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Element Eyes  作者: zephy1024
第八章 獣牙復讐編
94/327

094.幕開-Beginning-

1991年6月6日(木)PM:19:44 中央区桐原邸一階


 テーブルに並べられた料理の数々。

 見ていると、思わず笑顔がになってしまう。

 そして同時に、涎も零れそうになってしまいそう。


 料理を運び終わり、五人全員が椅子に座った。

 一度座った中里(ナカサト) 愛菜(マナ)が、立ち上がる。

 得意げにメニューを語り始めた。


「今日のメニューは、紫さんから頂いたジャガイモを使った鶏肉のグラタンと、これまた紫さんから頂いた、グリーンアスパラガスを使ったサラダになります」


 大げさな言動で、手振り身振りまで交える愛菜。

 少し恥ずかしいようなくすぐったいような、そんな表情。

 三笠原(ミカサワラ) (ムラサキ)は耳を赤くしていた。


 彼女は律儀にも、愛菜の言葉そのままに通訳する。

 ミオ・ステシャン=ペワクとマテア・パルニャン=オクオの二人にだ。


 本来は、桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)と愛菜。

 二人が帰宅するまで、留守番するのが役目の紫。

 しかし、悠斗と愛菜が古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)に嘆願。

 許可を貰ったのだ。

 その為、彼女は平日は泊り込んでいる。


 愛菜はここ数日、腕によりをかけて調理に励んでいた。

 紫への、感謝の意味も込めているのだ。

 そして彼女もすっかり、愛菜の料理の虜になってしまっていた。


 紫の通訳により、愛菜の言葉を理解したミオとマテア。

 今日もとても嬉しそうだ。

 紫から、ミオとマテアも料理の虜だと、愛菜は聞かされている。


「それじゃ、食べようか。いただきます」


 悠斗の号令で始まった食事。

 他の四人も、同じように感謝の意味を込めて、いただきますと言った。

 その上で満面の笑みで食べ始める。


 だが、さすがにミオとマテアは、いただきます、とはちゃんと言えない。

 それでも言おうと努力している。

 なので三人は、言葉が拙い彼女達を微笑ましく見ていた。

 そんな感じで、今日も五人の食事が始まる。


「そう言えば、今日に限ってわざわざ料理説明するなんてどうしたんだ?」


「ええ、ゆーと君がそうゆう事言うの? 愛菜ぷんぷんだよ」


 そう言うと、愛菜は頬を膨らませた。


「あれ? 今日何かあったっけ?」


「愛菜ちゃんが折角頑張ったんですよ。思い出してくださいな」


 紫は呆れたように悠斗を見た。

 彼女の言葉に、必死に思案する悠斗。


「ゆーと君、今日は何日ですか? そして何歳になりましたか?」


 不満げに問いかける愛菜。


「ん? 年齢? あっあぁぁぁぁぁぁ」


 突然の悠斗の反応に、ミオとマテアは驚いて、びくっとしてしまった。


「もう、びっくりさせちゃ駄目だよ」


「ごめん。ミオとマテアもごめん」


 言葉の意味を理解しているのかはわからない。

 だが、ミオとマテアは、悠斗ににっこり微笑んだ。


「誕生日って事か」


「自分の誕生日忘れてるなんて? ゆーと君、信じられなーい。毎年お祝いしてるのに。ぷんぷんなんだよ」


「いや・・・本当ごめん」


 二人の会話を聞いている紫。

 ミオとマテアに通訳もしている。

 そこで更に食事をするのは、いろいろ忙しそうだ。


「それでは仕切り直しまして、ゆーと君、誕生日おめでとぅ! ちゃんと今年もケーキがあります。ホールなんです」


「悠斗君、おめでとうございます」


「ユート、タンジビオメトー」


 拙いながらも、何とか言葉に出来たミオ。


「タンビビオメト、ユート」


 マテアも言葉だけ聞くと何の事かわからない。

 だが、お祝いの言葉を述べた。


「愛菜、紫さん、ミオ、マテア、ありがと」


 悠斗は、微笑んで四人に順番に視線を向けていった。

 楽しく会話をしながら食事を進める五人。

 都度、ミオとマテアに通訳している紫。


「ミオもマテアも、愛菜ちゃんの料理は神様の贈り物だってさ」


「そんな神様って? 大仰ですよ」


 食事を堪能した五人。

 次はシンプルな、バースデーケーキを楽しむ。

 このケーキも愛菜お手製だ。


 切り分けられたケーキ。

 手掴みで被り付いたマテア。

 鼻に生クリームがデコレーションされた。


