撫でる。優しく撫でる。

「天界でも、こんな風に誰かを急に抱きしめたりしてるの?」

「あはは、するわけないだろう。というか、天界ではそういう、抱きしめ心地が良さそうな人がいないからね」

「そ、そう……じゃあ、なんで私は抱きしめるのよ?」

「抱きしめ心地が良さそうだから?」

「私に聞かないでよ」

「まあ、そんな感じだよ。実際、シキは抱きしめ心地がいいから。身体細いし、かといって程よく柔らかいし……」

「やっ、やわ……っ」

 と、ここで動揺する私。

 それに首を傾げながらも、イキは話を続けた。

「いい匂いするから……」

「いい匂い、って?」

「うーん、安心する匂い?」

「へえ」

 安心する、か……。自分では、よく分からない。けど、イキの匂いは私は嫌いではない。彼と同じく、安心する。ずっと、このままだったらいいのになあ、なんて思う。

 それじゃあ、私がイキのこと好きみたいな……。

「ずっと、このままだったらいいね」

「……違うから!」

「え、何が? どうしたの、急に?」

「……な、何でもない。ご、ごめんね」

 なに、動揺しているんだろう。

 昨日は確かに、イキに甘えていたというか、べったりだったところがあったことは認めよう。熱でおかしかったのだ。今は正常だし、なんなら、冷静な判断もできる。あれだ。吊り橋効果で、そうでもなくても、好きなんじゃないかって勘違いしてしまうやつ。だから、昨日の私はずっとそれで、好きだと勘違いしていただけなのだ。それ以上は何もない。気にする必要なんてない。

「ねえ、イキそろそろ離して」

「えー」

「宿でないといけないでしょう? それに、この町見て回りたくないの?」

「んー、見たい」

「じゃあ、離して準備しようよ」

「分かった」

 彼は渋々と言った感じで腕の力を緩めた。

 お互いに起き上がり、私はすぐに昨日までは起き上がるだけで眩暈が酷かったのを思い出して、身体が軽くなっていることにびっくりし、暫し感動していた。私の後にのろりと起き上がったイキの寝癖の酷さにびっくりした。彼の黒髪がオオカミの耳のように二つ立っている。どう寝れば、ああなるのか、分からない。というか、私の隣に寝ていた筈なのに。どうして? 半眼でそれを見つめた。

「凄い寝癖よ、イキ……」

「あー、いつもの事だから。気にしなくていいよ」

「これがいつものこと……」

 今回は私がいたから、行動範囲が狭かったけれど、普段はどうなのだろう。そういえば、色々と野宿やら宿屋らに泊まっていたりしたけれど、その時もこんな風に酷かった。もっと酷いときもあったっけ。天界じゃあどうなのだろう。ベッドから転げ落ちたりしないだろうか。一度、ベッドから落ちそうになっているのを見つけて、なんとか戻したことがあったが、天界では部屋に彼一人だろう。誰も彼に気づく者はいない。風邪を引くのではないだろうか。まあ、先日まで風邪を引いていた私が言えたことではないが。

 イキは寝癖を直し、私はその隙に服を脱いだ。腹に巻かれた包帯を取って、傷口を確認すると跡形もなくなっていた。五日六日治らなかったのに、この一晩で治っている。昨日に至っては悪化したのだ。やっぱり、私はライラさんの言う通り弱い。肉体的にも精神的にも。彼女はいつだったか、こんなことを言っていた。「貴女の精神が強固であればあるほど傷の治りは人間のそれよりも早くなる。でも、シキは弱い。だから、治癒が遅いし、簡単な言葉に反応して治らないし悪化もする。外傷だけなのに、病気にもなる。それでも、貴女の心臓は止まらない。心を強く持ちなさい、でなきゃ、他人の死を気にしないようになりなさい。じゃないと、生きているのに死んでいるのと変わらないわよ」

 他人の死を気にするな、か……。

 ファベルさんに以前一度だけ言われたことがある。でも、そんなの無理だ。私が元人間だからかもしれないが、それでも私は大好きだった人たちに殺されて今ここにいるのだ。彼らからの拷問はまだ、続いているのかもしれない。「魔女を殺せ」彼らが私の最後に投げかけたのはその言葉だった。人間の頃の私は彼らからすれば魔女だった。今ではどうだろう? 数え切れないほどの人間が死んでいる。毎日何十人と世界のどこかで、私が殺している。私が呼吸をするだけで誰かが死ぬのだ。殺したくないのに、殺さなければならない。どうして、とか、何で、とは思ったことはない。どうして私だけが、とかそんな悲観をしてはいけないのだ。これは罰だから。私が唯一の友人や、恩人や、両親までもを死に追いやる原因を作ってしまったから……そういう罰なのだ。償っても償いきれない。償いどころか、報いるどころか、どんどん罪を重ねているような気がする。罰を与えても与えても、罪が増えていくことに追いつかない。それどころか、罪人は逃げようとしている。罪もない少年に、自分を殺せという我儘な願いを押し付けた。

