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Element Eyes  作者: zephy1024
第七章 光闇因子編
82/327

082.資料-Data-

1991年6月5日(水)PM:21:07 中央区札幌駅前通


 札幌駅前通を、南から北に向っていく四人。

 時間の影響もあるだろう。

 すれ違う人も同じ方向へ進む人は少なくない。


 十分程歩いたアラシレマ・シスポルエナゼム。

 右に曲がり、比較的古い建物の前で足を止めた。


 後ろを歩いていた三人。

 近くに来るまで待ったアラシレマ。

 仰々しく反転し、慇懃に一礼した。


「この中にいまーすよ」


 中に入っていったアラシレマ。

 三人は、躊躇する事なく続く。

 もちろん周囲を警戒する事は忘れない。


 外と同じように、中もそれなりの年月を経ているようだ。

 廊下を真っ直ぐ進んでいくアラシレマと三人。

 不思議な事に、一階部分に人の気配がしない。

 嫌な予感がする三井(ミツイ) 龍人(タツヒト)

 若干顔を顰めながら歩いている。


 エレベーターらしき扉はある。

 しかし、電気回路が壊れているのか?。

 ランプはどれも消えていた。


 彼は、近くの扉を開けた。

 階段を昇っていく。

 若干薄暗いものの電気は点灯している。


 なので、電気がきていないわけではない。

 それなのにエレベーターが利用不可。

 なのは、壊れているからなのかと考えた三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)


 二階、三階を過ぎた。

 四階、五階も過ぎて階段を昇っていくアラシレマ。

 五階の踊り場を通過。


 六階で扉を開けて進んでいく。

 彼の先導で辿り着いた扉。

 ノックする事もなく、ノブを握り開け放たれた。


 その中いる人物は、迷彩服を着ている。

 椅子に座っている二人の角刈りの男。


 真正面の角刈りの男。

 黒い鞘に収められた、一振りの刀を握っている。

 彼は瞑っている目を開けた。


 その右手側。

 がっしりとした体付きの、きりっとした目の男。

 値踏むように、三人を見ている。


「連れてきーたよー」


 あいかわらず空気を無視している。

 おかしな言葉遣いのアラシレマ。

 彼はそのまま、何をするでもなく左手側の椅子に座る。

 状況がわからず困惑した表情の三人。

 そのまましらばく、立ち尽くしていた。


「覚醒者諸君、私は防衛省特殊技術隊第四師団で師団長を任されている後藤(ゴトウ) 正嗣(マサツグ)と申す。とりあえず座りたまえ」


 少し躊躇した三人だが、最初に龍人が座る。

 それを見た義彦も椅子に座った。

 銀斉(ギンザイ) 吹雪(フブキ)は少し逡巡していた。

 しかし、義彦の言葉で彼女も座る。


 まるで、座ったのを確認したかのようだ。

 左側のドアから、一人の女性が入ってきた。


「失礼します」


 彼女は色黒で、彫りの深い顔。

 黒髪を真ん中で結っている。

 まるで給仕をするかのように、お盆を両手で持っていた。

 龍人、義彦、吹雪の順に三人の前に湯呑を置いていく。


 その後、後藤と他の二人にも湯呑を置いていった。

 お茶を配り終わり退室しようとした彼女。

 再び後藤が口を開く。


「彼女は有賀(アリガ) 侑子(ユウコ)、第一小隊の隊長を任している。有賀、本来の仕事ではないのに給仕をさせてすまないな」


「後藤さん、お気になさらないで下さい。それでは失礼します」


 有賀は、それだけ言うと、その場を出て行った。

 湯呑の緑茶を一口飲んだ後藤。

 視線でもう一人の角刈りの男を指し示す。


「彼は副師団長の形藁(ナリワラ) 伝二(デンジ)と言う」


 そこではじめて三人の方へ、目礼をした形藁。


「紹介に預かった形藁と申します。アラシレマ、まずは伝える予定の情報を彼らに伝えたまえ」


「はーいーさー」


 お茶を一口飲んだアラシレマ。

 形藁に請われ、立ち上がった。

 軽薄そうなその顔。

 あいかわらず何を考えているのか、さっぱりわからない。


「龍人君に言った通り情報提供すーるんだーよ。長谷部はーね、豊平退魔局ーと【ヤミビトノカゲロウ】の繋がりにーついて調べていーたーのさ。だーけーどーねー調べーてるのがばーれちゃった。だーかーらー彼の妻と娘を人質に手を引かーせよーとしたーのさ。しーかーしー脅してーも手を引かーなかった」


