表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Element Eyes  作者: zephy1024
第五章 黒塊追跡編
55/327

055.中身-Contents-

1991年6月1日(土)PM:17:49 中央区宮の森


「オ・ジ・サ・ン何処狙ってるの?」


 半円状に散らばった、八本の炎の刃。

 その場で炎の勢いを増していく。

 更に、横に網目状に炎が伸びてゆく。


「別に、お前を狙うだけが勝利じゃないって事だ」


 近藤(コンドウ) 勇実(イサミ)の言葉。

 意味が分からないかのように、首を傾げる仮面の子。

 しかし炎の動きを理解して、目をまん丸にしていた。

 炎が徐々に包囲網を完成させて行く。


「僕を逃がさないのが目的って事?」


「さぁな。これから何をするか教えてやるほど、俺はお人好しじゃないぜ」


 困った顔をしているのかは不明だ。

 だが、仮面の子はその場から逃げる素振りも見せない。

 仮面の子の頭上まで伸びた、網目状の炎の檻。

 その隙間は、子供でも既に通り抜ける事は出来ないサイズになっている。


「大人しく降参しろ! そうすればこれ以上手荒な真似はしねーよ」


「近藤オ・ニ・イ・サ・ンって甘いんだね。でも僕的には、そーゆーのも嫌いじゃないかな?」


「抵抗するつもりか?」


「もちろんだよー」


「それじゃ、子供らしいお前さんに手を出すのは、気が引けるがしょうがねぇ」


 近藤の言葉に呼応するかのようだ。

 炎の刃が内側に向けて突き立てられる。

 しかし炎の刃は消滅する。

 仮面の子が両手を重ねて掲げた、巨大な熱線に薙ぎ払われた。


「やっぱり近藤オ・ニ・イ・サ・ンは甘い人だね。今の炎の刃も全て、僕に当たらないぎりぎりの場所を狙っていたね。僕の動きを止める為だったのかなー?」


 子供だと甘く見ていたが、子供だと嘗めすぎていたようだ。

 こいつの戦闘センスはまじで本物なんじゃないのか?

 自分の認識の甘さを呪うしかないな。

 そんな事を考えている近藤は苦笑いだ。


 仮面の子の両手から放たれている剣状の巨大な熱線。

 近藤の炎の檻を、いとも容易く薙ぎ払う。

 その威力に近藤は目を見張るしかない。


「近藤オ・ニ・イ・サ・ン楽しかった。だから殺すのはやめたー! また遊んでねー!」


 森の中に消えて行った仮面の子。

 本気を出せば、森毎薙ぎ払う事も出来なくはない。

 だがもしそうすれば、その後別の意味で大参事になってしまう。

 そう考えた近藤。


 それにどんなに強くても、子供にしか見えない。

 命を掛けた争いに甘いのだろう。

 しかし仮面の子諸共焼き払う事は、どうしても近藤には出来なかった。


「一対一で逃がしたなんて言えば、所長に怒られるかもしれねぇなぁ」


 そんな事を考えながら、彼は煙草を一本取り出した。

 ジッポで火を付けて、肺を煙で満たし吐き出す。

 そうして、吸い終わるまでその場に留まった。


-----------------------------------------


1991年6月1日(土)PM:17:49 中央区謎の建物一階


 黒いローブに纏わりつくように、肉弾戦を繰り出す二人。

 即席コンビの割には、案外コンビネーションは悪くない。

 しかし、黒いローブの動きは軽快だ。

 時に両手の肘より先を使い防いだり、時に反動を利用し器用にかわす。


「案外器用に動くな」


 一度距離をとった三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)