 はあ、と一つ息を吐いた。溜息ではない、胸にあった空気を外に出しただけ。

 私が着替え終わると、同時くらいにイキは顔を洗い終わり寝癖も直したのかひょっこり顔を出してきた。私も彼に次ぎ、顔を洗い髪を整えなくては……と彼の方へ踵を返した。しかし、そこには、直りきっていない彼の頭があった。

「寝癖、直ってないわよ?」

「あー、嘘……結構頑張ったつもりなんだけどなあ」

 と、自分の髪を触り始めるが、全く寝癖の所には触れておらず、直っている所しか触っていない。

「はあ、分かった。こっち来て」

「ん? 何するの?」

「私が直すから、ここに座って」

 私はベッドに指を指して、イキを誘導した。

 彼は私の言う通りに座って、私に頭を差し出してきた。その頭を触ってみると髪の毛が少し濡れていて、直そうとはしたんだな、ということは伝わってきた。イキの髪の毛は柔らかかった。少し癖があって直しにくかったが、それでも苦ではなかった。弟の髪の毛を直した時を思い出した。

「あはは、くすぐったいよ。シキ……」

 子どもみたいに身じろぎをしながらも、嬉しそうに笑って言う。

「だ、だまって……」

 動かれると上手くできない。

 五分くらいで何とか、いつものイキに戻った。そうして、イキは洗面所に戻って自分の頭を見に行った。すると、奥から「おお」と声が上がったのだった。

「シキ凄いね」

「まあ、昔弟と妹の髪の毛をやってたりしたからね」

「へえ、兄弟いたんだね」

「うん、四人兄弟だったかな」

「下に三人?」

「ううん、妹と弟一人ずつと上に兄が一人いたよ」

 あの頃は本当に楽しかった。世界の醜い部分なんか、ほんの少ししか見えなくて無視しても誰も咎めない、そんな小さな世界だった。見たくないのは当たり前じゃないか、と兄は言っていた。人はみんなそうだ、と。だから、私も気にしなかった。気にしないのが当たり前だったから。

 でも、シキではそんなこと通用しない。そういう世界に生まれ変わってしまったから。真向から黒い醜い部分が露呈していて、それを見ているだけでなく触れて、最悪食べなくてはならないときだってある。だから、逃げたくなる。怖くなる。いつか壊れるんじゃないか、いつか化物になってしまうんじゃないか、と。

 私はイキの髪の毛を直した後、自分の頭も整え顔を洗って、身支度をして、宿を出て行った。昼前の町は、澄み渡った青空と陽気な街並みに包まれていた。暗くなった頭の中に、日が入るような気分になった。

 隣を歩くイキは背伸びをして気持ち良さそうな顔をした。

「どこ行く?」私は聞いた。

「んー、お腹空いた」

「じゃあ、何か食べてからにする?」

「うん」

 私たちは町にある大きな酒場へと向かった。入口から店の奥の方にカウンターがあり、その奥に厨房がある。厨房の奥からはいい匂いが漂って来て、食欲をそそることだろう。丸テーブルがいくつかあって、各テーブルごとに椅子が三、四個置いてある。適当に空いているテーブルに座った。すると、どこからか店員がやってきてメニュー票を差し出してくる。店員の様相がメイドのような服を着た少女で、にこやかな顔をしている。だが、一向にこの場から離れない。注文が来るまでこの場で待機しているつもりなのだろう。痛い視線を受けながら、私はメニュー票と睨めっこをしているイキに言う。

「何を悩んでるの?」

「んー、どれにしようかなって……」

「別にお金の事なんか気にしなくてもいいわよ。私が払うし……あなたもうお金ないでしょう?」

「うん、ない」

 素直。

「シキが奢ってるくれるの?」

「うん、昨日まで迷惑かけたし……私のせいで宿取らなくちゃいけなくなって、財布が軽くなったのは事実だしね」

「やったあ」

 彼は気にせぬとばかりに、どんどん注文をし、店員ですらその注文数に唖然としていた。二十分後に注文した品が全部来た。テーブルいっぱいにやって来た料理にイキは嬉しそうに、フォークを持って「いただきます!」とお辞儀をして食べ始めた。