 ミオはフォークを使い優雅に食べている。

 その合間に、笑いながら何かをマテアに言った。


 どうやら彼女の言葉に萎れたらしいマテア。

 だが、二個目も手掴みで食べ始める。

 今度は注意してたので鼻には付かなかった。


 しかし、掴んだ手はお世辞にも上品とは言えない状態。

 再びミオが、何かを耳打ちし、マテアが膨れる。

 こうして、五人は一時の楽しい時間を過ごしていった。


-----------------------------------------


1991年6月10日(月)AM:11:57 中央区大通公園一丁目


 本来あるはずの無い、地下に広がる広大な空間。

 地上にいけば、そこにはテレビ塔が存在する場所。

 何か魔方陣のようなものが描かれている地面。

 その中心には半透明な高さ二メートル程のクリスタルが一つ。


「まずは第一段階だな」


 そのクリスタルの中心。

 黒と白と紫の帯が、複雑に絡み合っている。

 中心で球の形をなしていた。


 とても薄い青緑と、茶と緑のリーフパターンのような服装の者が一人。

 自衛隊にて使用されている、迷彩服一型に使われている色合いと同じに見える。

 しかし見る人が見れば、わかるだろう。

 迷彩服一型とは、そのデザイン形状が微妙に異なる。

 その男は、クリスタルに静かに両手を添えた。


「さて、始めるとしようか」


 誰に聞かせるでもなく呟く。

 男は歪んだ微笑を浮かべている。 

 その瞳には、狂った歓喜が渦巻いていた。


 クリスタルの中心に変化が起き始める。

 徐々に大きくなっていく球。

 三色の絡み合った球が、内側を満たし始めた。


 満たしていくと同時に、描かれている魔方陣が輝いていく。

 そして、徐々に輝きを増した。

 その陣の色は、時に白だったり、時に黒だったり、時に紫だったりに変化。

 明滅をし始めている。


 しばらくすると、徐々にその色の変化が、黒と白の回数を減らしていく。

 紫だけが増えているのだ。

 まるで呼応するかのよう。

 クリスタルも、白と黒の部分が塗り潰され、紫に変わっていった。


「これこそが全ての始まり! 我が夢への始まりの第一歩だ!」


 魔方陣とクリスタルの両方が同時に紫一色に染まった。

 その瞬間に、その場所から拡大していく見えない力。

 ただの一般人であれば、若干の違和感を感じる程度はあったのかもしれない。

 この場所の地上を歩く人々には、特に何も変化は無い。

 ただ群がっていた鳩達が、突如空に飛んでいっただけだった。


「何かが広がっている?」


 教室で彼女は、いつも通り英語の授業をしていた。

 しばらくして強烈な違和感を感じ、とある方角に顔を向ける。

 一瞬ただの気のせいか、と考えてみるが消えない違和感。

 突然説明する声を止めた彼女に、怪訝そうな表情を向けた生徒達。


 彼女と同じように違和感を感じた者は他にもいた。

 同じ校舎の違う教室で、国語の授業を受けていた五人の生徒。

 そのうちの二人、一番席が離れている少年と少女が顔を見合わせた。


 違う中学校で、英語の授業中だった双子の姉妹。

 また違う中学校では、数学の授業を受けている最中だった二人。

 少年と少女が視線を交錯させた。


 川の流れる音が微かに聞こえる教室。

 突然感じた違和感。

 少女は銀髪をかきあげて、怪訝な表情になる。


「何かな? この違和感? 嫌な感じ」


 静かにテレビを見ている三人の猫人。

 同じように違和感を感じ、ぴーんと猫耳を立たせている。

 違和感を感じていた者は、他にも何人もいた。

 一人、移動の為に車を運転していた男。

 違う場所で車を運転していた男と、助手席の女。


 別の場所にいた車椅子の男性。

 対面に座っている一人の男性と三人の女性。

 彼等は会話をとめた。


 所長室と書かれたプレートの室内。

 書類に目を通している視線が動く。

 赤みがかった栗髪の女性は、建物の別の場所にいた。

 彼女は厳しい顔になっている。


 店内で、いつものように接客をしていた女。

 厨房にいた男は一瞬手がとまった。


 違和感を感じた者の数。

 人口を考えれば、決して多くは無いかもしれない。

 しかし残念ながら、誰一人としてその違和感の理由。

 即座に理解する事は出来なかった。


 理解している者がいるとすれば、一人だけだ。

 この違和感を引き起こした張本人だけであろう。

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