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Element Eyes  作者: zephy1024
第六章 桃猫水猫編
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075.安心-Relief-

1991年6月3日(月)PM:16:36 中央区特殊能力研究所五階


 デスクでたまっている書類。

 一つずつ順番に確認していく古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)

 ソファーには竹原(タケハラ) 茉祐子(マユコ)

 座って缶ジュースを飲んでいる。

 事前に、三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)に買い物を付き合ってもらう事は説明済みだ。

 今は彼の到着を待っている。

 扉をノックする音が二回し、古川が反応した。


「どうぞ」


 ドアを開けて入ってきた義彦。

 学ランに鞄も持っていた。

 どうやら学校から家に帰らずまっすぐ来たようだ。


「おにぃ、こんにちわ」


「こんにちわ」


「学校からそのまま来たのか」


「あぁそうだ。話しは聞いてるんだろ?」


「マユの買い物に付き合うみたいだな」


「そうみたいだ」


「それじゃ、おにぃ行こうよ」


「わかった」


「何買いにいくか教えてくれないんだが、義彦は知ってるのか?」


「いや、俺も聞いてないんだわ」


「美咲姉には秘密だよー」


「何でさ? まぁ義彦が一緒なら問題ないと思うが気をつけてな」


「はーい。それじゃ行ってきます!」


 義彦は、茉祐子を連れて所長室を後にした。

 しかし、彼も茉祐子が何処に行きたいのかわかっていない。

 この後、義彦は茉祐子の新たな一面を知る事になる。

 そしてそれが、古川のずさんな食事問題も、解決する事となるのだ。


-----------------------------------------


1991年6月3日(月)PM:17:51 中央区環状通


 いつも通りの道を歩いて、自宅に向っている古川。

 今日の夕飯は何か出前でも取ろうかなんて事を考えていた。

 その必要は無いのだが、まだ彼女は知らない。


 十○十○号室の前まで辿り着く。

 鍵を回し玄関を開ける。

 開けた瞬間に、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。


 義彦って料理出来るんだったか?

