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Element Eyes  作者: zephy1024
第十八章 黒狼翻弄編
325/327

325.洋風-Western-

1991年7月25日(木)PM:18:54 中央区精霊学園札幌校時計塔五階


「そうか。とうとう候補を選んだか」


 ソファーに座っている二人。

 微笑んでいる一人は古川(フルカワ) 美咲(ミサキ)

 テーブルを挟んで座っているのは山茶花(サザンカ) 真野環(マノワ)


「私が契約出来れば良かったんだけどな。まさか許容量(キャパシティ)があるなんてな」


 少しだけ自虐的な面持ちの真野環。

 美咲は労わるような眼差しになる。


「どうしようもないさ。わからない事だらけなんだからな」


「それはそうだけどな」


「寧ろわかっている事の方が圧倒的に少ないんだ」


 テーブルの上にはコーヒーカップが二つ。

 美咲はその一つを手に取ると一口飲んだ。


「異装器の契約者が増えてくれれば、いろいろとありがたい事ではあるからな」


 同意するかのように真野環は頷いている。


「結果次第だが、どちらも納得の良く結果になるといいな」


-----------------------------------------


1991年7月25日(木)PM:19:03 三笠市桂沢国道四五二号線


「桂沢湖だっけーかー?」


 橋の上を走行する三台の乗用車。

 左側には小さな鉄橋。

 右側には両側を森に挟まれている湖。


 先頭の車の助手席。

 座っているのはアラシレマ・シスポルエナゼム。

 車のウィンドウは全て全開だ。


「なーんでわーざわざ匂いを辿らせーているんだろうかーね? 罠でーすよーて言っていーるよーなもんだーけども」


 国道四五二号線、通称夕張国道を南下していく。


「みんちゃん、どー思うー?」


 運転席でハンドルを握っている(ディ) 明興(ミンシン)

