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Element Eyes  作者: zephy1024
第五章 黒塊追跡編
48/327

048.差異-Difference-

1991年5月31日(金)AM:10:45 中央区特殊能力研究所付属病院七階


 委員長室で椅子に座っている白紙(シラカミ) 元魏(モトギ)

 電話の受話器を持つと、ダイヤルを押し始めた。

 しばらくコールが鳴った後、相手が電話に出る。


「久しぶりだな。今時間は大丈夫か?」


 彼は手元の資料を見ている。


「あぁ、もし可能なら引き取ってもらいたい患者がいる。有下(アリシタ) 雄二(ユウジ)有下(アリシタ) 和希(カズキ)という患者だ」


 淡々と説明を続ける元魏。

 しばらく話しをして終わったのだろう。

 受話器を電話機に戻した。


-----------------------------------------


1991年6月1日(土)PM:17:04 中央区宮の森


 僕と三井さんは、ひたすら森の中を進んでいる。

 迷いもなく進む三井さんに、最初は僕も疑問に思った。

 最初から素直に聞けば、無駄に心配になる事もなかったな。

 ちょっとだけ後悔した。


 しかし、僕と一つしか違わないのに対したものだ。

 いつから研究所に協力してるのだろうか?

 それだけの場数を、経験しているって事なのだろう。


「出来れば、夕食の時間までには帰りたい所だな」


「そうですね」


 僕が三井さんから、迷いのない理由を聞いた。

 それ以外は、ほとんど無言で進んでいる。

 目的地が何処にあるのかもわからない。


 木々の合間、遠くに白い壁が見えてきた。

 近づいてい見ると、大きな穴が開いている。

 黒いアレが通るには、丁度いい大きさなのだろう。


 ここに来るまでに、遭遇した黒いアレは一体。

 通算三体目になる。

 しかし、土の三角錐を飛ばしてきたのは最初の一体だけ。

 見る限りは全て同じに見えた。


 そもそも何故黒いアレが、あんな事出来るのかがわからない。

 三体のうち一体だけ。

 単純に考えれば、出来る奴と出来ない奴がいるという事になる。

 それじゃあ、その差は何処で生まれたのだろうか?


 そもそもが、黒いアレ、たぶん蟻だと思うんだけど。

 何であんなに巨大化しているのだろうか?

 そこから既におかしな事だ。


「伊都亜さん、無事だといいですね」


「たぶん、まだ無事だと思う」


 本当に無事なんだろうか?


「何か根拠はあるんですか?」


 相手が何者かわからないし、僕は正直心配でならない。

 黒いアレもいるだろうし。


「根拠か・・殺すのが目的じゃないと思う」


 三井さんはそう断言する。


「連れ去るのが目的だったんだろう」


「連れ去るのが目的・・・」


 僕は、鸚鵡返しに答えていた。


「連れ去って、何をするのかはわからない。だがもし黒いアレの餌にするのであれば、図体のでかい大人の方が幾分はましなはずだ。それに、餌が目的ならば、アレ等が自分で来るだろうさ」


 そう言われてみればそうかもしれないな。

 でもそうなると、余計目的がわからない。


「ここからは、根拠も何もない俺のただの推測だ」


「どんな推測ですか?」


 ここまで来るのにほとんど無言だった三井さん。

 相手の目的を考えていたのだろうか?


「もし黒いアレが、人為的もしくは、それに近い形で生み出されたものならば・・・」


 そこで三井さんは言葉を止めた。


「まだいるのか」


 白い壁の穴までは、十メートルもないだろう。

 そこに、黒いアレの頭が見えた。


 宿泊部屋に一度戻るべきだった。

 研究所でもらったナックルダスターを持って来ればよかったな。

 今更後悔しても遅いけど。

 そう言えば、シルバーナックルって、そのまんまの名前が付けられていた。


「桐原、アレがこっち側に出てきてから倒すぞ」


「え? でも?」


「建物の中の構造がわからないからな。無闇に破壊するわけにもいかないだろ?」


「確かにそうですけど、出て来るんですかね?」


 どうやら杞憂に終わったようだ。

 白い壁の穴から、三体が順番に出てきた。

 一体ずつしか通れないとは、言え律儀だな。


 ところで、今回は特殊な攻撃をしてくる奴はいるのだろうか?