 しかし、居間にいってみると義彦は座っている。

 キッチンで忙しなく動いているのは茉祐子だった。


 一瞬驚いた顔の古川。

 料理出来るか聞いてなかった事に思い至る。


 古川も白紙(シラカミ) 彩耶(アヤ)も予想していなかった展開。

 ともかく、茉祐子の食事問題は解決となった。

 後日この話しを彩耶にした古川。

 それはそれで小言を言われる事になる。

 だが、それはまた別の話しだ。


「マユ、料理得意っぽいぞ。そんじゃ役目は終わったから研究所に戻るわ」


 義彦は、彼女と入れ違いになるように、その場を後にした。

 帰宅した古川は、茉祐子の料理を堪能する事になる。

 そして彼女にキッチンを預ける事になった。

 残念ながら、自分で料理を習得する機会を逃す事にもなる。


 それでもいいやと、逆に開き直る始末であった。

 ちなみに、義彦もこの日だけは茉祐子の料理を味わう。

 間桐(マギリ) 由香(ユカ)の授業終了後に、再びお邪魔したのだ。


 茉祐子に食べに来ると約束したのだ。

 そして約束通り彼女の料理を堪能。

 満足して帰宅する事になるのだった。


-----------------------------------------


1991年6月4日(火)PM:21:26 中央区桐原邸一階


 僕は居間の椅子に座り、一人ぼんやりとしていた。

 愛菜は今日は家に戻ってもらっている。

 ミオとマテアは本人達の意志を確認。

 その上で今日は研究所に泊まってもらった。


 言葉の遣り取りが出来ないのは不便だ。

 だから、明日から集中して、日本語の勉強をするのだ。

 もちろん講師は、おそらく今現状唯一話しが出来る彼女。

 明日からは講師がうちに泊り込む事になる。


 今日というか、僕が見つけるまでの出来事。

 二人に話してもらったわけなんだけども。

 正直どうゆう事なのか良くわからない。

 いや、どうゆう事かはわかってる、けど信じられないのだ。


 まず、彼女達二人の知っている暦の考え方が、僕達とは違う。

 基本的な考え方は同じだ。

 三百六十五日で一年、三十日で一月、二十四時間で一日。

 ただ実際の数え方や年号が全く異なる。


 まず一年は三ヶ月毎に四つに分かれるらしい。

 半陽、全陽、半陰、全陰の四つだ。

 更にそれぞれが、一月から三月に分かれる。


 半陽は一月から三月、四月から六月が全陽。

 そして、七月から九月が半陰。

 全陰は十月から十二月となる。

 これは、それぞれの月の日数から判断した。


 ミオ、マテアの住んでた場所。

 魔陽暦という年号を用いてたそうだ。


 謎の建物にあった資料。

 そこから判断すると、ミオとマテアがカプセルの中にいたのは五年位。

 どうやら、あのカプセルの液体に完全に浸かっていると、成長が止まるらしい。

 これだけでも、信じられない話しなんだけどね。


 謎の建物にあった資料。

 更にはミオ、マテアの発言から、彼女達の年齢は十五歳。

 ミオは生まれは魔陽暦三四九年半陰三月十三日。

 こちらの生年月日にあわせると一九七六年九月一三日。


 マテアの生まれは魔陽暦三四九年全陰一月三十日。

 同じように直すと一九七六年一〇月三○日。

 成長が止まっていた期間。

 そこを差し引いて考えると、一九八一年生まれという事になるのかな?


 ここまででも、充分信じられない話しになるわけなんだけど。

 更に信じられない話しになる。

 二人はマルビーラという名の村の出身で幼馴染。


 ある日村の外で遊んでいた二人。

 突然目の前に黒っぽい球体が表れて、飲み込まれた。

 吸い込まれるような妙な違和感を感じる。

 気付いた時には、二人とも全く見慣れぬ場所にいたそうだ。

 本当一瞬の出来事で、何が起きたのかさえわからなかったらしい。


 その後、森の中を探索する二人。

 変な仮面の人物が現れて、そこから記憶が途切れる。


 目覚めると、枝分かれした、たくさんのクリスタルやガラスが散乱していた。

 そこに現れたのが僕。

 ミオが何故か安心だと感じ縋ったそうだ。

 マテアも状況がよくわからないまま、ミオに従った。


 そして今にいたる事になるんだけども。

 黒っぽい球体って一体何の事なんだろうか?

 そもそも魔陽暦とか一体何処の話しなんだろう?

 日本みたいに西暦とは別に、年号を定めている国。

 探せばありそうな気はする。

 けど、そんな国は、日本以外で聞いた事がない。


 古川所長と彩耶さん、元魏さんの三人。

 僕と同じように話しを聞いたわけなんだけども。

 同様に、やはり信じられないようだった。


 でも二人がわざわざ嘘を付く必要性がないわけだし。

 とりあえず、同じような話しが過去になかったか、調べてみるとは言っていた。


 突然わけもわからない状況に置かれた二人。

 そのままわけわからないままだ。


 二人とも頼れるような知り合いもいなかった。

 きっと心細かったんだろうな。

 だからあんなにも僕から離れようとしなかったのか。

 そのマルビーラって村を見つける事が出来るのが一番いいんだろうけど・・・。


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1991年6月4日(火)PM:22:03 中央区桐原邸一階


 ぼんやりと考え事にふけっていた僕。

 彼女が側にいるのに、しばらく気付かなかった。

 ふと後ろを向くと、愛菜が何か聞きたそうな感じで僕を見ている。

 そりゃどうなかったか聞きたいよな。


「愛菜、とりあえず座りなよ」


「・・・うん」


 愛菜が僕と向かい合うように座る。

 僕は彼女が座るのを待ってから、話しを始めた。


「会話出来る人はみつけたよ。明日からしばらくうちに泊まり込みになる」


「そうなんだ。良かった」


「ミオとマテアは、今日だけ研究所に泊まって明日からまたうちに戻るよ」


「うん、わかった」


「一応二人が住んでた場所の名前はわかった。だけど何処なのかは全く検討がつかないみたい」


「え? 何て名前の所なの?」


「マルビーラだそうだ」


「マルビーラ・・・」


「後二人は一応十五歳みたいだ」


「ねぇ、ゆーと君、何でそんなに辛そうなの?」


「・・・何でかな? 自分でもわかんないや」


「ゆーと君・・・」


 愛菜はその後、何も言わず気付けば僕の隣に来ていた。

 立ったままの彼女は、そのまま何も聞かない。

 ただ僕の頭を抱きしめて、しばらくそのままでいてくれた。

 ただそれだけの事。

 なのに、何故か僕の不安は弱まる。

 安心していく自分に気付くのだった。

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