「ぜ、全部食べるの?」

「ん? 君も食べる? 美味しいよ」

「あ、いや、私はいいよ」

「そう? んー、美味しいんだけどなあ……」

 しょんぼりとするイキは、そのまま食べる。

 スープや、鶏肉の足を丸ごと焼いたチキンローストや、サラダが大きなお椀いっぱいに盛ってあった。たぶん二、三人前だろう。他にも、パンが五、六切れ、牛肉のステーキ、野菜炒め、煮物、等々……と取り敢えずたくさんあった。私は冷たい紅茶を飲んでいるだけだ。紅茶といってもそれなりに値は張る。

 だが、私の財布事情にはたいして響かない。紅茶の値段が大したことではないのではなく、私の所持金がおかしいのだ。人間の頃の私が見たら卒倒するだろう。夢見もする気分だろう。いや、私が外出をせず、いつもいつも、部屋に閉じこもって書類仕事をしているから、こんなことになる。毎月、給料と言うわけではないが、天界でお金が支給される。国ごとで通貨が変わったりするので、世界中の通貨の全種類を支給……と言う風にしたいのは山々だが、人によって王国にしか行かない、帝国の品の方が好きだ、と言った風に普段使う通貨に変化が出てくる。だから、共通としてコインの形状をした金と銀、銅が配られ、それを指定の場所に持っていくことで自分の使いたい通貨に変換できる―――といったシステムを天界ではとっている。

 今の私の所持金はだいたい金貨六十枚、銀貨八十枚、一番小さい銅貨百二十枚くらいある。これだけあれば何が買えるのかと言えば、だいたいレンガ造りの家が一つか二つ立つくらいだろう。それだけでも余るかもしれない。それくらいの大金を持っている。普段は持たないのだが、ファベルさんが何かあった時のために持っていけ、と怒鳴るので金庫から一部を取り出したのだった。一部、なので実際の私の財産――といってはなんだが、相当なものである。毎日イキにこれだけの食事を奢り続けたとしても、お釣りが出るレベルだ。

 目の前で美味しそうに食事をする少年の姿を、頬杖をついて見ていた。

 やはり、成長期だからこんなに食べるのだろうか、とふと思った。そうして、彼が成長していく様を少しばかり想像して、それに嬉しくなっていく自分がいた。弟のルーヤや妹のイニスも、こんな風にたくさん食べて彼のように大きくなったのかもしれない。だが、大きくなっていく彼らの傍に私はいなかった。頼りにしたいと縋るような気持ちの時もあったのかもしれない。そんな時私は天界で勉強していた。小さな子どもの姿でずっと、彼らが長い間望んでいた勉学と言うものを然も当たり前のように受けていた。そんな自分が憎たらしい。

「ん? シキ、どうしたの? 怖い顔して……。もしかして、お腹空いたの? だったら、食べる?」

「いや、いいよ。……どうせ、食べてもすぐ吐いちゃうし」

「え、そうなの?」

「うん」

「昨日は食べてたじゃないか」

「水とかお茶とか、液体のものなら大丈夫みたいなんだけど。固形物はだめなんだよね」

「そっか……」

 彼は落ち込むが、すぐに良いことでも思いついたのか顔を輝かせ、

「じゃあ、このスープ飲みなよ。これなら、大丈夫なんだろう?」

とオニオンスープを差し出してくる。玉ねぎは煮溶けたのかほぼ形が残っていないが、それでもスープ自体は透明を保っている。湯気を程よく立てながら、良い匂いを漂わせている。

「うん、ありがと……」

「程よく冷めたから、猫舌の君でも普通に食べられると思うよ」

 余計なことを……。

 それを言わなければ、気持ちよく受け取り、食べられたものを。彼は天然なのだろうか。

「ん? 遠慮しなくていいよ? どうせ、君が払うんだからさ」

「ま、まあね」

彼は食事を再開し、私はそんな彼の食べっぷりに少々気圧されながら、スープを飲み始めた。やはり、見た目通り味も良い。秋空に冷えた体に沁みてくる。

 二十分くらい経つと、テーブルの上にある皿のほとんどが空になっている。スープはもうない。飲み終わった。結構食べたというのに、イキの食欲は衰えることを知らない。呆気にとられているうちに最後の皿だったのか、彼は食べ終えて「ご馳走様でした!」とやはり元気な声で両手を合わせお辞儀した。年頃の男の子はみんなこんな風に食べるのだろうか。

