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Element Eyes  作者: zephy1024
第十八章 黒狼翻弄編
324/327

324.条件-Qualification-

1991年7月25日(木)PM:18:14 中央区精霊学園札幌校第一学生寮男子棟四階四○一号


「えっ!? 殴り合いって?」


 山茶花(サザンカ) 真野環(マノワ)から発せられた。

 予想の斜め上の言葉。

 戸惑ってしまう桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)


「真野環姉様、それでは意図が通じないと思いますよ」


 淵無し眼鏡の、ミニスカート型のサロペット。

 何処か大人びた女性。

 彼女は真野環に視線を向けた。


「山茶花姉、髪がぐしゃぐしゃになるよぅ?」


 黒のベアトップキャミソールにまな板の少女。

 嫌がるような眼差しで真野環に視線を向ける。


「あぁ、そうだよな。殴り合いだけじゃ通じるわけないか」


 真野環は、撫でている頭を更に乱暴にした。


「ちょっと!? 真野環姉ってば?」


 抗議の声に、しばらくして手を止めた。

 少女の緑のショートヘアは、酷くぐしゃぐしゃだ。

 彼女は、手櫛で頑張って直し始める。


「そんなところで、立ち話ししてないで入ってもらったらどうですか?」


 背後から聞こえて来た声。

 雪乃下(ユキノシタ) (カク)だ。


「そうだな。そうしよう。お邪魔するよ」


「失礼します」


「お邪魔しまーす」


 悠斗の反応も待たない。

 靴を脱ぎ始めた三人。

 その光景に、諦めた悠斗。


 靴を脱ぎ始めている三人。

 先立って台所に向かった悠斗。

 嚇も含めた人数分の麦茶をコップに注ぐ。


「手伝いますよ」


 テーブルの上を片付けた嚇。

 彼も協力して、麦茶を運んでいく。


「男の部屋にしては、小奇麗だな」


 テーブルの前まで歩いた真野環。

 ぐるっと部屋の中を見渡した。

 背後には二人が並んでいる。


「改めて自己紹介する。高等部一年一組担任、山茶花(サザンカ) 真野環(マノワ)。担当科目は保健体育だ。ほら、お前達も自己紹介」


 一礼した淵無し眼鏡の女性。

 微かに胸が揺れる。


「私は天拳(テンケン) (カスミ)です。霊装器名もそのまま天拳霞(テンケンカスミ)。篭手型霊装器です」


 再び彼女は一礼した。

 白のペプラムシャツに、薄いピンクのシュシュスカートの彼女。

 悠斗と嚇は、真面目な印象の彼女を、大人びていると感じた。


天拳(テンケン) (ホムラ)。篭手型霊装器で霞姉とは姉妹篭手。天拳焔(テンケンホムラ)が霊装器名」


 黒のベアトップキャミソールに青のデニムのホットパンツ。

 無い胸を前に突き出す。

 本当にまな板だ。


「霊装器で姉妹!?」


 首を傾げた嚇。

 悠斗も彼と同じ疑問を抱いた。


桐原(キリハラ) 悠斗(ユウト)君は知ってるからいいとして、君は同室の雪乃下(ユキノシタ) (カク)君でいいのかな?」


 真野環が嚇を見る。


「あ、はい。失礼しました。そうです。雪乃下(ユキノシタ) (カク)です。どうぞお座り下さい」


 嚇の言葉に、三人が座る。

 彼と悠斗はその後に椅子に腰掛けた。

 椅子は四つしかない。

 その為、嚇は別の椅子だ。

 以前悠斗が練習で作り上げた、鉱石製の椅子に座っている。


「それで君の疑問だが、霞と焔は、同じ製作者による霊装器なんだよ。だから姉妹なのさ」


「なるほどです」


 彼女の話しを聞いている悠斗。

 同時に、何故殴り合いという発想に至るのか考えている。

 しかし、いくら考えても結びつかない。

 とりあえず、彼は麦茶を一口飲んだ。


「それで霊装器なのはわかりました。けど、それと殴り合いが結びつかないんですけど?」


「殴り合いって聞き間違いじゃなかったんだ」


 嚇の呟きに、苦笑いの悠斗。


「真野環姉様が説明しても勘違いされそうなので、私がお話しします」


「霞も言うようになったな。出会った頃はおどおどしてたのに」


「その話しを今するんですか!?」


 霞は過去を思い出して赤面した。

 くすくすと笑っている焔。

 どうしていいかわからない悠斗と嚇。


「あぁ、それでだな。殴り合いって言うか? 手合わせだな」


「手合わせ?」


「真野環姉様、それでは言い方を変えただけに近しいですよ」


 麦茶を一口飲んだ霞。

 咎めるように口を開く。


「私が桐原と手合わせしたいんだ」


 会話に入りこんできた焔。

 その後、ゴクゴクと麦茶を飲んだ。

 彼女の声に違和感を感じ始めた。

 何処かで聞いた事があると感じ始める悠斗。


「あ!? ありあベーカリーでの囁きだ。私は拳を預けるもの。あなたなら拳を纏うものになれるかもだっけ? あれ、君じゃないの? 焔さん」


「うん、そうだよ。私」


「あれは一体どうゆう意味?」


