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Element Eyes  作者: zephy1024
第十八章 黒狼翻弄編
319/327

319.外出-Outing-

1991年7月26日(金)PM:13:11 中央区特殊能力研究所円山宿舎二一○号室


 台所で食器を洗っているブリット=マリー・エク。

 かなり手馴れた動作で勤しんでいた。

 相模(サガミ) 健二(ケンジ)はテーブルに座っている。

 彼女のいれたコーヒーをおいしく飲んでいた。


「んで? 札幌の街をエスコートって、どっか行きたい場所とかあんのかよ?」


 皿洗いを終えたブリット=マリー。

 彼女が歩いてきたのを見計らったようだ。

 健二は彼女に声を掛けた。


「行きたいところ。そうですわね? 動物園とか遊園地とか行って見たいですわ」


「動物園に遊園地ね? 近場なら動物園は円山、遊園地なら中島公園になるか」


 顎に手をあて少し考えた健二。

 とりあえず思いついた二箇所を口にした。


「遠出すればでかい所もあるけどな。だが、余り遠出をするのもまずいだろうし」


「あと豊平川の川縁も歩いてみたいですわ」


 健二は、コーヒーを一口飲んだ。


「それじゃ、中島公園行ってから、豊平川か」


「エスコートしていただけますの?」


 少しだけ嬉しそうなブリット=マリー。


「するっつったんだ。二言はねぇよ」


「ありがとうございます」


 無邪気な笑顔のブリット=マリー。

 健二も無意識に少しだけ笑顔になっていた。


「それでは、少しシャワーをお借りしてもかまいませんでしょうか?」


「ん? あぁ、しょうがねぇな。バスタオルとかあんのか?」


「いえ、小さいタオルなら」


「うちにあるのでいいんなら、バスタオル出してくるぞ?」


「よろしいのですか?」


 少しだけ申し訳なさそうなブリット=マリー。


「気にすんな」


「はい。ありがとうございます」


 彼女は、テーブルの側まで歩いてきた。

 そこで、服を脱ぎ始める。

 彼女の突然の行動。

 口に含んでいたコーヒー。

 思わず吹き出しかけた健二。

 口の中のコーヒーを一気に飲み下す。

 焦り気味で口を開いた。


「お前に羞恥心とか恥ずかしいとかいう気持ちはないのかよ!?」


「え? 羞恥心ですか? 何故恥ずかしがる必要が?」


 既に全裸のブリット=マリー。

 脱いだ服を畳むと椅子の上に置いた。

 二の句を告げなれないままの健二。

 目を離すことも出来ずじっと見ていた。


「それでは、シャワーお借りいたします」


 健二の視線も何処吹く風だ。

 歩き出したブリット=マリー。


「何でしょうか? 健二様にじっと見られていると、少しだけほんの少しだけ体を隠したくなったのは何でしょうか? あそこにいた頃は、男性に体を晒す事もありましたのに」


 囁くように呟いたブリット=マリー。

 健二にはもちろん聞こえていない。


「あぁもう、なんでこんな事になってんだよ? わけわからん」


 ブリット=マリーがシャワーを浴び始めた。

 聞こえてくる水の音。

 健二は誰に言うでもなく愚痴り始めた。


「くそ。バスタオル用意するか」


 立ち上がると別の部屋に移動する。

 タンスを通り過ぎた。

 紙袋の中に突っ込んだ手。

 新品のバスタオルを二枚取り出した。


「迪さんがわざわざ買ってきてくれたもんが役に立つとはな。すぐに使わなくて正解だったのかね?」


 タンスの上に置かれている事務用洋鋏。

 無造作に握ると、値札などの邪魔物を切った。

 バスタオルを片手に、再び歩き出す健二。

 浴室の前に立つと、シャワー音が聞こえてくる。

 曇りガラス越しに動いているブリット=マリー。

 彼女に聞こえるように話かける。


「バスタオル、洗濯機の上に置いておくからな」


 数秒して聞こえてくる声。


「健二様、ありがとうございます」


 ブリット=マリーの声を聞いた健二。

 洗濯機の上にバスタオルを置いた。

 ゆっくりとテーブルに戻る。

 だらりと椅子に腰掛けた。

 更にコーヒーの残りを、喉に流し込んだ。


 冷たい物で喉を潤したくなった彼。