「何か、飲む?」と私が聞くと、

「うん、そうだね……」

 イキは、手を上げて店員を呼び寄せた。すると、駆け足に少女はやって来て、そうして、私の紅茶を指さしながら「彼女と同じものをお願いします」と言って、私の方を見て、

「シキも飲む?」

「え、うん。じゃあ、飲む」

「じゃあ、二つください」

 すると、店員が「お済の食器はおさげ致しましょうか?」

「はい、お願いします」とイキ。

 テーブルの上のものがすべて片付けられ、代わりにグラスに入った紅茶が二つ来た。店員はこれで終わりだろうと、紙に私たちが頼んだものを書いたものをテーブルに置いて去っていった。

 イキは紅茶を一口飲んでから、鞄から地図を取り出して、

「次はどこ行く?」と聞いてくる。

「そうね……今日中にはこの町を出なきゃならないでしょう?」

「うん、宿の事とかあるからね。今日の夕方までには次の町についてないと。まあ、僕は野宿でも構わないんだけどさ、君はほら……その、病み上がりだしさ。もう一晩はちゃんとした宿に泊まって、休まないと」

「まあ、そうね。一番近いのは、たぶんタルクだと思う。で、その次が……」

「ウィール、だね」

「うん」

 タルクはここからすぐの所にある町で、ここ中央街と比べて裕福ではないにしろ、決して貧しい町ではない。ウィールは、タルクとは逆方向に進み山道を越え、暫し進むとある町で、徒歩でだいたい一日は掛かる。ウィールまで行けばそこはもう、ストラル地区ではなく、ガストル地区だ。ウィールは海と山に囲まれた町で、他の町とは閉鎖的な環境になっているが、他国との貿易が盛んな町の一つである。だから、タルクと同様貧しい街ではなく、寧ろ明るく活気のある町である。

 私たちが食後の談笑を交えながら、今後の方針を話し合っていると、新しく入ってきた四人組の少年少女たちのうち、一番元気そうな赤髪の少年が大きな声で、

「おい、そこのカップル、地図を見せてくれないか?」

と言う。

 カップル? そんな人たちがこんな酒場に、いるなんて珍しい。

「へえ、カップルが来るんだね。シキ」

とイキも興味深そうに笑う。

 すると、その少年は私たちの前にやって来て、

「なあ、地図を見せてくれない?」

と聞いてきた。

 イキは、

「え、僕たちカップルじゃないよ? カップルじゃなくていいのかい?」

「え、カップルじゃないのか?」

「うん、そうだよね、シキ……?」

「うん、全然」

 少年はやっと理解したのか、私たちの座っているテーブルにもう一つのテーブルを持ってきて、くっつけた。

 彼らの話によると、道に迷ったらしい。地図もなく、人づてで旅をしてきたが、目的地へのルートが分からず立ち往生していて、酒場なら何か情報を持っているかもしれない、と足を運んだんだとか。

「で、どこに行くつもりなの?」

 私が聞くと、少年は、

「ウィールだ」

即答した。

 彼らはお金がもうないのか、何も頼んでいなかった。

「でも、どうして、ウィールなんかに?」と、イキ。

「ああ、明日祭りがあるんだ。今日中に町に着いて、宿を探して英気を養っておきたいんだ」

「祭り!」

 イキの目が輝いた。

 そして、私の方を見る。

「行きたい?」

「うん!」

「じゃあ、行く?」

「うん!」

 私たちの意見も彼らと一緒のようだ。

 だが、

「今日中に着くのは、厳しいわよ」

私は言った。

「え、そうなのか?」

「まあ、馬があれば別だけど……」

「ああ、馬ならあるぜ。あるけど……」

「あるけど?」

「昨日から、餌やってなくて、まともに動いてくれないんだ」

 それほど、お金がない、と言うことか。結構深刻な状況である。

 普段なら、私は個々で諦めるところだが、イキが行きたいというのだ。それに従おう。私の命は彼のものなのだから。

「じゃあ、馬を一頭貸してくれる?」

 私が言うと、少年は不思議そうな顔をして、

「お、おう。いいぜ。でも―――」

「餌なら、私が買うわ。馬を借りる代金はそれでいいでしょう?」

「お、おう」

 そうして、私は勘定が書かれた紙を見て、後ろから少年は驚愕の表情を見せた。勘定の額の大きさに驚いたのだろうか、それとも、注文した料理の数に驚いたのか。きっと、どちらともだろう。

