表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Element Eyes  作者: zephy1024
第五章 黒塊追跡編
60/327

060.土煙-Dust-

1991年6月1日(土)PM:19:16 中央区特殊能力研究所五階


 受話器を片手に、ペンを走らせている古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)

 電話の相手からの情報を、メモしているようだ。


「それじゃ、組織としてはまったく別々で、何らかの理由があって協力しているという事か?」


 相手の言葉に反応を返した古川。

 視線をメモに移して、再びペンを走らせる。


「そうだな。利害関係の一致なのかもしれない」


 至極真剣な瞳で、彼女は窓の外に視線を向けた。


「くれぐれも無茶はしないようにな。まぁ、そもそもが、そんな所にいる事、それ自体が、無茶以外の何者でもないか。敵地のど真ん中、中枢で一人戦っているようなものだものな。向こうから見れば、裏切り者以外の何者でもないのだから。くれぐれも正体がばれないように、注意してくれよ」


-----------------------------------------


1991年6月1日(土)PM:19:16 中央区緑鬼邸二階


 (ヘキ) 市菜(イチナ)に案内された部屋。

 彼女に、一応再度確認した上で、電話を掛ける近藤(コンドウ) 勇実(イサミ)

 受話器を持って、しばらくコールするが誰も出ない。

 諦めた近藤は、受話器を戻した。


「申し訳ない。誰もでないようだわ。後で勝手に借りてもいいもんかね?」


 申し訳無さそうに問うた近藤。

 市菜は、にこやかな笑顔で答える。


「はい。どうぞ、ご自由にお使いください」


「そうか、ありがたい。そういえば、緑鬼族(ロクキゾク)ってここにいるので全員なのか?」


「全員というのが、緑鬼族(ロクキゾク)全てを指しているのであれば、いいえですね。私達は、おそらく他の鬼人族(キジンゾク)もですが、いくつかのグループに分かれております」


「グループ?」


「はい。私達緑鬼族(ロクキゾク)で言えば、市内には、ここにいる以外のグループも存在しております。もちろん、連絡を取り合ったり、会いに行ったりもしてます」


「そうか。他の鬼人族(キジンゾク)も、同じようなもんって事なんだな」


 近藤の言葉に少し考えるような、思案顔になった市菜。


「そうですね。細かい部分では、それぞれで違うかもしれませんが。おそらく同じような感じではないかと思います」


-----------------------------------------


1991年6月1日(土)PM:19:17 中央区宮の森


 即席の手枷足枷をはめられて、寝かされている長耳の男と緑髪の男。

 緑髪の男は(フキ) 颪金(オロシガネ)

 探偵である三井(ミツイ) 龍人(タツヒト)が探していた人物。

 長耳の男については、現時点で正体不明だ。

 だが、起こすと危険なので何も聞き出してはいない。


 ここに戻る前に、意識が戻った時に、二度聞き出そうとはした。

 しかし二度とも、会話のキャッチボールにすらならなかったのだ。

 その点に関しては、颪金も同様だった。


 龍人の説明を聞きながら、颪金の側に座り、視線を向けている二人の男。

 颪金の父、(フキ) 山金(ヤマガネ)と、颪金の兄である、(フキ) 嵐金(アラシガネ)

 安堵したのも束の間、龍人の話しに険しい表情になる。


「龍人さんの(オッシャ)るとおりならば、確かに危険ではあります。しかし無事とは言い難いのかもしれませんが、見つけてくれた事には感謝の言葉もありません」


 立ち上がった山金は、龍人に向き直り頭を下げた。

 嵐金も同様に立ち上がり頭を下げる。

 しかし龍人の表情はあまり優れない。

 颪金が素直に喜べる状態ではないからだ。


「山金さん、嵐金さん、頭を上げて下さい」


 いろいろと思う事はあったが、言葉には出来なかった龍人。

 下手な慰めの言葉をかけても、どうにもならない。

 だからこそ、それしか言えなかった。


 裏口の扉が開かれた。

 近藤が一人で歩いてくる。

 言葉を発することはない。

 手枷足枷をはめられ、寝かされた二人をしばらく見ていた。


「この二人か。確かにこっちは尖ってるし長い耳だな」


「――そうだな」


 少し間を置いて龍人がそう答えた。

 相模(サガミ) 健一(ケンイチ)相模(サガミ) 健二(ケンジ)

