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桜咲くころに

作者: でんでろ3

 春になった、と実感する夕べ。

 安アパートの1階の角部屋。窓を全開にしていると、春風に乗って、桜の花びらが、今にも、舞い込んで来そうだ。

「この星で1番旨い物を食わせてくれ!」

 その時、1人のホームレス風の男が、そう言いながら、窓から、ガバッと入ってきた。

「なんか、とんでもないもの舞い込んで来ちゃったよー。何だ? お前?」

「ふんっ! 国賓に対して無礼であるぞ」

「国賓? 極貧の間違いじゃねーか?」

「こ・く・ひ・ん! 国賓である。大使である」

「大使? 大使って、どこの?」

「私は、遥か宇宙のマグマ星の大使である」

「マグマ星? つまり、あなたは?」

「そう! マグマ大使」

「ぴろりろり~。ぴろりろり~。マグマ大使~! って、ノッた自分が許せねぇ!」

俺は、思わず立ち上がった。

「だいたい、何で、大使が俺ん家にくるんだよ! 大使館に行けよ!」

「これは、異なことを。玄関に、ちゃんと、大使館の旗印が出ていたではないか」

そう言ってホームレスが指差した先には、俺の白とグレーとネイビーのブリーフが1枚ずつ干されていた。

 やはり、トランクスにするべきだったか? いや、軒先に干すとグーグル・ストリート・ビューに写ったりするし、こういうことが起こらないとも限らないから、皆さん気を付けましょうね。 って、俺は誰に向かってしゃべってるんだ?

「とにかく帰れ!」

「何っ! それが客人をもてなす態度か?」

「だから、もてなす気無ぇって言ってんだよ!」

 俺は、落ち着きを取り戻し、座ると、ポテトチップの袋をゴミ箱に捨てた。

「待てぃ!」

「何だよ。……あぁ、残念でした。残らず食べたよ」

「そうではない。ベルマークを集めろ」

「……ってめぇ! どこの世界に、ベルマーク集める宇宙人がいるって言うんだ?」

「何を怒っている? はっはーん。さては、お前、ロータスクーポン派だな?」

「ロータスクーポンなんて、平成21年に配布終了してるし、やってた頃からいまいちマイナーで、ついでに言うと、今年の9月30日で交換終了なので、ロータスクーポンをお持ちの皆さんは、早めに交換しましょう。って、また、俺は、誰に向かって、話してるんだー!」

「まぁ、落ち着け。素晴らしきものは全て宇宙にもある」

「ベルマークって、全宇宙普遍なのか?」

「まぁ、ゲソマークだったり、ベロマークだったりするが、似たようなもんだ」

「じゃあ、このボールペンもあるのか?」

俺は、手近にあったボールペンを見せた。

「それは、無い。悪しきものだからな」

「ボールペンが、悪しきもの?」

「そうだ。ボールペンは、長時間続けて書いていると、インクボテがペン先に溜まって来て、気を付けていないと、急にそれが、ボテッと付いたり、しばらく使ってないとインクが出なくなって、『インク出ねーかな?』とか思って、紙にグリグリグリーって書くと、紙が切れそうになって……」

「無いって割りに詳しいね、あんた」

ホームレスの動きがぴたりと止まった。

「ゴ、ゴホン。わ、私は、大使であるから、よく勉強しているのだ」

 俺は、少し考えてから言った。

「まぁ、いいや。これ、食わせてやるよ」

春の陽気のせいかも知れなかった。

「ただし、1回こっきり、2度と来るなよ」

ホームレスの目が期待で輝いた。が、私が取り出したものを見ると、

「金ちゃんラーメン?」(実在します)

明らかに落胆した。

「見た目でバカにすんなって、これが地味に旨いんだから」(マジです)


 ラーメンができるまで。食ってる間。いろいろな話をした。

 食べ終わると、今度は玄関から帰って行った。

 彼は、何だったのだろう? 桜が見せた幻だったのだろうか?


 その時、ドアがノックされた。

「野崎智さーん、宅急便でーす」

おっ、故郷からの春の便りかな?

「はーい」

ドアを開けると、先ほどのホームレスが立っていた。

「来ちゃった」

俺はドアを開けると、ホームレスに前蹴りを食らわせ、ドアを閉めた。

 再び、連続して、ドアがノックされる。

「開ーけーてー! 開けてよー! さーとーしー! 開けてー! もうー! いじわるしないでー!」

俺は、カギとチェーンをかけて、ドアノブを全力で内側に引いた。

「今春から、1人暮らしを始める皆さん、表札にフルネームを書くとこのような危険があります。って、また、俺は、誰に向かって、話してるんだろうな?」

俺は大きく息を吸って、ドアに向かって叫んだ。

「この×××、(以下、自主規制)」

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