「そのままの意味」


「焔ったら。それじゃ通じないでしょ。桐原さん、ごめんなさいね」


 詫びる霞と不貞腐れる焔。


「それはいいんですけど、どうゆう意味なんですか?」


「桐原さん、雪乃下さん、異装器についてはどの程度ご存知ですか?」


 質問を質問で返されて戸惑う悠斗。


「たぶん、二人とも授業で知る程度だと思います」


 悠斗を見かねた嚇。

 彼が代わりに答えた。


「異装器ってのはな、同じ異装器でも扱う人間の力量で強さが変わる。これはわかるな?」


 真野環の言葉に頷く悠斗と嚇。


「異装器の中でも、一級と呼ばれている物には人格が宿っている。この二人や陸霊刀のように」


 霞が悠斗、嚇の順に視線を向ける。


「人格がある以上、二級以下の異装器と違い、属性の他、性格的相性やお互いの信頼関係、様々な要素が絡んでしまいます」


「私の霊力は土、こいつらも属性は土だから最初の条件はクリアしてるんだけどな。許容量(キャパシティ)に問題があったんだ。一度二人と仮契約した事があるんだがな。私が持たなかった。一人が限界のようだ」


 苦笑いの真野環。


「持たなかった?」


 疑問口調の嚇。


「封印されているとかの状態ならば別ですが、こうして肉体を持つ以上、保持する為の力が必要になります。しかし、本来の姿が生物ではなく無生物である為、力を蓄えることは可能でも、自らで生成する量は極微妙なのです。いえ、もしかしたら生成する事すら出来て無いのかもしれません」


「生成の可否はともかくとして、維持する為の消費量が上回っているって事ですか?」


 難しい表情の悠斗。

 何処か苦々しい顔だ。


「桐原さん、どうされましたか? 何処か表情が」


「あ? すいません。ちょっと嫌な事思い出したので」


「こないだの陸霊刀の事だろうな」


 全てを知っているかのような真野環。

 悠斗は少し躊躇った後、頷いた。


「私も報告上でしか知らない。だが、間に合わなければ陸霊刀の人格は消失していただろう」


 一瞬暗い顔をした真野環。

 だが、瞬時に元に戻った。


「三人は土属性。山茶花先生は一人が限界。維持する為には、同じ属性の人間と契約が必要って事ですかね?」


 答えを尋ねるかのように、言葉を紡いだ悠斗。

 三人は、ほぼ同時に頷いた。

 喉が渇いてきた嚇。

 麦茶を三分の一程飲んで、喉を潤す。


「この場で他に契約可能なのは僕って事になりますけど、そこと手合わせが結びつかないんですが?」


 麦茶を二口飲んだ真野環。

 二回喉を鳴らす。


「そうだな。簡単に言えば、焔が君の実力を見てみたいって事だ」


「私達は戦う為の道具。預けるものも纏うものも、お互いの実力を認め合う必要がある」


「焔はそう考えてるわけだ」


 何故か苦笑いの真野環。


「なるほど。僕としてもある意味では、有り難い申し出になるのかな? 焔さんに認められればにはなるけども」


「それじゃ手合わせしてくれる?」


「余り気は進まない気持ちもありますけど。そうしないと納得しなさそうですしね」


 悠斗の手合わせを受ける理由。

 聞いた焔は不満げに頬を膨らませる。

 彼女の態度に、彼は苦笑いになった。


「そうか。それじゃ、場所を確保するとしようかな。電話借りてもいいか?」


「どうぞ。お使い下さい」


 即座に反応した嚇。

 感謝の意を伝える真野環。

 受話器を持つと素早く番号を押す。


「あぁっと、高等部の山茶花だ。模擬戦したいんだが、どっか開いてるか?」


 無言のまま、麦茶を飲む霞。

 ずり落ちた眼鏡を戻す。


「そうか。わかった。今日二十時で問題ないんだな?」


 耳に聞こえた今日二十時というフレーズ。

 驚きの悠斗と、屈託無い笑顔の焔。


「了解した。ありがとな」


 真野環は受話器を置いた。


「今日二十時で問題ないそうだ。構わないかな?」


 まさか本日中になるとは思わなかった悠斗。

 頷くまで、少し間があった。


「まぁそう不安になるな? 模擬戦だからな。場所は中央にある競技場だ。一応時間前に迎えに来るが?」


 悠斗が反応するまでほんの少し間があった。


「わかりました。それじゃ、ここには僕も嚇もいないと思うので、この学生寮の一○一号でお願いします」


 首を傾げた真野環。


「一○一号?誰だったか?」


「義彦の部屋ですね」


「あぁ、三井か。了解了解。それじゃ、また後でな。麦茶ご馳走様」


「ご馳走様でした」


「また後で」


 突如、訪問して来た三人。

 嵐のように去っていった。

 見送る嚇が戻ってくる。


「何か面白い事になりましたね」


「面白いのかなぁ?」


「当事者じゃありませんから」


 微笑む嚇と、苦笑いの悠斗。


「それ何か酷いんじゃないの?」


「実際のところ、悠斗の実力、ちゃんと見た事ないですからね。楽しみですよ」

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