paragraph Ⅴ
夕方になると、教会の鐘の音が夕暮れを知らせるべく鳴らされる。それは神父様の仕事で、私も何度かやらせてもらったことがあったが、やはり女子供の力では難しい。それは、今から二年ほど前だから、今ならできるのでは、と思ってしまったが、やっぱり無理だろうと頭を振った。
この鐘が鳴ると、広場や、町で遊んでいた子供たちが我先にと家に帰っていく。そして、家ではお母さんが夕食の準備をしていて、そのお手伝いをする。弟や妹がいたら、一日中遊んで泥だらけになった体を洗って着替えてから、下の子の相手をしてあげるのだ。
そういえば、そろそろイニスとルーヤが帰路につき、兄さんが相手をしている頃だろう。私も帰って、夕食の準備をしなくては……と考える。
だが、まだ帰るわけにはいかなかった。
教会にはまだ人が一人いた。
黒い髪に黒い服の青年が教会の長椅子に座って、天窓から差す夕日を眺めている。
いつもなら、夕日が出てきた時点で帰るのだが、今日は鐘が鳴っても帰る様子がない。
どうしてかな?
「あ、あの……今日はどうしたんですか?」
私が聞くと、彼は、
「どうしたって、どういうこと? 僕は普通だよ」微笑んで返す。
「あ、いや……いつもは帰りが早いので、その……」
その後が続かなかった。
今日は帰りが遅いですね、なんて明らかに、早く帰ってくれませんか、と言っているようなもの。
そんなこと言えるはずもなく、何と言おうか焦っていると、彼の方から言った。
「あ、そっか……メイリスは夕食の準備があるんだよね。なら、早く帰らないと。戸締りなら神父さんがやってくれるって、言ってたから安心していいよ」
「あ、ありがとうございます。……あ、いえ、そういう問題ではなく………」
「?」
彼は首を傾げた。
それに思わず私は何を言おうとしたか忘れてしまい、口を噤んだ。
何を言おうか迷った挙句、私の口から出たのは、
「え、えと……こ、今晩の夕食何にしたらいいでしょうか?」
我ながらに、唖然とする。
馬鹿みたい。
恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい気分だ。
けれども、彼は、柔和に笑って、
「僕でよければ、付き合うよ」
と立ち上がって、私の手をとり、一緒に教会を後にした。
彼の背中は大きかった。そして、
「………」
手も大きくて、暖かかった。
それに私の顔は自然と暖かくなっていく。
そんな冬のひととき―――。