「だ、誰がこんなに食べたんだ?」

 動揺しながら少年は聞いた。すると、

「あ、それ、僕だよ」

イキが自分のことを指さして言った。

「お前、ずげーのな!」

「そう?」

 イキははにかむ。

 男の子はみなそうではないのかな? と私は疑問に思った。

 紙を確認し、イキに私の財布を取るようお願いして、カウンターへと向かった。注文票の紙を台へと置くと、店主のおばさんだろうか、ふくよかなそれでいて貫禄のある女性が注文票を目にすると驚いた顔をして、私の顔を見て不安げな顔をした。この子は払えるのかしら、といった視線だ。

 確か、代金の総額は一万二千六百ソルトだ。金、銀、銅貨に換算してだいたい銀貨二枚と銅貨六十八枚程度だろう。

 ソルト、というのは昔塩で売買取引をしていた名残で、この国ではこれを通貨単位にしている。だが、今現在では塩で取引するところは存在しない。農村では未だに物々交換が常であるが。

 銅貨六十八枚も数えて取り出すのが面倒だな、と思ったので、銀貨三枚で払った。

 すると、私が銀貨三枚も持っていることに驚いたのか、女性は目を見開いてだがすぐに我に返ったのか、銀貨を取ってそれから銅貨を何十枚も数えて渡してきた。

 そこで私はしまったと思った。

 これじゃあ、財布がさらに重くなってしまう。銅貨六十八枚よりも、お釣りの銅貨の方が遥かに多かったからだ。

 銀貨一枚を銅貨に換算すると約百六十五枚くらいだ。

 銅は結構盛んに取れるとかで、銅の貨幣価値が下がっているのが原因であるが、お釣り―――銅貨九十七枚をどうしよう。財布に入らない。

「イキ、来て」

 イキを呼ぶと、彼は不思議そうな顔をして来た。

「どうしたの? 足りなかった?」

「あ、いや、そうじゃなくて……財布出して」

「ん? 僕の?」

「うん」

 イキはやはりこれも不思議そうな顔をしながら財布を鞄から取り出した。

「はい、これ……」

 彼の財布の中にお釣りとして出てきた銅貨九十七枚を入れた。

「どうしたの? 急に……僕君にお金貰っても困るんだけど」

 私だって誰かにお金をもらっても困る。

「お小遣い、みたいなもの。一文無しじゃあ、いざって時に困るでしょ」

 ついでに銀貨も五枚ほど入れた。

「ま、まあ、そうだけど……。じゃあ、今度返すよ」

「いいよ、別に。私の意識がないときに、あなたが一文無しになってたら困るから」

「むう」

 自分の所持金量が少なかったことに彼は気を落としたらしい。

「それに……もう、財布に入らないから……」

「ああ、そういう……じゃあ、僕のは第二の財布ってことでいいのかな?」

「いや、それもうあなたのでいいわよ」

 そんな問答を終えて、私とイキは酒場を出た。

 酒場の外では赤髪の少年とそのほか三人の少年少女が待っていた。

 すると、赤髪の少年は、

「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったよな。俺はアッシュ」

 そして彼の隣にいる赤髪の少女を指さして、

「で、こっちが妹のアーシェ」

 と紹介した。

 すると、アッシュと行動を共にする茶髪の少年が、

「俺はシーレ、隣にいるのがアリだ」

「よ、よろしくお願いします」

 シーレの隣にいる少女は行儀よくお辞儀をした。

「僕はイキ、でこの白い子がシキ」

「白い子って酷いよ。もっとないの?」

「えー、だってそれくらいしか思い浮かばないし……。見た目からして真っ白だしさ」

 それを見ていたアッシュは笑って、

「お前ら、仲良いのな」

と言う。

 それに、私たちはキョトンとしてお互いを見合った。

 私たちは取り合えず、馬を連れて牧草を買いに行った。馬は三頭いた。どれも毛並みは栗色で、足が細い、まあ普通の馬だ。三頭の内二頭は同じ毛並みで、一頭だけ少し違う。つまりは、二頭は同じ親を持ち一頭だけ違う親なのだ。血統も違うのだろう。牧場が違うのか、たまたま違うものを一つの牧場で飼っていたのかの、どちらかであろう。

 酒場から離れ、山方向の検問所の近くに商人たちが準備をしていた。その近くに牧草を売る場所なんかもある。そこで、馬三頭一回分の牧草を買いその場で与えた。牧草を与えるスペースもある売り場であったために便利ではあるが、それなりに高かった。

