思い出した
どこにでもある転生話、書いちゃいました
ある日、私は思い出す。
私が《わたし》だった頃のことを…
これは所謂、死んで別の命を授かる転生というものなのだろうか?
前世の自分がどういった理由で死んでしまったのか記憶にはないけれど、それまでの記憶が溢れかえって脳内キャパはオーバーしてしまい10歳の私は熱を出して倒れてしまった。
もともと身体は弱かった私だけど倒れるなんてことは初めてで皆は大慌て。
母様は泣き出すし、いつも厳格な父様は仕事に手がつけられないようで、兄様はずっと私の傍にいて手を握ってくれた。
もともと過保護だったのが余計に過保護になってしまってもう大変よ…。
川崎恵美という平凡な2割オタク8割腐ってた女の子は、神宮寺美和子という大和撫子と大絶賛されるような美少女であり日本の経済のトップ2である金持ちの娘として生まれ変わっていたのだ。
勝ち組すぎて怖い。
記憶が戻った瞬間に、自分の名前に違和感を持った。
神宮寺美和子・・・それは昔プレイしたBLゲームに出てきた登場人物の名前と一緒じゃないか?
同姓同名が一致、うん良くあることじゃない。ただの気のせいよと自分に言い聞かせれたのは最初の一日だけ。
私が倒れてから数日たったある日、一人の少年がお見舞いに来てくれた。
驚きと興奮と、その他いろいろな感情が溢れて悲鳴を上げそうになったのは仕方ない。
だって彼は数年後、BLゲームの中の王道金持ち学園(もちろん男子校の全寮制)に通い何様俺様会長様桐生院帝様と呼ばれること間違いなしの攻略対象の1人だからだ。
しかも、なんと私の許婚様!
喜ばしいことに親が勝手に決めた仲なので帝様は神崎美和子に興味はない。
だが美和子は帝様大好きオーラを惜しげなく出しては帝様が通う王道学園に足を運ぶのだ。
日本の経済の2トップである桐生院家と神宮寺家であるために邪険に扱うことも出来ずに仕方なく美和子の相手をする帝様は、時期外れの転入生に情熱的な恋をしてしまい、あれよあれよという間に邪魔者である美和子との婚約を破棄してしまう。
BADエンドでは帝様と美和子がゴールインしてしまうのだが、やっぱ腐女子としてはイケメンが異性と結婚するのは如何なものかと。
えぇそうよ。私はまだ腐女子、帝さまと結婚なんていたしませんっ!
両親にそれとなくお断りの返事をしたいのだけれど、帝様の許婚という私のポジションに喜んでいるから悲しませたくないし…。
これは相手から破棄をお願いされるように行動をしないと駄目ね!
そうと決まったら、今までの好き好きオーラは消してしまわなくちゃ。
本当は一番大好きなキャラなのだけど、BLと自分の恋愛どちらを取ると聞かれたら迷わずBLよ!
当たり前じゃないっ。
私は他に良い人を探せば良いのだから。
「お前が倒れたと聞いてやってきた。なんだ、意外と元気そうじゃないか?
いつもいつも青白い顔をして、そんな軟弱だと早々に死ぬぞ」
10歳のまだ成長期も来ていない小さな身体に可愛らしい声。
なのに話す言葉はもう大人のようで、このギャップがたまらない!
可愛すぎて辛いっ!撫でくりまわしたい!!
「えぇ、もう大丈夫ですわ。み、桐生院様の手を煩わせてしまい申し訳ございません。お忙しいでしょうに」
今までの私は帝様呼びをしていたのだけれど、思い切って苗字呼びに戻す。
馴れ馴れしく名前で呼んでしまっていたが、そういえばゲームの中で王道主人公と始めてあったときに名前呼びを許してなかった彼だ。
私に名前で呼ばれるのは相当嫌だったに違いない。
そういえば名前で呼ぶたびに睨まれていた気がするわ・・・はは。
「…ふん、分っているなら無様に倒れるようなことはするな。一々、面倒だ」
「はい、申し訳ありません」
ベッドの上でペコリと頭を下げると腰まで伸ばした髪がはらりと肩から滑り落ちた。
美和子は美しい黒髪を腰まで伸ばした和美人だが、わたしはどちらかと言うとボブ派だ。
思い切って短くしてみようかしら?
いつも私の髪を褒めてくれるお父様があまりのショックで私みたいに倒れなければいいのだけれど。
「お前の顔も見たし、これで文句はないだろう。俺はそろそろ学園に戻る」
「わざわざ、ありがとうございました」
あぁ、もう帰ってしまうのか。
でも、彼が通う王道学園は小中高の一貫高で全寮制。
なかなか学園の外に出ることは厳しく、そして学園から私の家まで数時間もかかってしまう。
たかが数分のためだけに帝様は呼ばれてしまったのか…申し訳ない。
あ、帝様っていっちゃった。
パタンと静かに閉まるドアに少し寂しさを感じながら、私は無駄に大きなベッドに横たわる。
ゲームの中の美和子は儚げな印象の女の子だったが、わたしはどうだ?
記憶が戻って前世の自分が出てくるのはどう気にかけていてもポロリと零れてしまう。
そもそも美和子はこんなガサツな口調じゃないし。
好きなものも違うみたいだし、と自分の部屋として宛がわれている自室を見渡す。
私の部屋は生前暮らしていた部屋より2倍、いや3倍ほど広い。
広い自室には憧れていたけれど、限度というものがあるでしょう?
10歳の小さい身体には広すぎて少し不便なのよね。
白を基準とした家具はロココ調?
