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Element Eyes  作者: zephy1024
第六章 桃猫水猫編
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068.微妙-Subtlety-

1991年6月2日(日)PM:17:23 中央区特殊能力研究所五階


 大会議室にいる古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)

 コーヒーカップを手に持ちながら、彼女は座った。

 その上で集まっているメンバーに視線を移していく。

 白紙(シラカミ) 元魏(モトギ)と言葉を交わしている白紙(シラカミ) 彩耶(アヤ)

 資料を見ている間桐(マギリ) 由香(ユカ)の隣。

 近藤(コンドウ) 勇実(イサミ)は、非常に眠そうな瞳をしている。


 生真面目な表情の相模(サガミ) 健一(ケンイチ)

 相模(サガミ) 健二(ケンジ)はだるそうな雰囲気だ。


 朝霧(アサギリ) 拓真(タクマ)(ツツミ) 火伊那(カイナ)の質問に答えている。

 緊張気味の顔の駒方(コマガタ) 星絵(ホシエ)  友星(トモボシ) (アタル)は、彼女の緊張を解そうと寒いギャグを言った。


 ここには更に、各研究室の室長がいる。

 四人の各研究室の室長は白衣姿。

 皆椅子に座っており、拓真だけは車椅子だ。


「わざわざ集まってもらったのは今後の方針についてだが。知っての通り、五月末から今までに無いペースで立て続けに事件が発生している」


 一同を見渡した古川は、言葉を続けた。


「それらのうち一部の事件は、警察側では捜査中止命令が出ているようだ。その為、私達は独自に動く事にしたいと思う。まずこの時点で反対のものはいるか?」


「いるわけないんじゃないの?」


 近藤の言葉に無言で皆が頷いている。


「改めて聞く必要なんてないでしょうにらしくない」


 四人の白衣の一人、眼鏡の男が微笑んでいる。


「らしくないか」


 そう呟いた古川も少し微笑んだ。


「近藤、健一は長谷部の事件の調査。拓真、火伊那、中、星絵は久下達の一連の事件の調査。彩耶と健二は緑鬼邸及び周囲で起きた事件の調査だ。由香には悪いが、引き続き学園開校の準備を頼む。元魏は余裕ある時で構わないから病院だけでなく、研究所の見回りも頼む」


「あれ? そーすると誰が事件発生時の対処するんだ?」


 健二は首を傾げつつ問うた。


「その時は私が直接向かう」


 きっぱりとそう答えた古川。

 全員が唖然とした。


「所長に軽くあしらわれる、まだ見ぬ犯人に同情だな」


 おどけてそう言った近藤に、皆笑う事なく頷いた。


「お前達の私に対するイメージの方が怖いよ」


 笑う古川に釣られて他の皆も笑った。

 笑い声が一通り途絶えた所で、真面目な顔になった古川。

 白衣姿の四人に顔を向けた。


「科学的検証が必要な場合もあるだろうから、可能な限りでいい。各研究室から一人ずつ研究員を同行させてくれ」


「わかりましたぁ。でもぅそーすると、ある程度自衛出来た方いぃって事ですねぇ」


 とろんとした瞳で、今にも眠ってしまいそうな、黒髪の白衣の女性。


「となると、人員はある程度限られるという事ですか」


 その隣の席の、丸眼鏡の白衣の女性が、自問するように囁く。

 後ろの席の、色白の白衣の青年が、頷いた後に口を開いた。


「それでも、各研究室から三人なら何とかなりますね」


「余り無茶はさせるつもりは無いが、何処でどうなるかわからない以上、その方がいいだろうな」


 古川の言葉に四人が頷いた。


「拓真、火伊那、中、星絵の四人は初仕事になるので、明後日になるがベテランを一人つける。又、由香にも学園の準備の為に、人員を回すつもりだ」


 再び一同を見渡した古川。


「何か質問はあるか?」


 質問をする者は誰もいなかった。


「後はそうだな。念の為、塾生達に授業をする時間だけは、ここに極力戻ってきてくれ。【ヤミビトノカゲロウ】や関係者が、手薄な隙を狙ってくるかもしれないからな」


 全員が頷いた事に、古川は満足した。


「緑鬼邸での一連の事件についての報告書作成もあるし、実際に調査にかかるのは明後日からでいい。今日と明日は、待機当番の者意外はゆっくり休んでくれ。何かあれば連絡するかもしれないが」