 後部座席には誰も座ってはいない。


「罠でしょうね。しかし、他に手掛かりはありません。行くしかないのでしょう」


「そーだねーい」


 備え付けられている無線機。

 今は静かで何も音を出していない。

 それでも車は時折くねりながら進んで行く。

 迷い無く走っている。


 やがて、幾春別川と時折並走し始めた。

 更に進んで行く三台の車。

 十分程進んだ車は左折。

 砂利道を無視して突き進む。


 進入禁止のゲート。

 どうやら事前に破壊されていたようだ。

 前輪が容赦なく破片を踏み潰した。


 両側を木々に囲まれた道。

 半ば無理やり進んで行く。

 五分程進んだ所で車はゆっくりと停車した。


 助手席の扉を開けたアラシレマ。

 車のエンジンを停止させた明興。

 彼も車から降りて歩き出した。


 他の二台の車も停車している。

 降車してきた黒いスーツ姿の八人が合流。

 計十人が砂利道を歩き始めた。


 歩いている間、会話一つない。

 黙々と進んで行く十人。

 アラシレマでさえも無言だ。

 しかし何処か、彼は嬉しそうに見える。


 二十分程進むと、突如森が開けた。

 そこには黒スーツが二人。

 背後には半ば蔦に侵蝕された古びた館。


「こーれーねー? 来る途中でほーかーの乗用車はなーかったけーど? 徒歩でこーこまで? いーやー? 罠なのかーなー?」


 少しだけ眉間に皺を寄せたアラシレマ。


「一緒にあった何なーのかわーからなーい匂いだーけ。中里博士夫妻と失敗作五体のかーおりーはなーいねぃ。ここにーはいないってこーとかー?」


 二階建てに見える洋風の館。

 外門は朽ち果てており、錆だらけ。

 蔦塗れの外壁は森とほぼ一体化している。


「まーいいやー。進んでみよーかー」


 外門を力任せに抉じ開けたアラシレマ。

 彼に続いて、残りの十一人も館の中に入ってく。

 外庭部分も様々な植物が侵蝕している。

 何かのオブジェなどがあるらしい。

 しかし、緑に覆われており、判別すら不可能だ。


「結構なー、広さーかーなー? A隊は正面かーらー、B隊はうーらーかーらー、それぞーれ一階よーろしーくねー。残りーは僕と二階にいーくよー」


 アラシレマの指示。

 即座に動き出した十一名。

 A隊の四人が正面扉を開け中に入ってく。

 B隊は左に二人、右に二人。

 二チームに分かれて裏側に走っていった。


 正面から堂々と進んで行くアラシレマ。

 埃が舞い上がる空間。

 正面扉が開閉された跡と、誰かの足跡。


「一人ぶーんのあーしあーと。やっぱーり罠なーのかなー? でも、こーんなのばーればれだーよね。僕達をこーの中によーびこんでどーしたーいんだーろ?」


 正面扉を抜けると大きなホールになっている。

 二階へ上がる階段は部屋の両側。

 正面にもいくつかの扉が見えた。


「ほーんと、洋風なー感じだーねぃ? こーんな山奥になーんでこーんな館?」


 二人一組で行動を開始するA隊。

 アラシレマは右側の階段へ進む。

 左側の階段へ歩き始める明興。

 残りの二人も左と右に分かれた。


 ホール一階の正面の壁には肖像画。

 何処か日本離れした顔立ちの女性。

 おそらく年の頃は二十歳前後だろう。


 かなり色褪せている。

 それでもわかった。

 何処か物憂げな瞳で前を向いている。

 おそらく肌は色白。

 髪の毛は茶系統のようだ。


「だーれなーんだろー? この館のあーるーじーなーのーかーなー?」


 ゆっくりと階段を進むアラシレマ。

 何とはなしに肖像画をじっと見ていた。


「かなり年代が経過しているようですね」


 左側の階段を進んでいる明興。

 埃の積もっている手摺に軽く触れた。

「そもそもが、何でこんな所にこんな洋館があるのかが疑問」


 二階に辿り着いた明興達二人。

 アラシレマは既に辿り着いている。

 右側の奥に進む廊下を進みだしていた。


 明興は左側に向かう廊下を進んで行く。

 見える扉は左右合わせて三つ。

 一つ目の扉に辿り着いた二人。

 頷きあった後、明興が扉を開けた。


 埃が舞い上がる。

 それだけで何もない。

 かつては誰かが住んでいたのだろう。

 ベッドといくつかの調度品が置かれていた。


 積もっている埃。

 誰かが侵入した形跡はない。

 窓もしっかりと閉められている。


「この部屋から謎の匂いはやはりしない。廊下の奥に進んだようだな」


 一部屋一部屋確認していく二人。

 しかし痕跡は何も見つけられない。

 ただ時間だけが過ぎていく。

 角を右に既に二回曲がっている。

 一番奥の部屋に辿り着いた二人。

 そこには既にアラシレマ達が到着していた。


「なーんなーんだろーねぃ?」


 かなりの広めの部屋。

 その中にいる四人。

 アラシレマの疑問。

 答えられる者は誰もいなかった。


-----------------------------------------


1991年7月25日(木)PM:20:01 中央区精霊学園札幌校競技場


 真円型の半径十メートルのリング。

 高さは五メートルある。

 リングは特殊な鉱石で生成されている。

 その為、かなりの硬度を持っていた。


 緊張した面持ちの桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)

 天拳(テンケン) (ホムラ)も落ち着かない素振りだ。

 二人は一応準備は完了している。

 リングの上で向かいあっていた。


 二人は、近未来的なプロテクトスーツを全身に纏っている。

 一月ほど前に、組手をした近藤(コンドウ) 勇実(イサミ)三井(ミツイ) 義彦(ヨシヒコ)

 二人が纏っていたものの改良型だ。

 その為、細部が微妙に異なっていた。


「案外視界確保されるものなんだ」


 独り言のように呟いた悠斗。

 五メートル程先には、焔が立っている。


「それじゃ、ルールを説明する」


 審判をするのは美咲。

 事前に真野環がお願いしていたのだ。


「リング外に落ちるか、降参するか、千点先に取った方が勝ちだ。それを装備しているから、大丈夫だとは思うが、状況によっては私の判断で試合を中止する事もありえる。また今回は能力の使用は一切禁止。使用したと判断した時点で反則負けとする。焔、このルールでいいんだな?」


「はい、お願いします」


 リングを円状に覆う観客席がある。

 しかし、観戦者は、観客席にはいない。

 リングの周囲に座っていた。


「それじゃ、二人とも準備はいいか?」


「はい」


「大丈夫です」


「コンバットスタート」


 予想外の古川の開始の合図。

 まさかの英語に一瞬唖然とする二人。

 模擬試合とはいえども、真剣勝負。

 戦闘に突入だという事を思い出すまで間があった。


 反応は焔の方が早い。

 一直線に突っ込んだ焔。

 右拳が唸りを上げた。


 五メートルを即座に詰めた移動速度。

 迫り来るストレート。

 予想外の焔の接近速度。

 一拍遅れて反応した悠斗は内心驚いていた。

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