 アーシェがようやく口を開いた。

「あんた、金持ちの子どもか何かなの?」

 突然の質問にびっくりして、何も言えずにいると、イキが、

「いや、そんなことないよね」

「ま、まあ……」

 フォローをしてくれたのかな、とイキを見ると、こちらを見て微笑んでいた。

 馬が食べ終わるのを待っている間に、彼らの経緯を聞いた。

 アッシュとアーシェはプオル地区の辺境にある森の中の村で育てられた。両親はアッシュが物心つく前に、村を出て旅に出たという。そうして、彼らは村の人たちに育てられた。アッシュがこの話を聞いたのは彼が十五歳のときで、それまで彼らは村長の子どもだと思っていた。村長からその話を聞いたときに、アッシュは両親が何故旅に出たのか、ということまで村長から聞かされていた。世界中の祭りを見に行った、というのが彼らの動機であった。だから、アッシュとアーシェは両親を探すために旅をしているのではなく、ただ、純粋に両親を魅了した世界を見て回りたい、らしい。

 ちなみに、シーレとアリはアッシュたちがたまたま通りがかった村で出会い、アッシュたちに惹かれて共に旅をしているらしい。

 アッシュは感情的で、シーレは冷静で、お互いに信頼しているため、息はぴったりである。いい友と友である。

 アリは臆病で、常におどおどしている。そんな彼女にイキは気さくに接している。あまり刺激しないように、気を付けているのか、とも思ったがそうではなく、ただ普通に彼は彼女に話しかけていた。イキにアリは心を開いたのか時折笑うようになる。

 私も実際、人付き合いは苦手な方なのでアリの気持が分かる。イキの柔和な性格のお陰で、私自身付き合い易い。

 イキはああいう引っ込み思案な子が好きなのだろうか。それとも、彼を引っ張っていくような、頼りになるような子がいいのだろうか。

 私は果たして彼にとってどういう存在でいられるだろう。

 それが分からなくて、少しモヤモヤとした。


 馬が食べ終わり、私たちはそれぞれ検問所で手続きをして、中央街を出た。中央街の門は日が沈むと閉まり、日が昇ると開く。だから、日の短い冬は商人たちの勝負である。大抵、ぎりぎりにこの町の前まで来たら、次の日の朝になるまでこの町に入れない。

 中央街を全員が出たことをお互いに確認をして、馬に乗る準備をした。

 シーレの後ろにアリが乗ることになった。アリは馬の操縦ができないとかで、いつもシーレの後ろに乗るから、これは通常通り。

 私は同じ女の子のアーシェの後ろか、イキの後ろに乗るのではないだろうか。私はそもそも騎乗したことはない。

 そんなことを考えていると、一頭の馬が私の頬を舐めてきた。

「ひあっ―――!」

 驚いて仰け反ってもその馬は私の頬を舐める。舐めまわす。右の頬も、左の頬も、馬の涎でびしょびしょだ。

「いや……や、やめ―――っ」

 だが、馬はやめない。寧ろ喜んでいる。

 そんな私と馬のやり取りを他所に、イキとアッシュは話し始める。

「なあ、イキは馬乗れんのか?」

「乗れるよ~。競争する?」

「おお、いいな! やろう、やろう!」

 よくないし、やらないで私を助けてほしい。

 声を出そうにも馬が顔を舐めまわしていて、口を開くことすらままならない。そんな私を見て、アリが心配そうな顔で、

「シキさんを助けたほうがいいんじゃないでしょうか?」

とアーシェに言う。

 だが、彼女はニシシと笑って、

「大丈夫、大丈夫。じゃれてるだけだって」

笑うだけで、助けてくれない。

 すると、馬の競争云々を話し合っていた少年たちの会話は幕を閉じ、それと同時にイキが私の頬を舐めまわしている馬を嗜めて、ようやく私は解放された。そして、イキは鞄からハンカチを取り出して私の頬を拭き始める。

「何で、無視するのよ……」

 私が聞くと、彼は、

「じゃれてるみたいだったから。馬が喜んでたよ。ほら、お腹が空いててようやく食べ物にありつけて、君に感謝してるのかなあ、って思ったからさ。よかったじゃん、好かれてさ」