 それが一番の問題だ。

 一体なら、何とかなると思う。


 だけどもし大量に出て来て、あの攻撃をされたら厳しい。

 いくら、三井さんがいるとはいえこちらも無傷ではすまないと思う。

 その前に、倒しきれる自信も正直ない。

 三井さんがどう思っているのか、わからないけど。


 そう言えば、お屋敷は大丈夫なのだろうか?

 吹雪さんには、ちゃんと説明しておくべきだったと思う。

 今更、そんな事考えても遅いんだけど。

 そんな事を思いながら、僕と三井さんは、また、黒いアレとの対決を迎えていた。


-----------------------------------------


1991年6月1日(土)PM:17:10 中央区宮の森


 目の前に(ソビ)える、くすんだ白い壁。

 錆びて歪んだ扉。

 何かの、蔓の植物にかなり浸蝕されている建物。


「ちょっとした幽霊屋敷だな」


 場にそぐわない、眼鏡をかけたスーツ姿の男性。

 汗を吸い込み湿っぽいワイシャツ。

 隣の、着崩したスーツ姿の、ぼさぼさの茶髪の青年。

 彼の方が、まだこの場に相応しい。


「なあ兄貴、こんな所に建物があるってなんか不自然な気がしねぃ?」


「確かにな。見た感じ電気とかも届いてなさそうだが?」


「でも、いくつかの窓からは光りが漏れてるな? 自家発電って事か?」


 額の汗をスーツの袖で拭った、着崩したスーツ姿の青年。

 錆びて歪んだ扉の前に進む。

 どうやら、手書きで書かれたような縦長の看板。

 所々くすんだり、(カス)れたりしている。

 書かれている文字を全て判読するのは難しい。


「しかし、これ何文字だ? 日本語でもなければアルファベットとも違うし、兄貴読めたりする?」


「読めるわけがないだろ。俺もこんな文字は見た事ない。しいていうなら、若干ルーン文字っぽい気もするな」


「ルーン文字? 何だっけ?」


「俺もちらっと資料か何かで見ただけだから、何って聞かれても答えられない。そもそも、俺の記憶違いの可能性もあるしな」


「博学な健一兄様が、そこまで言うのも珍しい」


 何故か、してやったり的な表情の茶髪の青年。


「健二、おまえが思ってる程に俺は博学じゃない。買い被りすぎだ」


 茶髪の青年、相模(サガミ) 健二(ケンジ)の表情も特に気にせず、生真面目に答えた。


「まーたそうやって、過小評価致しますか」


「くだらない問答してる場合じゃないだろ。調べるぞ」


「あいあいさー」


 相模(サガミ) 健一(ケンイチ)は、錆びて歪んだ扉の左側に手を掛ける。

 彼の意図を察したように、健二は右側の錆びた扉に手を掛けた。

 同時に扉を引っ張る二人。

 しかし、錆びた歪んだ扉は、中々動く気配を見せない。


「引いても駄目なようだ。押してみよう」


 首肯した健二を確認した後で、今度は押してみる。

 しかし、錆びて歪んだ扉は、動く気配もなかった。

 何度か、押したり引いたりしても、動く気配のない錆びて歪んだ扉。


「なぁ、兄貴、ぶっ壊した方が早いんじゃないの?」


「扉は出来れば壊したくないな。この状況から、黒いアレは扉からは出れないだろうし」


「でもよ? アレが仮に蟻だとしたら、壁なんて普通に登れるんじゃないのか?」


「健二の言う事にも一理あるが、もしそうじゃなかった場合、扉は開いてない方がいいだろう」


「まぁ確かにそうだけど。それじゃどうするの?」


「とりあえず、建物の外周を一周してみよう」


「もしここが、黒いアレの本拠地だったとしたら、出入り出来る穴があるかもしれないって事?」


「そうだな。黒いアレの生態がわからないから、あくまでも可能性の話しだけどな」


「それじゃ、何もない可能性もあるって事ね」


 健一は、健二のその言葉に頷いた。


「黒いアレの数が分からないから、単独行動はしない方がいいかもな」


 健一は建物を正面に、右に進み始めた。

 それに倣って健二も、健一の後を少し離れて歩き始める。

 二人の顔には、若干の緊張と、幾ばくかの汗が浮かんでいた。

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