 再びお茶を一口飲んだアラシレマ。


「だーかーらーどっちが主導しーたーのかまではわーからなーいけど、長谷部の妻と娘を誘拐して更に脅しーたー。おそらく長谷部は苦渋の選択だーったと思うーよー」


 アラシレマは目を瞑る。


「手を引くこーとーにーしたーのさ。しかーし、直ぐには妻と娘を返してもーらう事は出来なかったーんだよね」


「ここから先は私が話そう」


 刀を左手に握ったまま、立ち上がった後藤。

 任せましたと言わんばかりに、椅子に座るアラシレマ。


「そして妻も娘も帰らぬまま、半年程が経過する。探し始めたのがいつからかはわからない。しかし帰らぬ家族を探し始めた。そしてそのまま長谷部の消息も途絶える。消息が途絶えた後、三月十二日、長谷部が最初の事件を起してしまう。その間何処で何をしていたのかは今もって不明だ」


 一度湯飲を持ち、お茶で喉を潤した後藤。


「長谷部が殺害した中の九人は、亜人との有効関係改善の、協力者だった企業の重役等の重要人物だった。その為、極秘裏に我々が調査する事になった」


 表情を見る限りは、嘘を言っているようには見えない。

 しかし、安易に彼らの情報を信じていいものなのだろうか。

 そもそも、何故情報を提供してくれるのかがわからない。

 龍人は表情に、自らの思考を出す事なく、そう考えていた。


「言葉でいくら言ったとしても、今日初対面である私達の話しだ。安易には信じられないだろうと思う」


 後藤は、形藁に視線を送り促した。

 視線に答えるように、足元から鞄を取り出す。

 その中から、大きな封筒を取り出して龍人の前に置いた。


「一連の捜査に関する資料がはいっております。どうぞお持ちください」


「何処にでもいるただの探偵に、そのような資料を渡していいのか?」


 一瞬戸惑った龍人。

 彼の疑問も当然だろう。

 しかし、後藤の答えは簡潔明瞭だった。


「構わない」


 龍人の目をじっと見つめる後藤。


「そもそものこの調査は、非公式に行ったものだ。私達にとって本来範囲外の事であり、その資料そのものは、警察的考えで行けば公的には何の証拠にもならない。もちろんその資料の裏を取れば話しは変わってくるがね」


 見た目よりも案外気さくな話し方をする後藤。

 その意図を探るかのように見ている龍人。

 しかし、その表情や眼差しからは、何らかの思惑を読み取る事は出来なかった。

 そんな中、隣の義彦は、一言も口を出さない。

 一口お茶を飲んで、喉を潤していた。


「この資料を受け取るかどうかは、俺達三人を呼び出した理由を聞いた上で決める事にします」


「わかった。それで構わない」


 迷った上での龍人の申し出。

 後藤は躊躇する事なく、受け入れるのだった。


「さて、今までの話しはついで、とまではいかないが本題ではない」


 座り直した後藤。

 刀をテーブルに立てかけた。

 その上で、三人に順番に視線を向ける。


「わかっているとは思うが、事前に君達三人については調べさせてもらった。その上で問う。三井探偵、三井君、銀斉君、君達は、我々人間と亜人の今の関係をどう思っているかな?」


 予想のしていなかった質問に考える三人。

 その様子をにこやかに見ている後藤。

 一番最初に答えたのは龍人。


「一部を除けば、決して良好とは言えないだろうな。亜人を敵視する人間、人間を敵視する亜人。一朝一夕に解決する問題ではないだろうさ」


「確かにその通り。簡単に解決する問題ではない。これは、人種差別とも同じような問題、と考える事も出来るだろう」


 龍人の答えに補足するかのように、後藤が言葉を続けた。


「人間に限らず、人族というのは愚かなのだろう。同種同士ですらも憎み殺し合い、戦争をしてしまう。これは鬼人族(キジンゾク)獣人族(ジュウジンゾク)も例外ではない」


 微かに憐憫の表情を浮かべながら、後藤の言葉は続く。


「互いが話し合いを重ねる事で、振り上げた拳を下ろす事が出来るならばいい。だが、そうではない者達もいるのが現実だ」


 後藤は顔の前に両手を組む。

 その上で、テーブルに肘をつき前のめりになった。


「その場合どうすればいいと思うかね? 三井君」


「行う暴挙の罪を被るつもりがあるなら、手っ取り早いのは否定派の殲滅だろうな。ただしその場合、人間に肯定的な亜人も否定に回る可能性もある諸刃の剣でもあるかな」


「その通り。しかしそうせざるを得ない状況になりつつあるのだよ。一部の鬼人族(キジンゾク)と一部の獣人族(ジュウジンゾク)が、いくら話し合いを重ねようとも歩み寄ろうとしない」


 吹雪もその話しの間に、何度かお茶に口をつけて飲んでいる。

 この場にいる六人の湯飲のお茶がなくなりかけた。

 先程の女性隊員が、大き目の急須を持って再び現れる。


 客人扱いの三人から順番にお茶を入れていく。

 銘柄はわからない。

 渋味はさほど強くなく、かすかな甘味のする緑茶のようだ。

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