「よくない」

「嫌われるよりはいいだろう?」

「………知らない」

 そっぽを向くと、彼は苦笑した。

「どうしたんだ?」

「いや~、拗ねちゃったみたいなんだよね……」

「ちゃんと女の子をリードして上げないと、モテないぞ~」

「別に、僕は女の子にモテたいわけじゃないよ」

「へえ、男好きとか?」

「はあ? 僕は……まあ、可愛い女の子はみんな好きだよ」

「なーんだ。詰まんねーの。ほれ、そろそろ出発すっから、お前のお姫様でも連れ戻して来いよ」

 顔を拭いていた私のもとに、イキがやって来た。

 彼の鞄から水筒を取り出し、ハンカチを少し湿らせて顔を拭いた。

「シキ、そろそろ出発するってさ」

「うん」

 拭き終わるのを待って、彼はハンカチを受け取る。それを鞄に戻してから、彼は聞いてきた。

「君は、馬の操縦できるのかい?」

「ううん、できない。そもそも、馬に乗るのも初めてだしね」

「え、そうなの?」

「うん」

「そっか、じゃあ―――僕の後ろに乗りなよ」

 イキはそう言って、先に馬に跨りそれから私の方に手を差し伸べてきた。その手につかまって何とか馬に乗る。馬の背中は、体温が感じられるからだろうか、不思議な感触がする。毛並みは、馬の背に乗せられた布で分からないが、背骨や背骨が動く感じ、筋肉の動き、それと柔らかさがそれとなく感じられて、生き物に乗っているのだ、とまじまじとさせられた。

 前に乗っているイキが、

「じゃあ、動くから僕につかまっててよ。落ちたら、危ないからね」

 彼のコートをぎゅっと握ってつかまったのだが、彼は満足しなかったのか、

「もっと、しっかりつかまって。本当に、危ないから」

とさらに言う。

 もっと、か。

 私はコートから手を離し、そのまま腕を彼の胸の方まで回し抱きついた。

「こ、これでいい?」

「んー、まあいいよ。まあ、いいんだけどさ……」

「? どうしたの?」

「いやー、アッシュがこっちを滅茶苦茶睨んでるんだよね」

「どうして?」

「さあ?」

 イキは肩を竦める。

 そして、私の言った方向に彼らは馬を進めた。まず、イキが先導し、その後ろをアッシュとシーレが追う形となって道なりに進んでいく。山までの丘道には人間が普段から使い続けてきた、草の生えていない道らしきものがある。長年、人の足や、馬の足、馬車の車輪なんかで踏み固められた大地に草が生えず、自然と目的地までの道になったのだ。

 そのまま進んでいくと、途中分かれ道があるのだ。

 私はイキの肩越しにそれを見て、

「止まって、イキ」

 すると馬は止まる。

 右と左に分かれる道がある。分岐しているが、その真ん中に看板が撃ち込まれている。


『←ウィール ↓中央街 →マイド』


 それを見て、アッシュが、

「左だな」

と言う。

 だが、それに私が、

「いえ、右よ」と言った。

「はあ、どう見たって左だろう?」

「毎年、こういういたずらがあるのよ。ほら、ウィールって毎年祭りがあるでしょう? だから、その祭りに行けないようにしてやる、っていう輩がたまにいるの」

「なんだそれ」

 看板の偽造など、簡単だ。板と杭となる木があれば簡単にできるし、本物の看板は抜くか、破壊すればいい。たまにあるのだ。祭りごととなれば、それを邪魔したいという人がいる。ウィールの祭りの特徴が、そうさせるのかもしれない。

 道中、イキとアッシュの間で、ウィールの祭りのことについて話していた。

「ウィールの祭りに出るのか?」

「出るって、どういうことだい?」

 イキは当然知らないので、首を傾げる。

 それにアッシュが説明をする。

「ウィールの祭りは、まあ、普通の祭りみたいに踊り子が踊ったり、露店が華やかに道いっぱいに並んでたりするんだけどな。極めつけは、闘技だ」

「闘技? 戦うの?」

「そうそう、しかも自由参加。だから、こうして各地から腕に自信のあるやつがこぞって集まるんだよ」

 生き生きと話すアッシュの言葉にイキの顔は期待いっぱいになる。そんなイキにアッシュは、

「お前も参加するか? アリ以外はみんな参加するつもりだぜ」

と誘ってきたのだ。

 シーレは肩を竦ませながら、

「俺は腕に自信があるわけじゃないんだけどね」

と言った。

 アッシュからの誘いにイキは、やはり顔を輝かせながら、頷き、それから私の方へ振り向いて、

「シキはどうする? やめとく? ほら、病み上がりだしさ」

「んー、出る」

「いいの?」

「うん、身体動かしたいし」

 私たちの会話を聞いていたアーシェが驚いて、

「あんた、病み上がりなの?」

 聞いてきた。

 イキがそれに答えた。

「そう、昨日まで寝込んでたんだ」

「へえ、大丈夫なのか?」とアッシュが私に聞く。

「うん、まあ……大丈夫」

―――だと思う。

 確証はない。ただ、何となくそう思うだけ。

 人間の病み上がりの身体で次の日運動するなど以ての外だが、生憎既に人間ではない。だから、たぶん大丈夫。ライラさんが見たら怒られるんだろうな、と思いながら右折していった。