 立ち上がると冷蔵庫の前に移動した。

 冷蔵庫を開けた健二。

 彼は驚きの余りしばらくフリーズしていた。


 視界の端に見えた見知らぬ物。

 フリーズしていた思考が徐々に理解する。

 見慣れぬ旅行鞄だと気付いた。


-----------------------------------------


1991年7月26日(金)PM:13:56 中央区特殊能力研究所円山宿舎二一○号室


 シャワーから出てきたブリット=マリー。

 バスタオルを、体に巻きつけている。

 もう一枚は、濡れた髪の毛を纏めていた。


 健二は、テーブルでスポーツドリンクを飲んでいる。

 CDプレイヤーから聞こえてくるのは邦楽。

 音楽のジャンルとしてはロックだ。


「ドライヤーはそっちの部屋。勝手に使え」


 ペットボトルを握りながら指差した健二。

 非常にぶっきらぼうな言い方だった。


「はい、ありがとうございます」


 彼の言い方にも、ブリット=マリーは気にした様子はない。

 健二の指差した部屋に入っていく。

 頭を巻いているバスタオルをはずす。

 髪の毛を乾かし始めた。


 ドライヤーの音を聞きながら、溜息を溢した健二。

 片手で頬杖をつき、冷蔵庫を見ていた。


「そういや、ヘアブラシどーすんだ?」


 立ち上がると、ブリット=マリーのいる部屋に入る。

 案の定、彼女は手櫛で髪を乾かしていた。


「これ使え」


 未開封のヘアーブラシを取り出す。

 健二はブリット=マリーに押し付ける。

 そして再びテーブルに戻った。


「お気遣いありがとうございます」


 背後からそんな声が聞こえてくる。

 健二は、片手を上げる事で彼女に答えた。


 髪を乾かし終わったブリット=マリー。

 頭に巻いていたバスタオルを手に戻ってきた。

 バスタオルは綺麗に畳まれている。

 何か言おうとした健二。

 だが、結局口を噤んだままだった。


 彼が見つけた見慣れぬ旅行鞄。

 その前で屈んだ彼女。

 中から何かを取り出し始めた。


「やっぱり、お前のかよ? ったく」


「はい。着替えは必要かと思いまして」


「あぁ、そうかよ」


 彼女の両手には、薄い青紫の下着と濃い青紫の服。

 手に持つ下着と服を、一度テーブルの上に置いた。

 体に巻きつけていたバスタオルがパサリと落ちる。

 またかよと思いながら、健二はコーヒーを口に含んだ。


 彼の内心など気にする様子もない。

 ガーターベルト、ストッキング、パンツ、ブラジャー。

 順番に、薄い青紫の下着を着ていくブリット=マリー。

 濃い青紫の、背中が露出しているワンピース型のドレスを着る。


「なぁ、ブリット=マリー・エクさんよ」


「ブリットもしくはマリーと呼び捨てにして下さいませ」


 裾を持ち上げ一礼する。


「あぁじゃ、ブリットよ。とりあえず羞恥心持てや。安易に人前で下着姿や裸にならねぇほうがいいぞ。道徳的にとかいろいろと理由はあんだけどよ」


「大丈夫ですわ。ここにいるのは健二様だけですから」


 内心で頭を抱える健二。


「いや、そうゆう問題じゃなくてよ。あと、様はいらねぇ。むしろつけられるとむず痒いって」


 彼の言葉に、左右に首を傾げるブリット=マリー。


「それでは相模? 健二? サガミン? ケンミン? 健二ですわね。これがしっくりきます」


「あぁもう、それでいいや」


「健二」


「あぁで、ブリットよ」


「はい」


「冷蔵庫の中身はお前の仕業か?」


「健一お兄様、迪お姉様から食生活が余りよろしくないと伺っておりましたので。ご迷惑かとは思いましたが、整えさせて頂きました」


 再び、裾を持ち上げ一礼するブリット=マリー。

 心の中で、糞兄貴カップルめを連呼する健二。

 ブリット=マリーがお兄様、お姉様と呼んだ。

 その事にまで意識が回らなかった。


「あぁ、もういいや。歩きで行くけど、いいか?」


「喜んで」


 屈託のない笑顔のブリット=マリー。

 諦めた健二は、財布と家の鍵をポケットに入れる。

 その後でカーテンで隠れている半開きだった窓を閉めた。

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