 二人は長耳の側に座り込んでいる。

 いつでも反応出来る様に、長耳の男と颪金を見ている二人。


「健一に健二、とりあえずお疲れ。電話でねえわ」


 健一は、軽く手を上げて近藤に答えた。


「早く報告して来て、交代してもらえると嬉しいんだけどね」


 わざとらしく疲れた表情をする健二。


「健二、わざとらしいんだよ。まあもっかい電話してくるわ」


 近藤は、裏口から再び中に戻っていった。

 山金と嵐金に、嵐金の怪我の手当てをお願いしてくる旨を伝えた龍人。

 近藤の後を追うように、扉の中に消えた。


 健一と健二の側まで来た山金と嵐金。

 二人は、座っている健一と健二に頭を下げた。


「三井探偵にお話しはお伺いしました。息子を助けて頂きありがとうございます」


 頭を下げたままの山金。

 彼に最初に答えたのは健一。


「頭をあげて下さい。自分の仕事をしたまでですから」


 健二がその後に少しおどける。


「結果としてそうなっただけだしな。お二人が気にする事じゃないさ」


 山金と嵐金の頭を上げさせた二人。

 近藤が去った後から、僅かながら禍々しい気配を颪金から感じ始めた。

 目を合わせる二人は、疲れた顔をしている。

 しかし見た目とは裏腹に、いつでも反応出来るようにじっと颪金を見ていた。


「あの二人の少年にもお礼を言わねばなりません」


 嵐金に山金も頷いている。

 この二人にとっては、どうゆう状況にせよ颪金が戻って来た。

 それだけでもましだったのだろう。


「あぁ、あの二人にお礼するなら後の方がいいかもな」


 健二はまるで、今のあの二人の様子が想像出来るかのように言う。

 その言葉に疑問を浮かべる山金と嵐金。


「あの二人なら、今頃女性陣にもみくちゃにされているでしょうしね」


 少し間があったが、健一の言葉を理解したようだ。

 その表情を読み取った上で、更に言葉を続ける。


「お二人には申し訳ないのですが、私達の背後にいてもらえますか。少しばかり嫌な予感がしますので」


 健一の言葉に、一瞬怪訝そうな表情を浮かべた二人。

 しかし、抵抗する事なく素直に従った。


「嫌な予感とは一体?」


 健一と健二の背後で、問いただすような言葉の嵐金。

 その言葉に何て答えようか躊躇した健一と健二。


 その時丁度、龍人と、救急箱を持った(スイ) 双菜(フタナ)が裏口のドアを開けて現れた。

 颪金を見た龍人が、直ぐに厳しい表情になる。

 前に進もうとした双菜を手で制して止めた。

 首を傾げる双菜に、龍人はただ首を横に振るだけだ。


 突然目を開けた颪金、手枷足枷を造作も無く引きちぎる。

 そして、颪金は立ち上がった。

 その体には、緑と紫と黒のエネルギーの奔流のようなものが駆け巡っている。

 その光景に、その場にいる者達は呆然。


 最初に反応したのは、健二と龍人だった。

 健二は、颪金を囲むように土壁を全方位に作り出す。

 龍人は、その土壁の周囲を、風の壁で覆う。


 その風の勢いに、軽く吹き飛ばされた長耳の男。

 同時に土壁と風の壁に囲まれているにも関わらず、響き渡った轟音。

 颪金を中心に広がっていく力の奔流が、一瞬で土壁と風の壁を粉砕。


 咄嗟に双菜をかばいながら、壁に叩きつけられた龍人。

 吹き飛ばされ地面を転がった健一と健二。

 二人の近くに山金と嵐金も倒れている。

 黒い蟻の躯も、吹き飛ばされて転がっていた。

 粉砕された土壁と、巻き上げられた土埃の影響で、しばらく状況がつかめない。


 双菜をかばい、壁に叩きつけられた龍人。

 瞬間的に呼吸困難に陥りながら、その場に倒れる事はしなかった。

 足を震わせながら、若干顔の青い双菜を、すぐ側の裏口の中に連れて行く。


 土埃が晴れたその場には、長耳の男の頭を右手で握っている颪金が見えた。

 長耳の男は、手枷足枷をはめられたままだ。

 悲鳴とも嗚咽ともとれない声を上げている。


 颪金の体は一回り大きくなっており、血管が浮き出ていた。

 額からは、緑と紫と黒の三種の色にまみれた、角のようなエネルギーの奔流。

 体の表面も角と同じように、三種の色のエネルギーの奔流が覆っている。


 少し離れた所にいる、草と土まみれの健一と健二。

 山金と嵐金も二人の側で立ち上がろうとしていた。

 裏口の扉から現れた三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)

 その後少ししてから近藤も出てきた。


「龍人、双菜さんは吹雪にまかせたが、一体何がどうなってる?」


「俺に聞かれても困るな。とりあえず颪金に何が起きてるのかは、あそこの長耳男しかわからんだろうさ」


 龍人がそう言った直後、その音が聞こえた。


「グシャッ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