 丘を越えて直ぐに山道へ入る。手前に小さな森がある。そこでいったん休憩をしてから、一気に山を越えた。

 山を下っている途中で日が沈み始めた。気温もどんどん下がっていった。

「シキ、寒くない?」

 イキが顔をこちらに向けず言う。

 寒いか、と言われて一瞬寒いかも、とか思ったが、そうは言っても全然寒くなどないのだ。背中が寒いだけで、腕とか腹や胸は暖かい。イキの体温が伝わって来て、寧ろ暖かいくらいだった。

「……暖かいから、大丈夫」

「暖かい? そ、そっか……」

 私の返答にイキは首を傾げながらも頷いた。



 ***



 ウィールの町に着いたのは既に暗くなってからだった。とは言っても、夕食時で繁華街ともなれば、煌々と提灯が輝いている。酒場の中も明るく、祭り前だからかわいわいとやっている。酔っている人もあれば、その人たちを介抱する人もある。兎に角、楽しそうだった。

 まず、私たちは馬を停めて、酒場へ入り夕食を食べた。イキは勿論、凄い食べっぷりで、私はスープとお茶くらいしか飲まず、アッシュはイキと競争だ、と言って大量に食べては顔を青くしていた。そんなアッシュの有様にシーレは呆れたように肩を竦める。アーシェとアリはアッシュの負けっぷりに心地よく笑っている。

 ちなみにアッシュの方がシーレよりも年上である。そして、アーシェとアリは同い年、と彼らは話していた。

「そういえば、イキ、お前は何歳なんだ?」

「ん? 十五だよ」

 その次に、私の方へ向き、アッシュが言う。

「シキちゃんは?」

「私? 二十くらい、かな」

「へえ、じゃあ、俺より一つ年上だ。お互い、年長者として頑張ろうぜ」

「え、あ……うん」

 そんな話をしながら、夕食を食べ終わり、宿を探した。

 この町は宿場町としても栄えている。貿易港としての役割を担っているため、宿屋も多い。保存食なども多く売っているし、何かと旅の者に優しい街である。対して、中央街は旅人に対して排斥する傾向が強い。だから、宿代も高いし、酒場も物価が高い。まあ、それに比例して良いものが出てくるのは確かであるが。

 空いている宿は数少なかったが、割とすぐに二泊できる宿が見つかった。アッシュら四人と私たち二人を含めた六人部屋があったので、そこにした。アッシュたちがこれでいいんじゃないか、と言い、イキも私も別に反論することなくその部屋に決まった。代金は前払いで、部屋番号の書かれた紙にそれぞれの名前を記していく。鍵を受け取り、言われた部屋に着くなり、アッシュたちは、

「よーし、風呂行こうぜ、風呂!」

「いいね。近くにあるみたいだしさ。アーシェたちも行かない?」

 女性陣に誘いを掛けたのはシーレである。イキは「へえ、そんなのあったんだね」とキョトンとして聞いている。アーシェは一もなく、

「行こう!」

 張り切っている。アリはもじもじしながらも、まんざらでもなさそうに「うん、行きます」と小声で言う。

「シキは、行く?」イキが聞いてきた。

「うん、みんな行くみたいだしね」

「着替えはあるの?」

「ない。あなたが捨てなければ、あったけど……」

「い、いや、あれはボロボロだったから……。今更蒸し返さなくてもいいじゃないか。じゃあ、買うの?」

「うん、道中買うしかないね。あなたはあるんでしょう?」

「あるよ。あと二着くらいは……貸そうか?」

「いいよ、買うし」

「そっか」

 私たちの会話を聞いていたアーシェが元気に、

「じゃあ、あたしがシキの買い物に付き合おうではないか! アリも行こう?」

「うん」

 それを聞いていたシーレが、提案した。

「じゃあ、女性陣は買い物をしてから、行くみたいだね。俺らもそうする? 何か見てからにしてさ」

「おお、いいなそれ! 露店も超あったしさ。イキも行こうぜ」

「うん、行こう行こう」

 彼らも彼らで元気だなあ。

 ここは平和で、楽しい。

 私は自然と頬が綻んでく自分に何となく気が付いていた。たぶん、イキも気づいていただろう。

「ねえ、シキ」

「なに?」

「楽しみだね!」

 楽しそうに、子どものように笑うイキに私も、楽しくなってくる。

「うん!」

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