paragraph Ⅲ
「ねえ、お姉ちゃん」
妹のイニスが絵本を持って、尋ねてきた。
あどけない表情には、疑問の色が浮いている。
私は、
「なに?」
と答える。
きっと、絵本の事だろうな、と内心そう思いながらも、可愛い妹の頼みごとを無視できずにいた。
イニスは、
「絵本のことなんだけどね」
「うん」
「さいごに、『すえながく、しあわせになりました』ってあるけど、すえながくって何?」
「え~と……、ずーと長いことだよ」
「ずっと?」
「そう、ずっと」
「そっか!」
嬉しそうに笑っている。
こんな答えで良かったのだろうか。
不安に思っていると、奥の部屋で笑いを堪える兄の姿が見えて、堪らなく恥ずかしくなった。
さらに、
「じゃあ……」
イニスはそう、また質問をしてくる。
「しあわせ、ってなあに?」
という、質問に一瞬困惑した。
どう答えよう。
しかし、答えないとイニスは悲しんでしまうのではないか? と思い、
「ん~、そうだね。私は、今幸せだよ」
「お姉ちゃん、今しあわせなの?」
「うん」
「どうして?」
「だって、お父さんもいて、兄さんもいて、イニスもルーヤもいて、みんな笑って、元気に暮らせているんだから、幸せじゃないわけないよ。勿論、生活は苦しいけど、みんなが笑ってくれるなら、私はそれだけでも幸せかな」
「そっか。イニスも、お姉ちゃんが笑っているとうれしいけど、これもしあわせ?」
「うん」
私は「大好き!」と抱きついてくるイニスを受け止めた。
すると、奥の部屋にいたはずの兄が、
「兄さん、嫌われちゃったかな~」
と業とらしく、悲しそうな顔をした。
イニスは、兄さんの方へ言って、「お兄ちゃんも、大好き!」と抱きついた。
「あはははっ、兄さんも、イニスの事大好きだぞ~」
嬉しそうに兄さんは抱きしめ返した。
すると、羨ましそうに、ルーヤがてとてと私の方へやってきて、
「ん……」
と両腕を開いて立っていた。
ああ、彼もイニスのようにしてほしいんだ、と思い、
「いいよ」
と頷いた。
ルーヤは抱きついてきて、
「お姉ちゃん、大好き」
と小さく呟いた。
それを見ていたのか、兄さんがルーヤと私諸共抱きしめてきた。
本当に幸せだなあ、と感じた一時だった。