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ZartTod  作者: えびてん丸
31/42

paragraph Ⅴ

 夕方になると、教会の鐘の音が夕暮れを知らせるべく鳴らされる。それは神父様の仕事で、私も何度かやらせてもらったことがあったが、やはり女子供の力では難しい。それは、今から二年ほど前だから、今ならできるのでは、と思ってしまったが、やっぱり無理だろうと頭を振った。

 この鐘が鳴ると、広場や、町で遊んでいた子供たちが我先にと家に帰っていく。そして、家ではお母さんが夕食の準備をしていて、そのお手伝いをする。弟や妹がいたら、一日中遊んで泥だらけになった体を洗って着替えてから、下の子の相手をしてあげるのだ。

 そういえば、そろそろイニスとルーヤが帰路につき、兄さんが相手をしている頃だろう。私も帰って、夕食の準備をしなくては……と考える。

 だが、まだ帰るわけにはいかなかった。

 教会にはまだ人が一人いた。

 黒い髪に黒い服の青年が教会の長椅子に座って、天窓から差す夕日を眺めている。

 いつもなら、夕日が出てきた時点で帰るのだが、今日は鐘が鳴っても帰る様子がない。

 どうしてかな?

「あ、あの……今日はどうしたんですか?」

 私が聞くと、彼は、

「どうしたって、どういうこと? 僕は普通だよ」微笑んで返す。

「あ、いや……いつもは帰りが早いので、その……」

 その後が続かなかった。

 今日は帰りが遅いですね、なんて明らかに、早く帰ってくれませんか、と言っているようなもの。

 そんなこと言えるはずもなく、何と言おうか焦っていると、彼の方から言った。

「あ、そっか……メイリスは夕食の準備があるんだよね。なら、早く帰らないと。戸締りなら神父さんがやってくれるって、言ってたから安心していいよ」

「あ、ありがとうございます。……あ、いえ、そういう問題ではなく………」

「?」

 彼は首を傾げた。

 それに思わず私は何を言おうとしたか忘れてしまい、口を噤んだ。

 何を言おうか迷った挙句、私の口から出たのは、

「え、えと……こ、今晩の夕食何にしたらいいでしょうか?」

 我ながらに、唖然とする。

 馬鹿みたい。

 恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい気分だ。

 けれども、彼は、柔和に笑って、

「僕でよければ、付き合うよ」

と立ち上がって、私の手をとり、一緒に教会を後にした。

 彼の背中は大きかった。そして、

「………」

手も大きくて、暖かかった。

 それに私の顔は自然と暖かくなっていく。


 そんな冬のひととき―――。

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