 彼女は、手元のコーヒーを一口飲んだ。


「緑鬼邸及び、関連事件の報告書だけは早めに出してくれな。それじゃ解散しようか」


 その言葉に順番に休憩室を出て行く皆。

 研究室に戻る者、そのまま帰る者、待機所に向かう者。

 主にその三グループに分かれて研究所内に散っていく。

 その中で、古川だけは彩耶を伴って所長室に戻った。


-----------------------------------------


1991年6月2日(日)PM:17:44 中央区特殊能力研究所五階


 デスクの椅子に座っている古川。

 彩耶は古川が見えるようにソファーに座っている。

 コーヒーを飲んでいる古川と、ミルクティーを飲んでいる彩耶。

 彩耶が先に口を開いた。


「茉祐子ちゃんを引き取ると言った時は、気でも狂ったのかと思いましたけど」


 その言葉とは裏腹に、彼女は嬉しそうに微笑む。


「ひどい言い様だな」


 苦笑いで彩耶をみる古川。

 しかし、彼女は何処吹く風で会話を続けた。


「今の所知っているのは私と元魏さん、義彦君ですか?」


「そうだな。義彦に教えたのはマユちゃんだけどな」


「彼なら回りに漏らす事はないでしょうけど。でも皆に言わないのは何故です?」


「皆に変に気を使われるのは御免だ。そうは言っても直ぐばれるだろうけどな」


 彩耶が持ってきたビスケットを一枚手に取った。

 少し眺めてから食べる。


「おいしいな。何て名前のビスケットだ?」


「手作りなので名前も何もありませんよ。昨日焼いてみました」


「元魏のリクエストか?」


「そうですね」


「あいつ、菓子類好きだからな。しかしおいしいな」


 もう一枚とって口に入れた古川。

 彩耶も一枚とって口に入れる。


「あの時の吹雪をとめたのは義彦だが」


「そうですね」


「義彦がもしなったとしたら果たして止めれるのかな」


「無理かもしれませんね。彼自身あの時の闇を引きずっているのかもしれませんけど」


「結局あの時何が起こったのか」


「あの娘は義彦君が守ってくれただけ、他には何もないと言いましたけど」


「ある意味間違ってはいないのだろうけどな」


「何故あの娘は本当の事を話さなかったのでしょうね」


「何かがあったと言うのは、あくまでも私と彩耶の中だけの妄想でしかない。彼女には実際に何かがあったとは思うのだが」


「義彦君は一切何も言わず口を噤み、彼女に聞けと、その彼女も守ってくれたと言うだけでしたからね」


「状況と言っている事の齟齬に、果たして何人が気付いてたのだろうな」


「どうでしょうね」


 彩耶はミルクティーを一口飲んだ。

 古川もコーヒーを一口飲む。


「でもあの時の美咲の決断は、正直びっくりしましたけど」


「少なからず知っている子だったからな。真実を話してくれるんじゃないか、という淡い期待もあったのかもな」


 古川は自嘲気味だ。


「処罰されていてもおかしくなかった彼を、協力者として引き取ったわけですからね、今後も何もなければいいのですけど」


「そう考えると、龍人探偵は別格なのかもしれないな」


「そうですね。年齢差はあったにせよ、並大抵の事ではないのでしょうね」


「三人が味方側なのは良かったのだろうな」


「そうですね。ところでマユちゃんは?」


「うちに連れて帰ったよ。今頃はテレビでも見てるんじゃないのか?」


「すぐ近くだからとは言え、美咲はマユちゃんの食事どうするつもりなの?」


「正直そこに困っている」


「はぁ、全く」


 呆れ顔の彩耶に、苦笑するしかない古川。


「マユちゃんには、料理は本当に出来ないって言ったんだけどな。それでも私との同居を選んだんだよ」


「美咲の私生活はズボラですからねぇ。本当溜息しか出ないわ」


「今更何を言ってるんだか」


 古川は、再びビスケットを一枚食べた。


「母性本能がくすぐられたのかどうしたのかわかりませんけど、年の離れた妹が出来たんだからしっかりなさいよ」


「妹・・・になるのかな、しかし、彩耶にそう言われると何も言い返せないよ」


「茶化してないでちゃんと考えなさいよ」


「そうだな。真面目に考えないとな」


 真面目な顔になった古川。

 カップを持ち上げたまま思案している。

 竹原(タケハラ) 茉祐子(マユコ)の食事問題。

 この案件については後日解決する事になる。

 しかし古川も彩耶も、解決した後に、その事実を知る事になるのだった。


「もうそろそろ伽耶達への訓練の時間じゃないのか?」


「そうですね。伽耶と沙耶は紗那ちゃんも交えて、既に下でトレーニングに励んでいるはずですけどね」


「あの二人がやる気になったのは結果的に良かったのだろうけどな」


「その経緯が母親としては微妙ですけどね」


 彩耶の表情は、嬉しいやら悲しいやら複雑だ。

 その顔を見た古川は、苦笑するしかなかった。

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