表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZartTod  作者: えびてん丸
11/42

paragraph Ⅱ

 茜色の夕日が教会の窓から差し込んで、教会の中のあらゆる物を赤くしていた。

 少し肌寒くなってきた。

 祭壇にある大きな十字架に祈るばかり。


 失踪した兄が帰ってくることを……。


 三日前のことだった。

 薄暗い黄昏時。町の、誰も寄り付かないような所に兄はいた。隠れるようにして、何かを必死に貪っていた。

 充血した目を見て、驚愕したのを覚えている。

 兄も驚いたような顔をして、それから悲しそうな泣きそうな顔で言った。


「ごめん」


 それから、目を放した隙に兄は姿を消した。

 無事に帰ってきてほしい。

 あんなのは夢だって、悪い夢だったんだよ、と笑って帰ってきてほしい。

 でも。

 多分、あれは夢ではなく現実のことだ。

 兄だけに限ったことではない。

 だんだん、家族がばらばらになってきていた。

 それが怖かった。

 だから。


 今だけは、独りにしないでほしい。


 黒い髪の彼が近くに居る。

 いつも優しく笑ってくれる、彼に傍にいてほしい。

 けれど、彼は夕方になると帰ってしまう。

 だから、私は――――


「行かないで。お願い、私を独りにしないで」


そう言いたかった。

 でも、夕焼け空を仰ぎ見る彼の寂しそうな顔を見て、言えなかった。

 そして、


「じゃあ、また明日……。また明日、来るから」


彼は微笑んで教会を出て行った。

 黒い大きな背中が小さくなるのを、私はぼうっと見ていることしか出来なかった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