ベッドは天蓋つきのまるでお姫様のよう(棒読み)で可愛らしい。
『大和撫子みたい』『姫様』などと前世ではファンの皆から呼ばれていた美和子の部屋がロココ調のお嬢様仕様なのはどうかと思うのだけど…お母様の趣味?
私はどちらかというと和室が好きなんだよねぇ。
畳のある部屋から見える枯山水とか憧れるのよ…。
使われてない離れを大改造してもいいかな。
お金あるんだからそれぐらい許されるんじゃない?
「よいせっと」
お嬢様に似つかわしくない掛け声を上げながらベッドから這い出て、モコモコのルームシューズを履く。
勉強机に向かい、私は鍵付きの手帳を取り出した。
これに今後のスケジュールという名の帝様攻略内容を書いていこうと思う。
もちろん私が攻略していくのではなく、高校1年の桜が散った頃に編入してくる子のためだ。
「あぁ、楽しみ」
BLは生で見るべき。
だけど私は帝様の通う学園とは遠く離れたお嬢様学園の小等部に通っている。
ゲームでは王道学園の兄妹校である女子学院に通っていたから中学か高校であちらに行ったのだろう。
多分、お父様に無理をいって頼み込んだはず。
私が男なら帝様と同じ学園に入学して、影ながら転校生のサポートをしていきたい。
いいえ、親衛隊に所属するのもいいかもしれない。
王道チワワ隊長を説得して堂々と帝様と転校生を応援したい。
でもそれは出来ないのよねぇ…
転校生に帝様を攻略してもらうためには…まず私が転校生と仲良くなったほうがいいんじゃない?
それとなく帝様の情報を転校生に流して、次第に仲良くなっていく二人とか萌えー!
「うふふふ」
おっといけない。
涎が垂れるなんてお嬢様にあるまじきことよ!
あぁ!今すぐいろんなことを行動に移したいっ。
でも、今の私は身体が弱くて行動範囲は邸の敷地内だけ…。
「やはり体力づくりね」
ずっと過保護に育ててもらっていたけれど、これはいけない。
獅子の子落としという諺がありましてね、簡単に言うと『かわいい子には旅をさせよ』なのよ。
子供のときから苦労を知ってれば、大人になってから恥を掻かないですむって私は捉えてるんだけど…違うか?
「と、とりあえず箱にしまってばかりではいけないのよ!」
箱入り娘は今日で卒業よ!
というわけでお母様に相談しなくちゃ。
一番の過保護はお父様だから、お母様に説得してもらわないと身体を鍛えるなんてこと出来ないわ。
「身体を鍛えたいですって?あらまぁ、それは素晴らしいことだと思うけれど、いきなりどうしたの?」
お母様の自室はキラキラしている。
それは宝石や調度品の輝きというものではなく、お母様の醸し出すオーラというかなんというか…そんなものが溢れ出しているのだ。
「今日、桐生院様がお見舞いにきてくれました。
…ですが、彼は学園のことで忙しい身。
それなのに私が軟弱なばかりに時間を割いて会いに来てくれるのです。
嬉しい事なのですが…ベッドで横になっているときにしか会えないのはやはり寂しいですわ!
元気なときにお会いして、お茶をしながらお話などがしたいのっ」
私、女優になれるんじゃないでしょうか?
よよよ…と流れてもいない涙を拭くように可愛らしいレースの付いたハンカチで目元を押さえながらお母様を覗き見ると…号泣しておられました。
「あぁっ…なんと健気な子なのでしょうっ。
わかりました、旦那様には私からお話してみます。
無理だと言われても通してみせましょう…!」
「お母様!」
ガッシリと手を握り合い、力強く頷く。
さすが血がつながっている親子…自分で言うのもなんだけどそっくりである。
「ですが美和子、淑女たるもの女を磨くことも大切ですわよ?」
はい、そうですね。
そう上手く事が進むとは思っていません。
お母様はお優しい方だけれど、淑女の嗜みというものには全て厳しかった。
「もちろんですわ。今まで疎かにしてきた分を取り戻してみせますっ。
もちろん勉強も」
「それでこそ、私の娘です」
わたしが私だったときに習っていたのは茶道、花道、お琴、ヴァイオリンなどなど…全て淑女の嗜みということで半強制的に勧められたもの。
でも私は身体が弱いから思うように進まなくて、たびたび休んでは先生たちを困らしてしまっていた。
病は気から、という言葉もあるように意思の弱さもあったんだと思う。(つまり、やってらんねーてことか)
お母様も、私の御婆様にこれぐらい嗜める淑女になってからこの神宮寺の門をくぐりなさいと言われたから我武者羅に習い事をしてお父様と結婚出来たんだと嬉しそうに仰ってたわね。
『神宮寺たるものこれぐらい出来なくてどうします』というわけですよ。
「あ、そうそう。武道を習うのでしたらこの髪って少し邪魔でしょう?
ほんのちょびっと切ることをお許しくださいますか?」
「勿体無いけれど仕方ないわね」
お母様に了承をとったことだし、行きつけの美容室に今すぐ予約して参りましょう。
腰まである髪をちょっびっと…そうね、肩辺りまで切ってしまおう。
この長い髪はお風呂で洗うのも大変だし、ドライヤーで乾かすのも一苦労なのよね。
夏は首に張り付いて気持ち悪いし、もう散々。
案の定、切った髪を見てお父様がショックを受けていたのは良い思い出だわ。
誹謗中傷は与えないでください。作者はヘタレです。