 疲労感を感じていた桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)も、同様に距離を取る。

 義彦と悠斗の二人が、黒いローブを挟んだ形になった。


 義彦は面倒くさそうな視線を向けている。

 悠斗には既に余裕は無い。

 黒いローブは、二人を憎悪の眼差しで見ていた。


≪フラ ヲギ ツキリナニル ヒズコ ヤユス テケソ ヘロウメ スラテナ≫


 二人が離れた瞬間に、詠唱魔法を唱えた黒いローブ。

 いくつもの火の玉が、最後の言葉を唱えたと同時に二人に降り注ぐ。

 数が多すぎる、そう思った悠斗はどうするべきか迷った。


 しかしその火の玉は、二人に届く事はなかった。

 突如目の前に現れた風の壁。

 捲き起こされる風に、飛ばされないように踏ん張る。


 黒いローブを中心に、竜巻が起きていた。

 放たれた火の玉さえも防いだようだ。

 突如収まった竜巻の中心。

 黒いローブを焼かれ、膝をついている仮面がいる。

 その状況に、悠斗は思考が追いつかなかった。


-----------------------------------------


1991年6月1日(土)PM:17:50 中央区謎の建物二階


 汗だくの着崩したスーツ姿の男が、乱暴に扉を開けて入ってきた。

 即座に、部屋に無造作に置かれている資料を手に取る。

 理解出来そうな部分に、一心不乱に視線を向けた。


 二人で挑んでるといったって、まともにダメージを与えられてないような奴だ。

 こちらの攻撃が通らない理由を早く見つけないと。

 兄貴達だってそう長くは持たない。

 気持ちだけが逸る。


 何かヒントになりそうな事さえも、彼は見つける事が出来ない。

 それでも、一枚一枚資料に目を通していく。

 どれもが実験の途中経過を記録している様な感じのもの。


 二つの濃い赤紫色のカプセル。

 その中には、人型の赤黒いものが浮いている。

 しかし、彼には気にする余裕はない。


 どんどん資料を読み漁っていく。

 ページのわかる部分だけを読んでいる。

 最後の走り書きの部分を読んだ相模(サガミ) 健二(ケンジ)


 許容量を大幅に超える魔力を供給された実験体は、その魔力のコントロールをする事が出来なくなる。

 ガス抜きするように魔力を放出させれば、問題なくなるが魔力のコントロールを失っている為、実験体自身で意識的に放出する事は難しい。

 更に魔力を供給し続けると、やがて体内で暴走した魔力は、徐々に体から漏れ出るようになる。

 体を漏れ出る魔力は、既にコントロールを失い暴走している為、漏れ出たときに触れた細胞を破壊する。

 その破壊現象は、実験体の生命が完全に消失するまで、際限なく続く。


 赤紫色のカプセルの中身を理解した健二。

 二つのカプセルを改めて見てみて絶句した。

 カプセル内の赤黒い、おそらく人であったもの。


 動き出す事がないように、カプセルの中の十字架の様なものに固定されていた。

 手足が何重にも固定されている。

 液体が赤紫なのは、恐らく漏れ出た血液と混じった結果なのだろう。


 この場で行われた、非人道的な凶行に思い至った健二。

 一気に、吐き気が喉元を駆け上がってくる。

 今まで割とグロテスクな状態の物も見た事はある彼。

 しかし、ここまでの凶行は想像を絶する行いだった。


 それでも、こんな所で嗚咽に時間をかけている暇はない。

 根性で飲み込んだ。

 もうここに目ぼしい資料はないと判断した健二。

 ふらつく足腰に活を入れて、気合をいれる意味も込めて乱暴にドアを開けた。


 そこには、緑髪の颪金の回し蹴りに吹き飛ばされる龍人。

 少し離れた所で、苦い表情の相模(サガミ) 健一(ケンイチ)が見えた。

 吹き飛ばされた三井(ミツイ) 龍人(タツヒト)が、床をバウンドして転がっていく。


 助けようと一瞬考えたが、自分が行っても何も出来ないとぐっと唇を噛む。

 焦る気持ちのまま、二つ目の部屋のドアを乱暴に開けて中に入った健二。

 資料らしきものは何一つなく、隣と同じように濃い赤紫色のカプセルだけが目に入った。


 再び吐き気が食道を駆け上がってくるも、吐き出すのを(コラ)える。

 すぐに部屋を出た健二は、ムカムカする気持ちを誤魔化す。

 三つ目のドアを、吐き気を振り払うように乱暴に開けた。


 隣二つの部屋とは違った。

 カプセルには人ではなく、動物らしき生物。

 紫の液体に揺らされていた。


 左側のカプセルの中の生物は、犬か狼のような獣の子供のよう見える。

 全体的に白っぽい毛に覆われていた。

 額や耳等の体の一部の毛が紺色になっている。


 右側のカプセルの中の生物は、鳥の子供のようだ。

 全体的に薄い桃色で、所々が白くなっている。

 鳥類についてほとんど知らない健二には、何ていう鳥なのかわからない。


 一瞬唖然とした健二だが、カプセルの中身を考えてる状況じゃないと思い返す。

 近くの資料を無造作に掴み、確認して行く。

 どうやらここにいる獣達について、書かれているようだ。

 本当に、何かヒントになるような事が書いているのだろうか?

 不安と焦燥感に苦しめられながら、視線を動かすのはやめない。


 次々に資料を読破してゆく健二。

 その中には、二体の獣について書かれていた物もあったが、深くは読まない。

 いくつかの資料にひたすら目を通して、彼は気になる記載を見つけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